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『不死鳥よ 波濤を越えて』の感想レポ

小学5年生の夏に、片岡仁左衛門さんの『保名』を観て歌舞伎ファンになった私ですが、その翌年宝塚ファンになり、今年でありがたいことに研究科10年になりました。そんな私の宝塚大劇場観劇デビュー作品は、2014年の宙組大劇場公演『ベルサイユのばら-オスカル編-』。もともと原作の漫画が大好きで、宝塚を好きになるきっかけも、NHKで特別放送されていた1991年の『ベルサイユのばら-オスカル編-』。そんな私のオタク原点とも言える宝塚のベルばら作品は植田紳爾先生の作品です。

ヅカオタ研10の節目の年に、奇しくも宝塚観劇デビューを果たした5月に、ありがたいことに初めての明治座で、植田紳爾先生の作られた『不死鳥よ 波濤を越えて』を観劇させていただきました。もとは中村壱太郎さんが出演ということで観に行きたいと思っていた本作品。最終的に、沼ぁぁ……という幸せすぎる状態になって遠征から帰ってきました。まだまだTwitterで呟きますね!

前置きが長くなりましたが、歌舞伎初心者ファン兼ヅカオタのとあるオタクによる、『不死鳥よ 波濤を越えて』の感想noteの始まりです。ネタバレ含みます。

全体の感想

歌舞伎、けれど宝塚

歌舞伎でレビューをするんですか?
と最初は全く想像がつきませんでした。
レビューだから歌うのは事前情報として知っていたのですが、それでもしっかり歌舞伎口調で長唄もあって…とするのかな?と思っていました。
いざ幕が開くと、始まりから日本物レビュー!『白鷺の城』(2018年宙組公演)の平安の場面みたいー!と感じました。白拍子の皆様方の淑やかさ、優美さで舞台がとても華やかで、そして猿之助さん・壱太郎さんトップコンビのデュエットダンス!紛れもなく、歌舞伎の世界の宝塚が広がっていました。デュエダンでお互いがめちゃくちゃ幸せそうなのを観るのが大好きなオタクとしては、お二人の幸せな表情と甘美な空気感がオタク殺しすぎました。
トップのデュエダン場面で大階段とトップコンビしかいない舞台上のしんとした静けさ、でもその張り詰めた空気はキリキリとした緊張感ではなく心地よい幸福な緊張感。まさにこの空気が知盛様と若狭様の間に流れていて、誰も邪魔してはならない神聖な空間でした。

それだけでもこんなに心躍るのに、すぐに殺陣が始まるわ、カゲコーラスがザ・レビューな厚みがあるわ、そんな中にも歌舞伎の色は失われていないわで、目の前が信じられないくらい幸せで彩られていました。もちろんお話自体は悲しい場面も多いのですが。

そしてお芝居の話し口調が歌舞伎の古典調すぎず、普通に歌舞伎はじめましての方でも全然難しくないのではないかな、と感じました。
何より!猿之助さんや立役の皆様方、下村青さんのお歌が!耳が幸せでした。なのに…なのに…下村さんと壱太郎さんのデュエットでの壱太郎さんの1フレーズの美声で私の聴覚担当脳内メモリーは一時的に壊れました。壱太郎さんが美声だったことしか覚えていないのが悲しい。それぐらい、好きな歌舞伎役者さんの歌声が聴けた感動が大きすぎて…

そして!レビューといったらやっぱりそう!フィナーレ!!とにかく宝塚という感じがしました。大量のスモーク、宙乗りの猿之助さんに当てられる眩いライト、幻想的な本舞台と天翔る不死鳥…
個人的には若狭様のこの場面の舞の美しさ、若狭様の放つ清澄な空気が堪らなく大好きです。
フィナーレだからこそ、今まで出てきた物語の登場人物たちの儚くも美しい幸せな姿を見れる。フィナーレがある歌舞伎、本当に幸せでした。カタルシスではないけれど、それに近い清らかなものがありました。

圧巻すぎる殺陣

歌舞伎の殺陣って、型があるのかなぁ、と今まで思っていたのですが、本作品の殺陣、私史上いちばん目が足りない殺陣になっていました。女方の皆様まで!こんなに戦ってらっしゃる!猿之助さんの大立ち回りも、隼人さんの貴公子すぎる立ち回りも、立役の皆様方の荒々しさも、それが全て一つの場面で舞台いっぱいに繰り広げられていて、拍子木も鳴り止まない、戦いの激しい様子…目が、足りません…

