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認知症フレンドーテック第二回ハッカソンに参加して

認知症フレンドリーテック第二回ハッカソンに参加した。自分自身は「誰でも楽しく買い物ができる仕組み作りーLINEでつながる関係性」のチームに参加した。

少し長い文章になるが、興味のある方はお読みください。

 ハッカソンでは認知症の方が日常生活を安心してすごすために有効な支援をITテクノロジーの領域から取り組んでいる。

認知症ケアの関係者とテック関係者がチームを作り、「缶詰」となり、開発を競う取組であり、コンテストでもある。私も昨年から参加させていただいている。

上記したように私が参加したチームの作品はwelzo賞をいただいた。

認知症の方が買い物に行ったり、食事に行ったりする時、乗り物で移動する時にお金を払わないということがある。買い物の場合は、万引きであり、食事の場合は無銭飲食、移動の場合は無賃乗車となる。警察に捕まったり、家族ともども店に出入り禁止になったりする。多くは問題行動として処理され、当事者への行動が制限されたりもする。悲しいことだ。

私にも経験がある。

私の父は45年ほど前、50代のときに認知症になった。山口県の岩国市在住だった。法事かなにかで広島の行った時にいなくなり、みんなで探し回り、母の機転でホテルのバーにいったら案の定飲んでいた。

言葉もままならず、お金をもってなく、けれども、50代で認知症なので、とても「ボケ老人」(当時は認知症という言葉もなかった)にはみえず、母のプライドでバリッとした格好をさせていたので、「普通」に見えたようだ。父は言葉もままならなかったが、禁酒させられていたこともあり、とにかく、とにかく、「酒が飲みたかった」ようだ。

そこで金も持たず(持たされず)、言葉もままならない父は、昔取った杵柄で酒を昼間から飲めるのはホテルのバーしかないとわかっていたようで、ホテルのバーに直行し、「となりのテーブルの人の飲み物を指差し」「同じものが欲しい」と指示し、おかわりが欲しい時は「指を鳴らし、店の人を呼ぶ」という行為を繰り返し、飲み続け、見つかった時はベロベロになっていた。母の「この男は飲みに行くに違いない」という「察し」の「当たり」が、父を無銭飲食で警察沙汰に巻き込むことを防いだ。「万引き」「無銭飲食」という「犯罪行為」を犯罪行為にすることなく、認知症の方のチャレンジング行動(社会環境が適応すべきという行動による表現)として捉える。これは私自身の経験からも大事なことだと思っている。

ただ、いつもこのような「当たり」があるわけでなく、人が常についておられないこともある。

わたしの所属したチームでつくったのは、この未払い行動をLINEを利用した認知症の方への支払いの促しや店の方への来店の通知、対応へのアドバイスをすることで、未払い行動をなくしていくアプリである。

ブルートゥースの通信方式であるビーコン、あるいは大きな店舗では顔認証のAIで地域の店舗に本人を登録していただき、その方が来店された時に、店舗の職員に対応の方法や認知症理解についての注意を流し、会員であるので個人のことも流す。支払いボタンを押さず店舗をでようとすると孫の声でお支払い忘れてないと喚起する(あるいはビーコンから離脱したときに声がでる)という方式である。職員へのメッセージは全てChatGPTで、認知症への理解や、同意があれば、その方の個人的情報も流せるようにした。

例えばこんな感じ

「認知症の方が来店された際には、以下の対処方法を参考に対応してください。

1. 注意事項を確認する: お客さまの特徴として「店内を徘徊したのち未払いで退店されることが多い」とありますので、この点に特に注意が必要です。

2. 追跡対策を行う: お客さまが店内を徘徊してしまうことを防ぐため、スタッフが気を配ってお客さまの行動を観察し、適切なタイミングで声をかけて誘導することが重要です。もしもお客さまが退店を試みた場合は、迅速に対応し、支払いが済むまで店内に留まるよう誘導しましょう。

3. 支払い方法の確認: お客さまがスマホと一緒にお金を持っていることがわかりましたので、スタッフにはスキャンや電子マネーなど、スマホを利用した支払い方法に精通していることが求められます。スマホ決済の仕組みを理解し、適切にサポートすることが大切です。

4. 安心して買い物できる環境づくり: 認知症の方にとっては、騒がしい環境や刺激の多い場所は不安を引き起こすことがあります。店内の明るさや音量、人ごみの密集度などを調整し、落ち着いた環境を提供しましょう。

5. スタッフ教育の重要性: 店舗内の全てのスタッフに、認知症患者への適切な対応方法をしっかりと教育することも重要です。また、認知症患者への理解を深めるためのトレーニングや情報提供を行い、スタッフの意識向上を促しましょう」

ただ、コンビニで働く方達の多くは外国人なのでこれでは難しすぎるのではないか、というテック開発の方への質問に対しては、以下のことを教えていただいた。

「この後、渡しているプロンプトを修正して、本番のデモに反映できるようにします。 書き込みを続けていれば学習される可能性は非常に低く、こちらがChatGPTに渡す時のプロンプトで工夫をしていくしかないかと考えています。 地道な作業にはなってしまいますが、望ましくない表現をリストにして逐次弾くように対応する形になるかと思います。 web上での記載がより正確となることが望めるのであれば、web検索した結果をChatGPTの出力に反映させることもできるようになってきているので、そこで対応できるとも思います」

