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レンタル学芸員の休日#1「第四回雛菊の部屋」(落語会)

レンタル学芸員ことはくらくです。普段は博物館の学芸員として働きながら、余暇を使って自分自身をレンタルする活動をしております。ご案内はこちらからご覧ください。


学芸員は平日休み

博物館関係以外の記事も書いてみようかということで、第1回は古今亭雛菊さんの落語会にいき、「打ち上げ」に参加した話です。博物館に関する内容はほとんどありませんが、落語会の「打ち上げ」という文化を知ったというお話でございます。

先日Xの海を漂っていたところ、古今亭雛菊さんという落語家さんが落語会の案内をされておりました。寄席や落語会に行ったことがないというわけではありませんが、それでも手の指さえあれば事足りるといった感じ、特に落語が好きなわけではありません。落語会は9月25日、ド平日の夜の開催でした。ただ学芸員という職種の人たちは、平日が休みであることも少なくありません。特に月曜日は休館の館が多いため、必然的に中の人たちも週休日であることが多いようです。この落語会の日も偶然に月曜日、それで出かけてみようとなったわけです。

古今亭雛菊さんのプロフィール

古今亭雛菊さんは、信州ご出身の落語家さんで、2017(平成29)年 古今亭菊之丞さんに入門し、昨年(令和4年)二ツ目に昇進したとのこと。

落語家は、見習いから前座、二ツ目、真打と昇進していく制度であり、二ツ目からは一人前と見なされるそうです。無理やり学芸員のキャリアと重ねてみると、学芸員実習を経て学芸員の任用資格を得るまでが「見習い」、アルバイトや任期付の仕事でとりあえず現場に仕事として入るようになり博物館業務の裏方全般にかかわる時期が「前座」、学芸業務のうち自分の名前が出ることも多く花形でもある展示を担当できるようになると「二ツ目」という感じでしょうか。

落語会中心のイベントスペース「道楽亭」

そんな古今亭雛菊さんの主催する落語会「雛菊の部屋」にいってきました。会場は新宿にあるイベントスペース「道楽亭」です。

  • 住所:新宿区新宿2-14-5 坂上ビル1F

  • アクセス:「新宿三丁目」駅 から徒歩3分

  • ウェブサイト:https://dourakutei.com/

落語会を中心としたイベントスペース

先に書いた通り、わたしは落語好きなわけではありません。唯一参加したことのある落語会は、昔、祖母が一緒に働いていた方の会でした。中学生か高校生の頃だったので、お名前も覚えていませんが、脱サラして落語家になったということだけが記憶に残っております。寄席には何度か行ったことがありますが、自分の意思で落語会に参加するのははじめてでした。

道楽亭の雰囲気はコンパクトな飲み屋という感じです。別称にもRYU'S BARとあります。短冊形あるいはウナギの寝床型のお店で、突き当りが高座になっていました。

短冊側の店の奥に高座が設けられている

ウェブサイトによれば、「いっぱい入って35人」とのことですが、今回の客席は20席くらいだったかと思います。ライブハウスでもそうですが、コンパクトな会場に人が集まっている雰囲気がわたしは好きです。広い会場の見渡す限り、人ひとヒトという状況もそれはそれで良いのですが、小さい箱のほうが隣の人との距離が近く、開演時間がはじまるにつれ、みんなそわそわしてくる雰囲気がよくわかります。自分と他人との演者への期待が感じられるのがいいのかもしれません。

ゲストは「春とヒコーキ」

開演を迎えると、ひとりの小柄な女性が出囃子を伴って現れました。古今亭雛菊さんです。自己紹介と「雛菊の部屋」の説明が終わったあと、「いつもと違う客層だ」というお話をしていました。落語ははじめてだ、という方もいらしたようです。先に書いた通り、私自身もどちらかといえば、「いつもと違う」側でしょう。雛菊さんの落語会では、毎回ゲストを読んで開催しているそうですが、今回の会はそのゲストさんを目当てにしている方が多かったようです。

今回のゲストは「春とヒコーキ」というコンビのお笑い芸人でした。タイタンという事務所に所属している芸人さんですが、もしかしたらYouTuberとしての方が有名かもしれません。

https://www.titan-net.co.jp/talent/haruhiko/

2017年4月結成。
気持ち悪いキャラクターぐんぴぃと、言葉巧みなツッコミが持ち味の土岡による、漫才とコント両方が得意なコンビ

TITANウェブサイト「春とヒコーキ」紹介ページより

公式な説明もパンチがありすぎますが、YouTubeの動画もかなり強いです。「バキバキ童貞」というパワーワードを中心に、ゴリゴリ迫りくる感じです。力こそパワー。

おそらく春ヒコめあての方も少なくなったのではないかと思います。雛菊さんの呼び込みがあったあと、雛菊さんにせまるぐんぴぃの姿だけでめちゃくちゃ面白かったです。

雛菊さんと春ヒコのお二人には、大学の落語研究会に所属していたという共通点があるそうです(雛菊さんは駒澤大学、ぐんぴぃさんと土岡さんは青山学院大学)。どうやら学生時代からお互いに知り合いだったようで、フリートークでは大学落研界隈の共通の知人の話などをされていました。わたしは落研ではありませんでしたが、渋谷周辺の話や大学のサークル界隈の有名人話など、なんとなく懐かしさを感じる話でした。

3人でのフリートークのあと、雛菊さんの落語・春ヒコの即興コント(寄せの厄介な客)で、半年分くらい笑いました。

チラシ

「打ち上げ」という文化

ウェブで見たチラシには「木戸銭 二千五百円」と書かれていました。いわゆる見物料ですね。昔はきっとその名のとおり、木戸が設けられていたのでしょう。吉田伸之「寄席の誕生」(「学習院史学34」p168-176所収)によれば、落語の勃興期は文化年間のようです。銭という単位からいって、江戸時代からの言い方でしょうか。問題はその次の行です。

「打ち上げ参加費:三千五百円(希望者のみ)」

最初木戸銭をお支払いする時に「打ち上げはどうしますか?」と聞かれた際には、なんだかよくわからず断ってしまいました。が、落語もコントもあまりに面白かったので、あとからお願いをして参加させていただきました。

参加していた方は、確か10人ちょっとだったのではないかと思います。雛菊さんとぐんぴぃさん、土岡さんと同じテーブルで、食べたり飲んだりしました。本当に一般的な意味での「打ち上げ」でした。演者のお三方や落語好きだと思われる参加者の方のお話によれば、この文化は落語会で一般的なもののようです。ただお笑い芸人の方のライブには、お客さんも参加できる打ち上げはないとのこと。

また無理やりに博物館にたとえてみますと、企画展がはじまって展示解説会が終わってから、学芸員や館の職員の飲み会に、来館者の方も参加しているようなイメージでしょうか。そう考えると、やっぱり不思議な文化です。たぶん、博物館ではありえないことではないかと思います。雛菊さんかぐんぴぃさん、あるいはほかの参加者の方だったかもしれませんが、「大衆芸能だからでは?」と言っていました。別の知人の方には、「贔屓筋の文化なのでは?」とも……どうなんでしょうか。調べてみたら面白い気がします。

いずれにせよ、ほかの参加者の方とのお話も含め、非常に刺激的で楽しい会でした! なにより芸人の方は、もちろんお話のプロですからお話が非常に面白い訳ですが、誰かの話を聞くのもお上手なんだなぁと思いました。

また「打ち上げ」のある落語会が開催される場合には、参加してみたいと思います。