立役の方の殺陣は見ることが多いのですが、女方さんが女の役で殺陣をしてるのがあまり見たことがないので、白拍子の方々が短刀を手に戦うその姿が美しく凛々しく圧倒されました。女性の力強さ、凛々しさ、生きる力…平家の白拍子の皆様も、誇りがありますもの…
時代が変わり、権力者が変わろうとも、そこに生きる人々の尊厳、誇り、そうした尊いものの存在を意識させるような白拍子の殺陣だと感じています。
そして、白拍子の美しい着物で戦うからこその美の存在、素晴らしすぎません!?平家の女性の誇り、視覚的な美が両立しているこの演出、素晴らしすぎます…

日本物レビュー

日本物作品といえば、シンプルと人情味、という印象があります(シンプルという言葉では表現しきれていませんが…)。セットはもちろん細部まで作り込まれていますが、視覚的な主張をする以上に、登場人物の心の動きを際立たせるためのシンプルさ(のような在り方?)、だと思います。
1幕の壇ノ浦の場面は、まさに心の動きが際立つ構成だと感じました。

白拍子若狭の悲しみ、愛するが故の苦悩、愛のための決断。白拍子陽炎の、愛ゆえに身を引く強さ、生き抜くための自分の道。平通盛の、世を儚む故の虚構、哀しさ。若狭と知盛の愛を知る故に厳しく在れる師の尼達…そして知盛の覚悟、哀しみ、力強さ。

芝居が活きることで心の動きがありありと浮かび、観客を物語の世界に引き込む力強さがありました。

一方2幕、日本物レビューの中に在る異国情緒の煌びやかさ、そして不穏さ。
1幕と比べて視覚的に明度を落とした演出が多くなった分、不穏な空気が増した舞台になり、見ているこっちまで不安になるような、そんな演出だったように思います。楊乾竜や衛紹王の葛藤の心の動き、武完の策略と紫蘭の激情、そんな中でも清らかに真っ直ぐな知盛の心。不穏さが増した中でも知盛の心はぶれないところがハッキリとコントラストになっていて、そこもニクイ演出でした。

ところで、2幕にベルばらみを感じたのは私だけではないはず…

出演者の方の感想

全員分なくてすみません…

市川猿之助さん

あまりにも、トップスターでした。
歌ってらっしゃる…舞ってらっしゃる…正統派すぎる主演だ…そんな気持ちで観ていました。
まず、お声が優しい、本当に優しい。知盛様の優しさが止まるところを知らないのでは、というくらい優しさが滲み出ていました。優しいからこそ、知盛様の絶叫、魂の叫び、魂からの言葉には、言葉にするのは難しいですが敢えて表現するなら、有無を言わさない力強さがあり、傍観者であるはずの客席の私の心も揺さぶられ、だからこの人はこんなに慕われていたのだなと実感できました。殺陣の瞬間にも、人と対峙するその瞬間にも優しさがどこか感じられたような気がして、2幕の武完との戦いの後のあのセリフからはもう、優しさから生まれる潔さが強すぎて、その結末しかないのか…と。その結末があるから、天翔る不死鳥の如く宙乗りするフィナーレに繋がるんですけど、気を抜くと涙腺に来そうでした…
そして宙乗りなのですが、私の観ていた席(3階の左ブロック)の目の前を翔けて行かれていて、猿之助さんかっこいい…という気持ちと、不死鳥になって…という気持ちと、どっちで観ていたら良いのかわからなくなりましたが、要は幸せすぎました…
そしてその宙乗りの場面なのですが、トップスターの大羽根を背負っているように見えてならなかったです。トップスター就任おめでとう御座います。

中村鴈治郎さん

ものすごく、ものすごく鴈治郎さんに似合いのお役だと思うのですが如何ですか!!!!?!?
鴈治郎さんで封印切や曽根崎心中を観させていただいたこともありますが、そういう、若いのに人生に追い込まれているお役も凄く似合うのですが、世を儚んで虚構を見せているお役、虚構を見せながらも散り際の美しいお役、が!あまりにも、あまりにも私のツボに刺さりまして…鴈治郎さんのはんなりしたお顔からしてこういうの似合いそうじゃないですか!好き…好きです…和歌を詠む場面なんか特に涙腺にきまして…秋風に舞い散るあのシーンも、似合う……って思いながら観ていました。
だって凄く幸せそうな雰囲気が似合う人が、こんなにも哀しい幸せを漂わせるのは、刺さりますよ…