いずれにしても、認知症の方が安心して買い物を楽しめる環境を提供できること、また、お客さまの負担やトラブルを最小限に抑えることができると思った。

これは、店舗側にとってお金もかからずいいシステムであると同時に、コミュニティ=地域、つまり買い物するお店であったり、飲食する店舗で、未払いを万引き、無銭飲食とされ、警察沙汰になったり、店への出入り禁止を通告されたりすることを減らせる可能性がある。その改善を職員へのあたりまえの対応方法のレクチャーや認知症への理解を促し、認知症の方が買い物をするという行動自身を抑制する(財布を取り上げる、外出を禁止する)などではなく、たとえ、買い物をして、支払いをするという社会行動の認知力の低下があっても、お店と地域と本人を支援するITアプリを連動して、アシスティブ・テクノロジー=行動支援テクノロジーになればと思った。

そもそも「未払い行動」がおこる認知症の方の側の原因として、
①緊張したり、他のことに集中して「支払いをする」ことを忘れている。これに対しては、店員さんも含めた周囲の促し、アプリの声などによる注意喚起で対応できる。
②認知症の進行や他の精神症状の合併などにより、そもそも「買い物をする」という社会的行為の認知力が低下し、物をカゴに詰める、たくさん物を集めるというような欲求が優先してしまっているケースは注意喚起や周囲の促しのレベルではなく、意思決定支援も含めた生活行動支援(認知症介護に近い領域)が必要になると思わう。

そうなられていても、周囲のやさしい関わり次第では、「未払い行動」になるのではなく、支払いを支援するという形で、ご本人の意思決定、行動支援をしていくことも可能かと思った。

この第2回ハッカソンには、たろうクリニック院長で精神科医の内田直樹先生、アシスティブ・テクノロジーの本を書かれてる言語聴覚士で権威の安田清先生や認知症の歩き方の本を監修した筧裕介さん、福岡市の認知症支援課の笠井課長も参加され、大変勉強になった。
同じチームには認知症サポートセンターの阿部さんやテック開発者で販売店にお勤めの渡辺さん、東京からオンラインで参加された佐藤さんもおられ、テックとケアのチームとして頑張れた。

実は、チームに参加する前に、アイデア出しがあり、私は以下のアイデアを出した。

それは以下である。

・食事を摂りたがらない方に促し、横に座り、食事動作を支援してくれる会話をしてくれるロボット
・お風呂で体を洗うことや髪を洗うことを忘れてしまったからに自分でお風呂を入れることを支援する入浴支援ロボット
・徘徊して帰ることを忘れてしまった人に感知して、迷った場所から自宅ないし知っている場所に誘導できるスマホのアプリ
・トイレの必要な動作をわすれてしまっている人にトイレの動作ごとの支援を音声映像で促すシステム
・ペットと同等な親近感がもて、世話が必要のないが、さまざまな日常的な行動を音声や動きで支援してくれるパートナー型ペットロボット
・自分の昔の映像を自動的に検索し、音声で「これがみたい」と呼び掛ければ自動的に再現してくれるシステム
・不眠の方に、ベッド横で安心を促し、入眠を助けることができる目覚まし型のロボット
・安田先生がおっしゃっていた昔の顔を自動的に表示し、昔のエピソードも再現し、記憶障害からの不安を解消していくアプリ
・安眠がうながせるような語りかけ、温度、匂いをだしてくれる抱き枕
か。

どちらかというと認知症が重度化した方達に起こる「失認・失行」という状態は、日常生活を営む上において「厄介」なことである。これを解決してくれる「アシスティブ・テクノロジー」が開発されれば大変良いのではないかと思っている。

上記した安田清先生には『MCI・認知症のリハビリテーション Assistive Technologyによる生活支援』という著書がある。この本は「知恵袋」のような本だ。例えば「常同的な独り言やうなり声などとのコミュニケーション」(106頁)では、「常同的な語や発声を音楽的に変換して返すというインタラクションシステム」が紹介されている。これは重度の認知症の方だけでなく、自閉スペクトラム症の方達にも有効なテクノロジーである。

上記したような私のアイデアは、安田先生の本からのインプレッションでは、VRが有効なのではないかと思った。

私も2018年に人工知能を使ってケアマネージャーのケアプランを作成する取り組みを行い、その延長線上に、電力センサーデーターを活用した在宅モニタリングシステムの実証実験に参加したことがある。

このシステムでは、在宅独居高齢者の生活実態を家庭で使う電力のセンサーデーターで把握し、認知症のアセスメントや介入方法の選択を支援することが目的だった。ケアマネージャーの居宅介護支援計画書の第3表に反映するが、独居であるため第三者には分からない日中や夜間の行動様式や睡眠状態を把握し、AIが項目を提示して評価や介入の援助を行う実験だった。

