【開催レポート】ウォーカブル戦略を支える、2つの家守のエリアリノベーション〜4つのまちに学ぶ、公民連携とエリアリノベーション【兵庫県姫路市】の事例〜
「変化が起きるまち」にスポットを当てて4つの先進事例に迫るオンラインイベント「変化が起きるまちは何が違うのか?〜4つのまちに学ぶ、公民連携とエリアリノベーション」。
第三弾で取り上げるのは、兵庫県姫路市です!ウォーカブル先進地である姫路市は「公共空間利活用の仕組みづくり」や「全国初となるほこみち制度の活用」で注目を集めていますが、そこには、エリア価値の向上を目指して、空き家再生や事業承継などに取り組み、新たなコンテンツを生み出してきた民間チームの存在があります。
今回は、姫路市 産業振興課の坂元さんにウォーカブルとリノベーションまちづくりの取り組みについてお話していただき、「大手前通り周辺」「駅西エリア」の2つのエリアでそれぞれ活躍する民間のみなさんにお話を伺いました。
本記事では、2024年7月29日に開催したこのオンラインレクチャー&トークセッションをレポート形式でお届けします。
【ゲストスピーカー】
前半では、姫路市 産業振興課の坂元洋介さんに姫路市のウォーカブルとリノベーションまちづくりへの取り組みについて、民間プレーヤーの梶原伸介さん、土田由里さん、三木健司さんにそれぞれの取組みについて、お一人ずつお話していただきました。
①坂元 洋介さん(姫路市 産業振興課)
姫路駅を中心に賑わい創出を推進する業務を担当している坂元さん。
姫路市のウォーカブル戦略の軌跡を行政の立場で語っていただきました。
姫路市で令和3年3月末に策定された「姫路市ウォーカブル推進計画」。
魅力的な目的地を増やすことでまちに出るきっかけを作ることと並行して、歩行者にとって優しい、より歩きやすい環境整備を行うことで、予期せぬ「出会いの機会」を創出し、来街者にとっても住民にとっても、歩くことで暮らしが豊かになるまちを目指します。
ウォーカブルシティを推進するために道路等の公共空間利活用の仕組みづくりや、遊休不動産などのオープンスペースの活用、ほこみち制度の活用などに取り組んでいます。
姫路駅と姫路城を繋ぐ大手前通りは、舗装の劣化や街路樹の根上がりによる環境悪化を改善するため、平成27年から再整備事業が行なわれました。その結果、2車線減って片側3車線となるなど、歩行者に優しい空間に変化します。歩道が拡幅された大手前通りが目的地となるように、大手前通り魅力向上推進事業が令和元年度からスタートしました。
大手前通りの沿道ビルには飲食店や商店が少なく、駅から城までの単なる通過点となっていたため、大手前通り魅力向上推進事業では大手前通りを起点に回遊性を生み出すような仕掛けを作り出すべく、大手前通りの活用法を模索。
沿道事業者を中心に構成される大手前通りまちづくり協議会の若手メンバーを中心とした大手前未来会議、通称OMKが実動部隊となり、社会実験「ミチミチ」を短期と長期に分けて2回行いました。その後具体的な活用法を検討する中で道路占用者を指定することで柔軟な道路の使用が可能となる「ほこみち制度」が誕生したことを受け、令和3年2月、ほこみちに大手前通りを指定しました。公募により大手前通りまちづくり協議会を占用者に指定しオープンカフェやイベント活用等、民間事業者が軒先を活用することで賑いが生まれています。
ほこみち制度の活用により設置している椅子やテーブル等の什器を使って大手前通り沿道にある店舗で飲食すると、出店、占用している事業者が潤い、パラソル、花壇等のさらなる設備投資がされます。大手前通りでは沿道店舗が自身の管理の元、道路上にパラソルがついたテーブルを置くことができ、店舗利用者は屋外で飲食を楽しむことができます。道路でありながらもテラス席のような使い方が可能となることで、ふらっと通りかかった来街者も気軽にお店に立ち寄れる空間が生まれています。
これによりさらに居心地が良くなると、利用者が増え、別の事業者の出店が増え、さらに賑いが生まれエリア価値が高まることとなります。
エリア価値が高まるということは地価が上昇し土地にかかっている固定資産税が上がる、市の税収が上がるということ。固定資産税収入が上がればその分を介護や福祉の行政サービスに使うこともできます。ほこみちによってこの好循環を生み出すシステムが出来上がりました。
このように大手前通りにおいてはほこみち制度を活用し、民間事業者によって歩行者によりフレンドリーな空間が生まれ、より安心で楽しく過ごせる空間が生まれています。
姫路駅西エリアは姫路駅から徒歩5分ほどとアクセス抜群なエリア。終戦後に小売業者が集まり市場が形成され、一時期は260もの店舗がひしめき合っていたようです。その後経営者の高齢化に伴い商売を辞める店舗も増え、民間資本により再開発の波が押し寄せてきた令和2年度からリノベーションまちづくりを開始しました。
駅近でありながらも家賃が周辺の商店街と比べると安価であったため、事業開始開始当初は若手起業家のチャレンジの場として遊休不動産を活用した個性溢れる魅力的な店舗が増えることでエリアの価値が高まり、街中における目的地の1つとなることを目標としていました。しかし、このリノベーションまちづくりは単なる店子付けの商業施策にとどまらず、関わる有志がエリアの価値を自ら再発見し発信することで魅力を感じた人がさらに集い、よりエリアの魅力が高まる、深まるという好循環が生まれています。
また、エリアへの理解を深めアクションを生み出すためのワークショップが開催されたり、市場という側面に焦点を当てたエリアビジョン(仮)を元に「旧市のきさき朝市」が誕生しました。この取り組みは民間事業者が独自で行っており、現在に至るまで継続して実施されています。
(姫路駅西エリアでのリノベーションまちづくりの軌跡をまとめた「姫路駅西継承本」もぜひご覧ください!)
