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第14章 「 音楽とコーヒとジントニック」

カラダが壊れたこと、美容師の仕事は自分のカラダでは無理だという事を認めざる得なかった。

東京に、サロン以外で友達は居なかったけど、唯一中学からの友人が下北沢の喫茶店に住み込みで働き始めて、そこのお店は、ちょっと変わった音楽通のマスタ-がやっている知る人ぞ知るお店であった。いつしか、休みの日はそこに入り浸るようになっていた。
下北沢の街は、色んな種類の人達がごちゃごちゃとワサワサと、色んな色と音と匂いを出している感じがして何故だかほっとする。その店は今でも全く変わらず、ずっとそこにある。

「 音楽 と コーヒー と ジントニック」

急な階段を上がり、ドアを押すとそこには独自の世界があった。
すごく狭い。木でできた小さめのテーブルと椅子が狭い空間にはまっている。聞いたことのないような、ワールドミュージックやジャズ、フレンチな香りの音。タバコの匂いとコーヒーの匂い、不思議な空間。
国境、ジャンルを超えていつも真剣に選んだ一曲が流れていて、一人でいてものすごく解放される場所だった。美味しいコーヒー、それからジントニック、そして色んな音楽、音のシャワーを存分に浴びさせて、この場所で音楽の素晴らしさを教えてもらえた。
音楽はものすごい力がある。そこに居ると、頭がいつの間にか空っぽになって音の世界へ引き込まれている。時間も忘れる。

「 音のつぶつぶ 」

その店に通っているうちに、「もしかしてマスターは、私に合わせて曲を選んでくれているのかな?」ふと思ったことがある。無口で、一見不愛想にみえるから話しかけづらく、入り浸っていてもあまり会話をしたことはない。「話したいな~」と思っても、不思議と、そこの世界に入ると話すことがあまり意味をなさないくらいに思えてきて、ほとんどしゃべらず完全にその空間の虜になってしまう。

音楽を聴きながらぼっ~としているうちに、音がシャワーのように私の細胞に入ってくるのをかんじる。ものすごい細かい粒子が、ミストのように包み込んでくれて、カラダの中へ入ってくる。

きもちいい。

音は耳で聞くものじゃないんだね、カラダで感じるものなんだ。

魔女は、この店で音の魔法を学んだ。

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