「顔が変だよ」 「そう?美人が台無し?」 幼稚園年長組の次男は素直に、丸い顔で私を見上げながら「うん」と答えた。 私の下唇は、いかりや長介さんのように大きく腫れている。 その二週間ほど前、舌先が下唇に触れた時、プツッとかすかな違和感があった。鏡の前でベロッと下唇を両手でめくってみると、左側に赤い小さなふくらみがある。 痛くも痒くもないので、気にも留めていなかったが、数日すると米粒くらいの大きさに盛り上がってきた。 それでも、そのうちに元に戻るだろ
令和二年の春、御多分に漏れず断捨離をした。取り憑かれたように物を捨てた。得体の知れない不安感から逃れるように。 情報を得るために点け放しにしているテレビから、「緊急事態宣言」なる禍々しい言葉が耳に入り、目に入り、体に入り込むまでに時間がかかった。物事に集中できず、何もしないで一日が終わる日々が二週間ほど続いた後、乱雑に物が溢れる家の中に居続けることに堪らない苛立ちを覚えた。 本棚に収まりきらず、無造作に積まれた本の山。クローゼッ