エリアの活性化は行政だけ、民間だけでなしえるものではなく、公民がお互いの役割を遂行しながら持続的に取り組むことが重要です。まず行政がエリア活性化を仕掛ける際には事業化することから始まると思われがちですが、そこにニーズや活性化のキーマンを見い出せないまま事業が進むと尻すぼみになり、事業終了と同時になかったことになりかねません。そのため事業化するためにはまずニーズの把握や関係者との繋がりの形成から始め、課題の理解を深めることが重要です。また、民間事業者では難しい統計的なデータを把握しオープンデータとして公開するなど定量的な情報を共有することで民間事業者サイドから課題を探る際のソースを提供することも重要です。一方、民間事業者は住民を含めた地域の関係者を巻き込んだ事業展開を始めることが重要な一歩となります。それぞれ足元を固めた上で段階的に役割をこなしていって民間事業者や住民等の民側がまちの理想像を描き行政と共に実現することで民主主導のエリアマネジメントが進み、住みたいまち、訪れたくなるまちが実現していきます。
また、ウォーカブルを推進する上で大事だと考えているのは「スモールエリアにこだわること」です。エリアによって活用できる資源や関係者の質も異なるため、あるエリアで事業がうまくいったからといって、同じ手法を他エリアの事業で使用するのではなく、それぞれのエリアにあった進め方や制度活用を検討することが重要です。丁寧な課題分析の結果、各エリアの個性が磨かれ街中にそれぞれ違った魅力あるエリアが形成されることで目的地が増え、街中全体の魅力が向上し ていきます。そうすることでウォーカブルなまちとして住む人にとっても訪れる人にとっても楽しいまちが実現するのです。
②梶原 伸介さん (コガネブリュワリー)
自らの肩書きを「ビール系プレイスメーカー」と呼ぶ梶原さん。
就職等で数年地元姫路から離れていましたが、37歳で帰郷して設計事務所を立ち上げます。人と繋がりたい思いからコワーキングスペース「mocco」の運営も行い、月間利用者数は700人、メンバー数は約70人と、姫路ではトップクラスです。
コワーキングスペースを運営する中で、地域の人と知り合う機会が増え、できることが増えたと言います。
2014年にはコワーキングスペースの利用者さん2人と「はりま家守舎」を立ち上げました。空き店舗をリノベーションし、とんかつ屋さん、スムージー屋さんなど、コンペで選ばれた店子さんがそれぞれ事業を開始し、今も継続されています。
そんな活動を続けるうちに、姫路市と共同で大手前通りのプロジェクトを推進することに。
プロジェクトに参画する前から、地域に対する課題感を抱えていたとのこと。大手前通りを使って単発のイベントを開催するのは簡単だけれども、それではイベントのない日は結局通り過ぎるだけの道になってしまいます。沿道に立ち寄れるような場所、滞留できるような場所がないことが問題であり、また、沿道の風景を作るには、沿道のテナントをチェンジしていく必要があると考えました。
2019年から3年間、ストリートファニチャーの設置やマーケットの開催、ナイトアクティビティの実施など様々な社会実験を通し、日常の風景を変えるムーブメントを起こしていきます。
また、ストリートファニチャーの制作や、芝生を用いた空間づくりなど、地元の高専生や工科大学生がまちに参加できるような余白を残し、学生の「やりたい!」を一緒に実現していきました。
姫路市とのプロジェクトには中間支援の立場で参画していた梶原さんですが、次第に自分もプレイヤーとしてまちに入りたい気持ちが強くなったと言います。2022年、沿道に開かれたブリュワリー「コガネブリュワリー」を立ち上げました。
ストリートファニチャーが常設になったことで、外でビールが飲めたり、子どもが飛び跳ねて遊んだりと、確実に日常の風景が変わっていったそうです。
将来はもっと歩道のウッドデッキが広がったらいいな、フルモール化できたらいいなと、大手前通り全体が歩行者専用道路になる未来像を思い描きながら、今後も地道に活動を続けていきたいと話します。
③土田 由里さん(蒲田商店)
「駅西」や「旧市」と呼ばれる姫路駅の西側で荒物屋とギャラリーを運営する土田さん。