市川笑也さん

個人的に、笑也さんの陽炎さんを、最初本当の女性キャストだと思って観ていました…声が、声があまりにも、達観していて冷静で生きる術を持っている大人の女性すぎて…蚊に血を吸わせる場面や、通盛様を思って1人幸せそうに決意する場面の、上級生娘役感、あるいは専科からの特別出演感…
散り際まで美しく誇り高い陽炎さんで、もっと長くこの人を見ていたかったと思うお一人でした。

中村隼人さん

皆様ご存知、歌舞伎界の超イケメン、中村隼人さん。隼人さんの出演はすし屋や三月花形歌舞伎など何度か拝見しているのですが、今作品は過去一惚れ惚れしちゃいました。
だって!!宝塚における超イケメンの一つに!「ロン毛・ブーツ・マント」の3点セットがあるじゃないですか!!!ブーツこそありませんでしたけど、これがこんなにも似合う方、それで剣持って殺陣しちゃう方、そりゃあ惚れますよ!!!
楊乾竜さんの話をしたいのに、あまりにビジュアルが良すぎて、本編の感想をどう書こうか悩んでしまうくらい似合いすぎてます。まさに貴公子。まさに王子様。
マントを着てなくても、あの中国王朝のお衣装を着ている時の抑えきれない美男子オーラが…
役どころは、最後が本当に切なくて、知盛様、そこまでしなくても…って思うくらいに楊乾竜が忠義の人ながらも大きな愛に生きていて、そこからの知盛の想いを受け継いで生きていくと決断するところが凄く苦しくて…宗からの命令で悩みぬく楊乾竜も苦しくて。楊乾竜さん、悩み抜く場面が多くてこちらも悲しくなりそうです…そして顔が良い…

中村米吉さん

米吉さんも三月花形歌舞伎などで何度かお姿拝見しているのですが、ものすごく久しぶりで(と言っても1年ぶりですが…)。なので久しぶりに米吉さんのお声を聞けたのですが、声が、とにかく衝撃でした。
そもそも、米吉さんが立役をされているのを観たのが今回初めてなのですが、なんと、なんと凛々しく美しい若き国王なのだと…ビジュアル良すぎだろ…と。なのに!それ以上に!お声が!娘役の演じる男役だった…知盛を想って発するお声が、確かに青年なのに、女性だった…
米吉さんだけ、発声の仕方が他の女方さんとひと味違うような気がします。なんというか…女方さんの出す女性の声、ではなく、性別を超越したところで出される美しい女性の声、というような…それこそ娘役の演じる男役なんですけど…だけど、そのお声は勿論愛らしいのですが、可愛いだけじゃなく凛とした響きがあって…客席じゃなかったら頭抱えて変な声出してるところでした…
全ヅカオタに、米吉さん沼に溺れてほしいです。

中村壱太郎さん

先月の滝夜叉姫を観に行くのを泣く泣く諦め、若狭様に出会えることをめちゃくちゃ楽しみにしていたので、今年の三月花形歌舞伎以来の壱太郎さんなので、もう…この上なく幸せです…ちょっと文章量がおかしくなりそうなのですが、お付き合いいただければ幸いです。

