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お笑いに正解はあるのか?問題


お笑いに正解はあるのか?

芸人の間でも、お笑いファンの間でも、しばしば議論になる問題です。
大抵は、お笑いに正解はない、だから難しい、と穏便に決着します。

果たして本当にそうなのか?と提言するのが本稿の主旨です。

結論から先に申し上げますと、
お笑いに正解はあります。

厳密には、唯一無二の絶対的な正解はないが、多種多様な形で複数の正解がある、ということです。

例えば、大喜利は複数の正解があるお笑いの最たる例でしょう。
お題に対して一番良かった答えを後で決めることは出来ますが、良い答えは複数出ます。
お題に対する正解が一つしかなかったら、それは大喜利ではなく、クイズです。

実際のところ、舞台に立ってる者の感覚としては、ネタにしても、トーク、大喜利にしても、正解を探すというより、不正解を如何に引かないか、に腐心していることが大半です。
···まぁ、腐心なんて言い方は醒めるかもしれませんが、何も考えずに天賦の才だけでやってると言えば、嘘になりますから。

その時々の状況判断力を上げるしかないんですよ。
ネタにしても、どういう主旨のライブで、どういうネタをやるか。
平場では、思い切って前に出た方が良いタイミングなのか、一歩引いた方が良いのか。
状況判断の精度を上げることで、不正解を引く確率は下げられるんです。

結局、「お笑いに正解はない」ときっぱり言い切るのは、何処か逃げ口上っぽい気がするんですよ。
正解を探し続けるのが本筋だろう、と。
誰よりも自分に言い聞かせてるんですけど。

こういう機会なので、ネタ作りについても触れます。
1年目〜2年目くらいの新人時代のネタ作りは粗製濫造でも良いです。
100本作って、その中に1、2本でも後々までやれるネタの原型が出来れば御の字だと思います。

どのジャンルでも、最初から100点満点を出そうとして、がんじがらめになってる人、多いんです。
1年に1回、100点満点を出すより、1週間に1回、60〜70点をコンスタントに出し続ける方が絶対、後に繋がります。
単独ライブを毎回、興行として成立させられるくらい、キャリアもファンベースもしっかりある芸人なら、年1回の単独ライブが毎年の総決算で全然良いんですが、エントリー制のライブで修行中の芸人は、質にこだわるより、数を打つことを重視した方が良いです。
偉そうに聞こえるかもしれませんが、毎回80点以上をコンスタントに出せない、天才型とは程遠い若手芸人である自分の実感です。

テレビゲームに疎い方には分かり辛い例えで恐縮なんですが、ドラクエシリーズでレベル上げをする時、多くの人はメタルスライム狩りに勤しみます。
しかし、メタルスライムは出現率が低い上に、出現しても、逃げられるリスクも高いです。
メタルスライム1匹の経験値は約1000。1時間でメタルスライムを1匹倒すより、経験値50の他のモンスターを30匹倒す方が結果的にレベル上げの効率が良くなることが、ままあるんです。

これが先述した、1年に1回の100点満点より、毎週60〜70点を出し続けろ、という話に繋がるんです。

まぁ、毎回80点以上は当たり前、平場でもスベり知らず、という方からすれば釈迦に説法ですし、この記事を読むのも途中で切り上げてるでしょう。

お笑いに対する(特にネタへの)評価には、絶対評価と相対評価があります。
前者は「とにかく面白い、または面白くない」
後者は「〇〇より面白い、または面白くない」
審査員が採点、投票する賞レースの決勝は、絶対評価と相対評価のミックスと云えるでしょう。
ライブでのネタのウケは、お客様1人1人の絶対評価の集積です。
舞台上の芸人が体感する「どっ!」という笑い声に嘘はありません。

芸人としては当然、自分が面白いと思うネタを披露するんですが、思うようにウケない、ハマらないということが当然のようにあります。

初めて披露したネタがスベった時は、そもそも発想からして、根っから底から全然面白くないのか、部分的に直せば良くなる余地があるのかを検証したりするのですが、難しいのは、1度でもウケた経験のあるネタがスベった時です。

噛んだり、間が変だったり、明らかな技術的ミスがあったわけではないのに、ウケなかった。
先週のライブであんなにウケたのに何故!?
後になって考えれば、お客様の年齢層や男女比などを読み違えた結果の、ネタのチョイスミスが殆どの原因なんですが、スベった時はそれはもう、被害者意識たっぷりにヘコむわけですよ。

芸人にとって、ネタは我が子同然です。

そのネタがスベるのは、中学、高校と偏差値の高い学校を卒業させて、礼儀作法もしっかり教えたはずの我が子が犯罪者になるなんて信じられない!という、親の心境に通ずるものがありますね。
子育ての経験はないので、説得力のない例えかもしれませんが。

ともかく、諸々の難しさを「まぁ、お笑いに正解はないから」で片付けたくないんです。ウケりゃいい、スベったらしゃあない。そういう結果オーライのスタンスを認めたくない。

お笑いなんだから、難しいこと考えずに楽しくやればいいじゃん?と言われるかもしれませんが、それは見る側の、お客様側の理屈です。
芸人としては、何の考えも準備もなしに舞台に立つことは出来ません。

そりゃあ、僕だって、考えるより先に口が動いて、何か言う度に周りはみんな大爆笑!だったら、どんなに良いかと思いますよ。

そもそも、知名度の低い若手芸人がお笑いについて公の場で語るのは、正直なところ、リスクの割に見返りが少ない行為です。
ただ、お笑いについて語る権利があるのは、売れてるか、賞レースで実績のある芸人のみ、という状況に対する違和感を表明すること自体には意味があると思ってます。
それに、「売れた途端ベラベラ語るようになった」と言われるくらいなら、売れてない今のうちに形にして残す方が良い、という判断でもあります。

10年後くらいに、この文章を読み返して、自分でも
「初々しい奴っちゃなぁ」と思えれば幸いです。

これからも数少ないお笑いの正解を探しながら頑張ります!

御精読ありがとうございました!








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