荒物屋「蒲田商店」を事業継承(会社の経営権を後継者に引き継ぐこと)したきっかけは、第1回リノベーションスクールです。2代目店主だった蒲田さんご夫妻に「私にそのまま使わせてください」とプレゼンし、事業継承が決定。その後、半年間毎週お店に通って、商品や常連さん、取引先を引き継ぐことができました。事業継承することで、周辺のお店の人が最初から市場の一員として接してくれることや、自然にまちの人と関わるようになったことがメリットだったと言います。
蒲田商店がある駅西エリアは、もともと200以上の店舗が軒を連ねた卸売り市場として非常に栄えていたエリアです。昭和感ある街並みや商品、裏路地、モノレール跡地がレトロな雰囲気を作っています。商品が軒先にはみ出していたり、海苔屋さんが隣の隣の青果店の店番をしていたりと、「店と道」、「店と店」の境界線が曖昧です。また、深夜2時から開いている店があったり、昼前には閉めるお店が多かったりとこのエリア独自の時間軸があります。
まちに通い、まちが大好きになった土田さんは、このまちの面白さをもっと伝えたいと思いました。ただ、普通のスーパーと違い人付き合いが発生する市場での買い物。店主に話しかけることに抵抗感をもつ人もいるだろうと考えました。この抵抗感をなくすきっかけとして始めたのが、「旧市のきさき朝市」です。月1で開催し、時間は9:00から12:00まで。市場の時間軸に合わせているため、店主たちに負担をかけることもありません。
「日常をイベント化」がコンセプトのこの朝市を続けていると、少しずつまちに変化が生まれてきました。
毎月の朝市で土田さんがお店で販売している土鍋を使ってご飯を炊いていると、近隣のお店が試食を提供してくれるようになりました。試食だけで豪華なご飯プレートが完成します。また、兵庫県立大学の学生が運営に加わり、学生たちによる企画・出店も生まれています。
朝市をスタートさせてから1年半で、姫路の地場産業の皮革とコーヒーのお店、まちづくり会社の運営するシェアキッチン・シェアオフィスなど、まちに同じような思いをもつ場所が増えていきました。
同じ駅西エリアで開催した「旧市ビルヂング」は、「1店舗1テナントではなく、区分貸し(借り)ができる」「イベントとして使用できる」という空き物件の活用方法の一例を試してみるイベント。魅力的な風景が、ビルオーナーさんや今後お店を持ちたい出店者さんに伝わって、一歩踏み出せるきっかけになれば、と思い開催したところ、今までにない活気が生まれ、オーナーさんもびっくりするほどだったそうです。
まちに関わる前、働く上では女性であることや小さな子供がいることをディスアドバンテージに感じていた土田さんですが、まちに関わるようになってから、そうでもないと思うようになったと言います。子どもがいるだけでまちが明るくなったり、まちの人との距離が縮まりやすくなったり、ママ友・子供会など親同士の繋がりが生まれたりと、まちのことになると、逆にアドバンテージになることが分かり、嬉しくなったと言います。
④三木 健司さん(神姫バス)
企業理念に「地域共栄」「未来創成」を掲げる神姫バスに務める三木さん。
担当業務はビルやマンションの開発で、不動産会社から紹介された物件を検討、購入し、その賃貸料収入で安定利益を追求することが求められます。
会社が2023年のあるべき姿を「まちづくり・地域づくり企業への進化」と宣言しており、全社的にまちづくりの下地はかなり醸成されている状態だと語ります。
そんな中、リノベーションスクールの対象物件になったのが、もともとモノレールが走っていた橋脚が特徴的な建物。駅から歩いて5分と好立地ですが、築56年で長年使われておらずボロボロ。三木さんは、雨漏りまでする状態だったこの物件を、神姫バスが一棟丸ごと借りる提案をしました。
神姫バスが転貸する形で、1階部分はテナントを募集。この際、ビル全体の賑わいについて考えてくれる人をターゲットにしました。また、テナントの賃料は固定+歩合とすることで、後述する2階部分の「こどものASOBIBA ひめじ基地(以下、ひめじ基地)」の盛り上がりが1階テナントの売上に貢献し、その結果神姫バスの売上にも繋がるという仕組みを作りました。
