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【開催レポート】中心市街地を再生させた、QURUWA戦略と人が主役のまちづくり〜4つのまちに学ぶ、公民連携とエリアリノベーション【愛知県岡崎市】の事例〜

「変化が起きるまち」にスポットを当てて4つの先進事例に迫るオンラインイベント「変化が起きるまちは何が違うのか?〜4つのまちに学ぶ、公民連携とエリアリノベーション」。

第二弾で取り上げるのは、愛知県岡崎市。2018年に開始した「QURUWA戦略」では、籠田公園や中央緑道などのハード整備と併せて、市民の様々なチャレンジを促す取組みと、新たな自治会の連合会の設立と参画を生み出しました。今回は「QURUWA戦略」立ち上げ当初から関わる岡崎市職員の中川さんと、3名の民間のみなさんにお話をお伺いしました。本記事では、2024年7月25日に開催したオンラインレクチャー&トークセッションをレポート形式でお届けします。


【ゲストスピーカー】

前半では、岡崎市職員の中川さんにQURUWA戦略の概要とこれまでの取組みについて、民間プレーヤーの筒井 健さん・飯田 圭さん・畑 克敏さんにはそれぞれの取組みについて、お一人ずつお話していただきました。

①中川 健太さん(岡崎市 まちづくり推進課​​)

中川さんは、2013年のQURUWA戦略の計画策定時から12年間関わり続けている唯一の職員です。QURUWA戦略が目指すのは「にぎわい」ではなく「暮らしの質の向上とエリア価値向上」。QURUWAの特徴である約50%を占める公共空間と、民間空間を最大限活用し、公民連携でトライを重ねます。

QURUWA戦略を開始する前は、人口が減り商店も減少、地価も下落していました。まちのシンボルである籠田公園にはこどもの遊ぶ姿はなく、浮浪者が訪れる場所になっており、周辺の高齢化率も40%を超えるなど、あまりよくない状況でした。
また、自動車産業を含む第2次産業への依存、職を求める若い女性の他県への流出などの都市経営課題がありました。
それらの課題を解決するために、日常を楽しく暮らし、一部の産業に依存しない「新しいライフスタイルをつくる暮らしのリノベーション×産業づくり」を目指すQURUWA戦略が動き出しました。

当初は大規模なハード面の整備からスタートしましたが、建物単体だけでなくエリア全体の価値向上が必要だと気付き、リノベーションまちづくりの推進を始めます。

岡崎市のリノベーションまちづくりの特徴は「大きなリノベーションまちづくり」と「小さなリノベーションまちづくり」の両方を推進していること。

大きなリノベーションまちづくりの事例としてまず挙げられるのが、籠田公園です。デザイン性を高め、利活用を意識した整備を行いました。
また、中央緑道は「道であり、広場でもある」という「みちひろば」をコンセプトにして整備を進め、通り抜けも滞留もできる場所になりました。

小さなリノベーションは、民間や自治会の方たちが自分たちのやりたいことを、自分たちの得意分野を活かして進めています。それぞれの人がどんな思いでどんなことをしているのかは、QURUWA戦略に関するサイト「あの人のトライ」で知ることができます。

籠田公園の完成(=大きなリノベーション)と同じ年度には、リノベーションまちづくり(=小さなリノベーション)による新規出店者が6~7名生まれ、籠田公園の周辺エリアでの滞在時間、滞在のバリエーションが増えました。しかし、数年続けていると出店希望者の頭打ちや、使える空き家が出てこないなど、という状況が出てきます。

そこで次の展開として立ち上がったのが「ネオ自治会」と呼ばれる自治会の連合体、QURUWA7町・広域連合会、そして次世代を担う30~40代が参加する「次世代の会」です。

QURUWAの公民連携における行政の役割は「民間のビジネス環境整備」。
公民連携人材の発掘や育成、専門家との調整、道路空間活用の推進(規制緩和)など、補助金に頼らず継続的なビジネスができるようなサポートをしています。

