三日月宗近の手紙と『刀剣乱舞歌舞伎』(観劇感想含む)

審神者になってもうすぐ1年。極の修行に何振も送り出した。
送り出した刀たちは、皆自分の修行のこと、修行先での思いや、帰ってくる前に自分の意思を手紙に認めて送ってくる。
だけど、三日月宗近の手紙だけは、他の刀たちと毛色が違った。3通全部受け取った後、言い知れない切なさが微かに残った。何故彼は多くを語らないのだろう。確かに三日月宗近なら普段からあまり語らないがそれにしても。

千年の時を再び旅してきた彼は、極になって帰ってきた。多くを語らずに。

私は大侵寇のあった後から審神者になった新人審神者で、大侵寇を経験していないからあの時のことは回想や動画配信サービスでの視聴でしか、何があったか、三日月宗近がどう感じたのか、わからない。いや、間接的に知ることしかできない。

もともと三日月に対して、掴みどころのないミステリアスな刀だと思ってきて、極になってもミステリアスさはまだ少し感じている。そこが素敵な刀だとも思っている。
ただ、3通の手紙は言葉にしがたく心に引っかかったままだった。

新作歌舞伎「刀剣乱舞-月刀剣縁桐-」
まさか、とうらぶを歌舞伎でやるとは思ってもみなかった。
新橋演舞場でしか上演しないから、たぶん行かないだろうなーと思っていたところ、昨年知って以来ずっと好きな中村莟玉さんが髭切として出演されることを知り、松也さん以外の5振の役の方々は皆知ってる人で、当たり役だ!と思ったため、遠征を決意。
この日のために、極の修行に出せる歌舞伎部隊の刀は修行に出し、出せない刀でも練度最高値まで育てた。

歌舞伎本丸部隊を連れて観に行った、一度きりのとうらぶ観劇。かなり初日に近い頃だったので、中日を過ぎた今だと、もうかなり演出も空気感も変わっていることだろう。

日常の景趣やゲーム内音楽の使用、刀としての「三日月宗近」の誕生の描写、時間遡行軍の再現度の高さ、歌舞伎を知らない審神者や刀剣乱舞を知らない歌舞伎ファン、どちらものファンや、どちらも初めましての観客を置いてきぼりにしない演出に、1審神者としても、1歌舞伎ファンとしても感動した。

そしてみなさん、やっぱりハマり役。最推しの源氏兄弟の2振の「兄」「弟」感とゲーム内設定を踏襲しつつも歌舞伎本丸の源氏兄弟だった最高の兄弟。
個人的にこのメンバーで莟玉さんがものすごく好きだったため、髭切が莟玉さんで観れてすごく嬉しかった。ミステリアスさ、天然さと、勇ましさと、それでいて可愛さがまさに髭切そのもので、そこに髭切がいることが嬉しい。

吉太郎さんの立役は初めて観たがなんてカッコよく勇ましく血気盛んな膝丸なんだろう。兄者に名前を覚えてもらえずへにょへにょしているところがまさに弟で可愛い。

鷹之資さんの同田貫、荒々しくも真っ直ぐなキャラクターと想像以上に高い機動値が眩しい。カーテンコールでの鷹之資さんの笑顔が眩しくて、たぬも鷹之資さんも好きになる。

小狐丸の右近さんは、配役発表の時から声がピッタリだと思っていたため、「ぬしさま」ボイスを聞けたことで既に感動。百回りのところもひと一倍早く回っていて、「狐」だった。

小烏丸の父上は、まさに父上。父上ならそう喋るし、父上ならそう振る舞うし、非の打ち所がない父上だった。父上の舞を観れるなんて思ってもみなかった。

そして、松也さんの三日月宗近。彼の最初の主は諸説あるものの、歌舞伎本丸では最初の主は右近さん演じる足利十三代将軍義輝とされているため、彼の悲哀を、目の前で目撃してしまった。「じじぃ」の素振りは沢山見せてくれて愛おしいが、あまりにも、私の知らない悲しみを湛える三日月宗近だった。

少なくとも、大侵寇の回想以外では、彼の強い悲哀を本丸の中で見たことがない、強いて言うなら、少し前の大型アップデートのあとからアイコンの三日月宗近が憂を帯びた表情をしているが。足利の刀の回想では、骨喰藤四郎の記憶がないことに少し悲しそうにしていたが。

三日月宗近が、躊躇うのを、私は知らなかった。

彼も歴代の主に「愛」を持っていたのはきっと他の刀達と同様なのだろうが、あの宗近が、躊躇いを見せるのを私は知らなかった。

今までも、回想や修行などで、自分の逸話と向き合って悲しみを見せる刀達にどこか申し訳なく思ってきた。
その悲しみを、宗近も抱いていたのだと知り、とても苦しかった。
彼は、今まで見せないできたのだと知った。悲しかった。彼の哀しみを知らないことが悲しかった。

義輝と宗近とが何度も向き合うたび、私には宗近の手紙のことが引っ掛かった。それはいよいよ義輝との立廻りの時に、義輝の最期に、彼から送られた手紙から感じた切なさがリンクした。

彼は、主を目の前で失ってなお、残り続けたのか。

付喪神が宿る前からも、「三日月宗近」は義輝との別れが悲しかっただろうか。付喪神としての感情なのだろうか。
刀剣男士とは。

義輝との別れの後も、なおも残る「三日月宗近」と宗近。
そして任務を終えて帰ってくる宗近の姿に、悲しみとも切なさとも何とも言えない感情が残った。

時々、審神者とはなんて業の深い役目なのだろう、と思う時がある。
刀の付喪神が変えたい歴史を守らなければならないから。彼らの悲哀を悲哀のまま残さないといけないから。

もし、時間遡行軍が、歴史修正主義者が、義輝の元に行かなければ、三日月宗近も、再び自分の過去に向き合わなくても良かったんだろうか。

刀剣乱舞の歌舞伎家話の配信を視聴しました。
初日の頃は、宗近も義輝も大号泣していたこともあったが…という話を聴き、千秋楽の2公演の配信をとても楽しみにしています。

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