ひめじ基地は、三木さんがこのビルの2階で運営しています。「子供たちと一緒に、やりたいが『つくれる』まちにする」をビジョンに、旧市エリアをあそび場に変えていく取り組みです。リノベーションスクールで出会った職種も業種もバラバラな個人が4人が集まり、活動しています。
ひめじ基地では「プチプチであそぼう」や、まちに繰り出して、まちを知ってもらうスタンプラリー「しのくぼたんさくツアー」を実施。その後、「壁塗りワークショップ」を開催し、子供たちと一緒になって基地づくりを進めたそうです。
2022年11月には第1回こどもアートフェスティバルを開催。
開催場所はもともとモノレールの駅があったことでひめじ基地と近いものを感じた三木さんが姫路市に協力を仰ぎ、現在空き地になっているその土地の使用許可をもらいました。
結果、大雨のため来場者は100名ほどでしたが、チョークで絵を描いたり、ワークショップをしたりと初めて大規模なイベントを開催することができました。
翌年、第2回こどもアートフェスティバルを開催。
子どもたちがお店に立ったり、空き地全体にチョークで自由に絵を描いたりと、天気にも恵まれ、700人以上の人が来場しました。また、この場で初めて会った大人同士が仲良くなり、その後地域の輪に溶け込むなど、子供も大人も楽しむあそび場になっています。
【トークセッション】
後半は、リノベリングの中島明・土田昌平も加わり、姫路市のこれまでを振り返りながらそれぞれが感じていること・考えていることをお伺いしていきました。
令和3年3月末に「姫路市ウォーカブル推進計画」が策定された姫路市。
姫路駅から姫路城へ向かう際に通る大手前通りは、目的地や滞留できる場所がほとんどなく、人通りはあるものの立ち止まるようなスポットがなかったそうです。
3年間、その大手前通りで中間支援の立場で社会実験を行い、今では自身もブリュワリーをオープンした梶原さんは「ストリートでナイトマーケットをしてビールを飲んでいると、関係ない人も寄って来る。その偶然性って面白い。ストリートの一番の醍醐味。」と語ります。また、家守としても活動しており、今後より家守が増えていくとまちの発展にもつながるのでは、と語ります。
行政の立場で関わる坂元さんは、姫路市での第一回リノベーションスクールを経て、エリアに面白さを感じてくれる人が増えたのでは、と言います。自身も、前部署で持っていた堅い雰囲気を捨て、まちを楽しむようになってから、自然とまちのプレイヤーたちとの繋がりができたそうです。
神姫バスに務める三木さんは、「会社が掲げる地域共栄のビジョンに、個人でやりたいことが合致すると感じた時は、会社の肩書きを持ちながらどんどん進む」と言います。ひめじ基地があるビル自体を神姫バスが借りており、ひめじ基地としては賃料がかからない仕組みを作っています。加えて、1階にテナントを入れることで神姫バスの利益も生み出しています。個人でやりたいことと、会社員としてすべきことを1つのビルで実現しているのはカッコイイですね。
事業継承した荒物屋を駅西エリアで営んでいる土田さんは、行政がまちの人と繋がるきっかけ作りをしてくれたことで、自身の事業をスムーズに自走させることができたそうです。
また、「まちに三木さんがいてくれてありがたい!」と言います。
土田さんがまちの人と日常的に会話をしていると、ときに出てくるのが地価や賃料の上昇、それに伴ってお店を閉めるかもしれない、という話。土田さん個人が何か直接サポートすることができなくても、「不動産の知り合いいるから相談してみようよ」と三木さんを紹介することが多々あるそうです。
三木さんにとってもこれは嬉しいことだと言います。普段は企業の人間として仕事をしており、まちのど真ん中に常に居られない現状もあるため、日常の中で情報共有を行えるのはありがたい、と言います。
大手前通りエリアと駅西エリアが盛り上がってきた今、今後は双方のエリアにいるプレーヤーがお互いのエリアに進出したり、その先にコラボが生まれたり。イベントだけでなく、まちの日常を楽しむプレーヤーたちによって、さらに姫路の日常も変化していくでしょう。
4つの先進事例に迫るオンラインイベント「変化が起きるまちは何が違うのか?〜4つのまちに学ぶ、公民連携とエリアリノベーション」。他都市の開催レポートもぜひご覧ください。