12年目になるQURUWA戦略によって、これまでになかった日常が生まれています。籠田公園では子育て世代や学生、高齢者や障がい者など様々な人がそれぞれ自由に過ごす姿が見られ、中央緑道では丘の途中のマーケットが開催されるなど、人々が集い、多様な過ごし方ができる場所が生まれました。

今では、岡崎市の人口や来街者数は増加しており、エリア価値や税収も上昇中です。


②筒井 健さん(7町・広域連合会​​)

不動産管理が本業の筒井さん。
長らく自治会(町内会)で活動されたり、青年会議所(JC)、商工会議所青年部(YEG)に所属されていました。しかし当初は行政と関わる機会はほとんどなく、QURUWA戦略をきっかけにまちとの繋がりが生まれ、深い関わりになっていったそうです。

「次世代の会」をベースにしたエリアマネジメント会社「株式会社Q-NEXT(以下、Q-NEXT)」、空き家活用の「南康生家守舎」を畑克敏さん、中川健太さんらと設立。
Q-NEXTは、よくある指定管理をする会社ではなく、人と人を繋げるなどソフト面の整備をすることでエリア全体をマネジメント・プロデュースする会社です。また、南康生家守舎は一般的な不動産市場には出てこないような情報を筒井さんの人脈やまちに住んでいる人からの情報提供で収集し、まちに眠っている不動産の利活用を進めています。

③飯田 圭さん(Micro Hotel ANGLE)

現在、岡崎市内で「Micro Hotel ANGLE(以下、ANGLE)」を運営されてる飯田さん。出身は岡崎ではなく山梨県だそうです。

大学進学をきっかけに上京。就職で山梨県へ戻り、金融機関に務めました。中小企業支援施設への転職をきっかけに岡崎市へ引っ越し、現在は岡崎市でANGLEの運営をしています。

岡崎市は徳川家康の生誕地。もともと城下町として栄えていたこともあり100年越えの企業が多くあります。加えて、近年はQURUWA戦略の影響もあり新しいお店も増えているそうです。

飯田さんは岡崎市を「カルチャーのあるベッドタウンであり、かつ新しいオルタナティブな尖った新しい個人店もあるまち」と語ります。にもかかわらず、地域外にはほぼ知られていない。そして、暮らしの選択肢も多くはない。これらの状況を見て「良いものがあるのにもったいない!」と思い、人がまちに来るきっかけ作りとして、ANGLEの運営を始めます。

岡崎市で最も古いカメラ屋さんをリノベーションしてできたANGLE。個室6部屋の小さなホテルです。1階はカフェスペースになっており、地域のお店の第二の店舗として利用されたり、将来独立したい人が週末の夜だけワインスタンドをオープンしたりしています。宿泊客と、地域の人が交わり、岡崎の暮らしを楽しくするために能動的に街に関わる人を増やす場になっています。

岡崎市には絶景、自然の豊かさなど分かりやすい観光地は少ないけれど、豊かな暮らしと日常はある。ANGLEを通して、視点を少し変えて暮らしに入り込んでもらう旅を届けたい。そんな思いから「暮らし感光」を進めています。
「感光」の意味は「物事に光が当たり化学変化を起こすこと」。従来の非日常(ハレ)や歴史的建造物、観光客向けのお店を楽しむ観光ではなく、まちの日常(ケ)やその土地独自の暮らし、地域の人との接点など、五感で地域の光を感じられるような「感光」=「暮らし感光」を目指しています。

現在は、これまで実施してきたまち歩きやマップ作りなどの企画をパッケージ化し、観光から関係構築、そして移住までの流れを作る「岡崎暮らし感光ツーリズム」の実現に向けて準備を進めている最中です。

④畑 克敏さん​​(studio36一級建築士事務所、南康生家守舎)

建築家としてまちに関わってきた畑さん。
QURUWA戦略の黎明期、行政側の視点で素案作りに関わったのち、立場を民間に移し設計活動を始めます。現在は自治会と連携しながら家守としての活動も開始し、公民を繋ぐ役割を担っています。

studio36がQURUWAで関わったプロジェクトはここ5年間で15~16個、QURUWA以外の岡崎市では11個、併せて26~27個もあります。(計画中のプロジェクトも含む)