若狭様は、宝塚の日本物作品にこういう健気なヒロインいますよね!!!っていう、正統派ヒロインすぎるんですが、若狭様は非常に非常に非常ーーーーーに可憐で、白拍子姿でない時の若狭様が本当に可憐で愛らしくて、知盛様を想って嘆く若狭様を観ていると抱きしめたくなるような、可憐で純情で愛らしくて可憐なんです!!!!!!でもですね、一番最初の知盛様とのデュエダンのところの、白拍子姿の若狭様は、勿論可憐なのですけど、それ以上に清らかで、まさに清楚で、お二人の作る空気が本当に澄み切っていて、なんといっても若狭様が本当に美しくて、知盛様の歌をバックに舞い踊る若狭様の凛とした美しさが最高で。しかもスモークも焚かれていて、幻想的すぎる若狭様に心を鷲掴みにされました。
からの、突然の別れや、知盛のために決断しなければいけないところの拒むところや、扉を開けてくれシシィ状態に篭ってしまう若狭様の悲痛な後ろ姿や、覚悟を決めて別れの舞を踊る若狭様や、笛と扇子を残していく若狭様の表情が…つらくて…もっと幸せな最善の道はなかったのか…歴史的な慣習故に引き離された二人を思うと苦しくて…だから2幕冒頭の知盛の舞のところで若狭の扇子を使ってるところが余計切ない…美しい幸せそうな笑顔を観ているからこそ、1幕の終わりが本当に本当に苦しくて…若狭様の幸せな微笑みが大好きです。ひたむきなところが大好きです。

そして2幕の、楼蘭の姫君、衛紹王の姉君の紫蘭様。好き…好きすぎるんです…語彙が足りない…

まずですね、若狭様は目元や額に薄紅色でお化粧されていて、そこで可憐さが引き立っているんですけど、一方の紫蘭様は、目元に薄紅色、額には金色を使ってお化粧されていることで、異国情緒のある強い女性感が漂っていて。しかもですね、眉のお化粧が若狭様の時と比べてキリッとしていて、ビジュアルが…ビジュアル…

最初の金国の舞だけでもめちゃくちゃ美しいのに、知盛に一目惚れしてからの凛々しい言動の数々の裏側に愛らしさが垣間見えるような、かっこいい恋する女性なのがもうめちゃくちゃ…そういう強い女性好きなんです…今まで自分の思い通りになって生きてきたことによる絶対的な自信の強さ、知盛への強い愛、だからこそ見せる武完への圧倒的強さ…神…

からのですよ、恋が叶わず復讐に走ろうとするところの、武完に図星を突かれて弱さを見せるところ、武完に心を侵食されていくところ、そしてその場面の武完とのデュエット…壱太郎さんも歌う、というのは莟玉さんの『カブキ・チューン』でのゲスト回聴いて知ってましたが、やっと、やっと壱太郎さんの歌声を聞けた途端に感情のキャパがぶっ壊れて、美声だったことと背中の反りが美しかったことと弱々しい中に妖艶さが漂うことしか歌のシーンは覚えていません…強い人が見せる弱みって美しいですよね…

その後、紫蘭様の次の出番の、衛紹王に武完との企みがバレるところなのですが、紫蘭様、悪い顔されてますわ…でも言ってることは国のためとしては正しいのですわ…でも策略があるのですわ…企む顔をしている壱太郎さん、去年の貞子×皿屋敷以来で感動…でも、衛紹王に道を作った蓮花(衛紹王のもう一人の姉)が武完に斬られた後の、紫蘭様の深い動揺を観ていると、紫蘭様は自分の行いの罪深さに気づかれたのだなぁと、こんなにも強く生きてきた人が、自分の中の弱さが招いた結果に動揺しているのがこちらもつらくて。解釈間違ってたらすみません。

そして2幕最後、フィナーレでは、美しくどこか幸福そうな若狭様にまたしても出会えることが出来て…若狭様はいつまでも幸せな微笑みを湛えていてほしい。哀しんでる姿も美しいけど、若狭様は笑顔がいちばん似合うお方なので…

壱太郎さんが宝塚ファンというのは有名な話ですが、壱太郎さんが宝塚ファンだからこその色というのもあったのだろうなぁと思います。若狭様の時はトップ娘役だし、紫蘭様の時は『王家に捧ぐ歌』のアムネリス様や『エリザベート』のゾフィーのような強さがあり…という感じで…
そういえば、カブキ・チューンのゲスト回の時に、『♪私だけに』が流れていましたね(⌒▽⌒)
トップ娘役就任おめでとう御座います。

最後に

今回のnote、元々はたくさんのヅカオタの皆さんに観に行ってもらいたいなーと思って書いていたのですが、書き始めたら楽しくなっちゃって、インスタやTwitterでは文字数で書ききれなかった色んな狂った感想をたくさん書かせていただきました。お目汚し失礼致しました。
最後に、明治座公演『不死鳥よ 波濤を越えて』そして『御贔屓繋馬』どちらも千穐楽まで全員揃って無事に完走できますように!

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