認知症の周辺症状の悪化やADLの低下レベルの区別、電力センサーレベルによる検知の精度などが課題となり、さらに、中核症状やBPSDの症状の進行や、それとは異なる心身状態の悪化と区別がつきにく課題も残った。

以下は当時の私のメモである。
参考にしていただきたい。

以上、長文となりましたが、お読みいただきありがとうございました。
2023年8月13日記
岡部廉
追記 今日は父の誕生日だった。生きていれば95歳。

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# センサーとAIによる在宅モニタリングシステム実証実験 メモ
20181226
株式会社ケアリング 岡部廉

## 1、位置付け
センサーデーターにより在宅独居高齢者の生活実態の把握を通して、アセスメント、ケアニーズに対するモニタリング機能

独居認知症高齢者の在宅における生活実態の行動分析を通して、その認知症の周辺症状の悪化、うつ傾向、睡眠障害などのアセスメントを行い、適正に介入方法の選択の支援を行う。

独居であるがゆえに第三者にはわからない日中、夜間の行動様式、睡眠状態がわかる。行動様式、睡眠状態からAIが「判断」すべき項目を提示し、評価、介入の援助をする

### 2、課題
・認知症の周辺症状の悪化の判断と、そうではない改善可能な行動様式の悪化をどう区別するか。
・一般的なADLの低下レベルもセンサーデーターにより、推測できるか。FIMの運動項目別の難易度は「階段、浴槽移乗、清拭、歩行/車椅子移動、下半身更衣、上半身更衣、トイレ動作、ベッド移乗、整容、排尿コントロール、排便コントロール、食事」の順になっている。これを踏まえて、2階に上がらなくなっている、風呂に入りにくくなっている、風呂に入らなくなっている、部屋を移動しなくなっている、着替えをしなくなっている、トイレを我慢するようになっている、等などの指標をセンサーで把握できるか。
・電力センサーレベルでは、「いる」「いない」「起きている」「寝ている」「いるけれど、動いていない」が把握できるか。
・ICFの「活動と参加」→「セルフケア」→「d570 健康に注意すること 身体的な快適性は健康および身体的・精神的な安寧を確保すること。例えば、バランスのとれた食事をとること。適切なレベルの身体活動を維持すること。適切な温度を保持すること。健康を害するものを避けることetc」,その詳細項目の「d5700 身体的快適性の確保」「d5701 食事や体調の管理」「d5702 健康の維持」の指標とセンサーデーターを結びつける「物差し」を決定する必要はないか。
・電力センサーで「どの家電をいつ使ったか」がわかるとすれば、その家電の「使用」「不使用」「イレギュラーな長時間使用」「イレギュラーな長時間不使用」などが何を意味するのかを特定できるか(センサー情報から行動ステータスへの変換の指標)
<例>
冷蔵庫       食事(d5701)、水分補給、日中活動
風呂(エコキュート)保清
電話        受信できるが、発信できない(認知レベルの低下)
          参加、活動、移動、抑うつ状態
こたつ       身体的快適性の確保(d5700),、付けっ放し、出しっ放し
エアコン      夏つけない(脱水、熱中症)、冬つけない(活動性)
テレビ       付けっ放し(認知レベルの低下)
掃除機       身体的快適性の確保(d5700)
照明全般      「いる」「いない」、活動性全般、昼夜逆転
洗濯機       身体的快適性の確保(d5700)

#### 3、認知症との関連
・認知症とは、「脳の機能低下→認知機能の低下(記憶、見当識、理解判断力など)→生活障害」の段階での症状の進行がある。
・その場合、「中核症状」と「BPSD」については、認知症の症状の進行という観点では、「中核症状」は病気の進行とともに悪化し、現状では治療法はないと言われている。「BPSD」は、周辺の関わり、介護の仕方などで改善できると言われている。
・さらに、認知症と直接関連のない心身状態の悪化、具体的にいうと「せん妄」、「睡眠障害」、「抑うつ感」などもあり、これを区別し、改善することも大事である。
・認知症を持つ独居高齢者で、センサーデーターでの検知対象としてあげやすい「中核症状」「BPSD」の症状は以下の点であると考える。

徘徊    「いる」「長時間いない」「在宅すべき時間帯に不在」
       ドアセンターによる外出、在宅の確認
       照明器具による夜間の不在
抑うつ    部屋の移動の減少、離床時間の減少、照明器具の不使用、家電製
       品全般の不使用(特に「食事」に関係する電力使用)
       電話などの使用頻度の低下(活動・参加のレベル低下)
       電話の発信の不使用(見当識障害、失行の進行)
実行機能障害 家事全般のパターンの変化(日常的な計画的な家電使用の乱れ)
       個々人の家電使用状況をモジュール化した電力データーをパタ
                      ーン 認識し、標準的な使用からの「バリアンス(逸脱)」を感知
       する。
睡眠障害   「入眠困難」「中途覚醒」「早朝覚醒」「塾眠障害」「ひどい寝相、
        寝言」をベッドセンサーなどで感知し、日中の行動(特に夕方
        の不穏)などとの連関をみる

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