イベント後もまちに定着してもらうために、まちの中継所的スポット「GUU GUU」という拠点を作りました。GUU GUUは中央緑道沿いに位置する複合施設。2階には畑さんの設計事務所もあります。窓からは、下校途中の高校生がたむろしたり、親子が遊んだりする様子が見え、まちに開いた場所を作ることで、公共空間に人が滞留するようになってきた実感があり、民地から公共(空間)は変えられる、と思ったそうです。

畑さんにとってQURUWAは少し範囲が広すぎたため、南康生をテリトリーに活動する南康生家守舎を立ち上げます。江戸時代には町人25人に1人いた家守。家守はもっといていい!と語る畑さん。QURUWAの住民が4000人と仮定すると160人の家守が必要だそうですが、今は全く足りていないそうです。

建築設計事務所として小さな街区を変化させ、家守としてその変化をまちにも広げていく畑さんは、複数の役割を行ったり来たりしながら、活動を続けます。

【トークセッション】

後半は、リノベリングの中島明・酒井良も加わり、岡崎市のこれまでを振り返りながらそれぞれが感じていること・考えていることをお話していただきました。

左上:中川 健太さん(岡崎市 まちづくり推進課​​)、中央上:酒井 良(リノベリング)、右上:中島 明(リノベリング)、左下:筒井 健さん(7町・広域連合会​​)、中央下:飯田 圭さん(Micro Hotel ANGLE)、右下:畑 克敏​​さん(studio36一級建築士事務所、南康生家守舎)


行政、民間の垣根なく一体感のあるチームに見える岡崎市の皆さんですが、QURUWA戦略が始まった当初はそうではなかったそうです。
QURUWA戦略について、行政の立場の中川さんは「最初は本質がよく分からず、自分の尺度でいいかどうかの判断がすぐにはできなかった」と話します。自治会町の筒井さんは「当時は行政が住民の意見を聞かずに進めている感があり、怒りの感情からスタートした」と言います。

そうした状況から「チーム」になれたきっかけは、籠田公園が完成したこと。建築家であり家守としてまちに関わる畑さんは「ハードが変わって人が変わった。その成功体験をまちの人たちと共有できたのは大きい」と話します。

ハード面の整備をしても作って終わりでまちに変化なし、という地域もある中で岡崎がここまで変わったのは、行政と自治会含む民間との密なコミュニケーションがあったからでしょう。オープンな場で互いの声を伝え合えたことが、まちに大きな変化をもたらしました。

ANGLEを運営する飯田さんは、宿業開始にあたって必要になった住民説明が、自分の思いを地域に伝える良い機会になったと言います。どんな思いで宿をやりたいのか、理解してもらった上で事業を進められているそうです。

行政、民間、自治会などそれぞれの立場にいるプレイヤーたちが、思いや体験を共有できているのが、岡崎市の特徴かもしれません。

今後、畑さんは家守を増やすこと、飯田さんはまちの良さを知ってもらうツーリズムの実現、筒井さんは自治会の仕組みそのものの見直し、中川さんは次の世代への継承など、やりたいことはまだまだあるようです。

力強く未来を語るみなさんの言葉に、聞いている方まで勇気をもらいました。たくさんの人のトライが生まれ、変化し続ける岡崎市に、今後も目が離せません!

4つの先進事例に迫るオンラインイベント「変化が起きるまちは何が違うのか?〜4つのまちに学ぶ、公民連携とエリアリノベーション」。他都市の開催レポートもぜひご覧ください。


株式会社リノベリングは、上記の都市以外にも100を超える自治体のみなさんと様々な実践を繰り返してきました。まずは個別相談から承っています。新しいチャレンジをぜひ自分のまちでも取り組んでみたいというみなさんは、どうぞお気軽にご相談ください。