まちづくりの第一歩。20代でもできたカフェ経営 | カフェ/BOTAcoffee 山形県山形市(2017年掲載事例記事)
BOTAcoffeeってどんなところ?
大正時代に建てられた山形県郷土館「文翔館」や「七日町郵便局」など、いくつもの洋風建築を見ることのできる山形県山形市。
その山形市の中心地であり、明治時代以降に卸問屋街として栄えたのが七日町です。ある道沿いには数多くの映画館が存在していたことから、その道は「シネマ通り」と呼ばれていました。しかし2008年に最後まで残っていた映画館が閉館し、現在はシャッターの閉まっている店舗も少なくありません。
2015年12月、その「シネマ通り」にカフェ「BOTAcoffee(ボタコーヒー)」がオープンしました。店長は佐藤英人さん、28歳。佐藤さんに、ここにお店を構えた経緯や現在の様子について聞きました。
BOTAcoffeeができるまでのストーリー
STEP 01 こんな経緯から始まった
高校生の頃からの「自分の店を持つ」という夢
「高校生の頃から雑貨や家具が好きだったんです。『いつか自分の店を持ちたい』と思い、家具を集めていました。山形市内の実家にどんどんたまっていくので、親から『いったい何に使うんだ』と言われていましたね(笑)」と話す佐藤さん。
大学時代には、カフェめぐりをするうち新たにハマったものがあったそうです。「コーヒーです。以前は飲んでいなかったのですが、『ハンドドリップっておもしろいな』と思ったところから、どんどん好きになりました」。大学卒業後には生の豆を仕入れて焙煎し、友達に販売するようになったそう。
その豆は知り合いの美容室に気に入られ、ついに卸まで行うように。「うれしかったですね。自分がおいしいと思う豆を、好きな焙煎方法にしたものでしたから」。佐藤さんはここで、自分の好きな味を提供し、それに反応があることのおもしろさを味わったのかもしれません。
大学卒業後、大手不動産会社に就職して上京したものの、3ヶ月で退社。帰郷して宅建の勉強をし、母校である東北芸術工科大学の馬場正尊研究室に出入りしていたことがきっかけで、地元の不動産会社に就職します。
STEP 02 「リノベーションスクール」を機に
傘屋「洋傘のスズキ」の跡地の活用を考える
佐藤さんが仲介業をしていた2014年9月、山形で「リノベーションスクール」が開催されることに。同スクールでは、地元の空き物件を「課題物件」として用意する必要があり、佐藤さんは3年ほど空いていたある物件に目をつけます。
それは、傘の販売や修理を100年間も行っていた傘屋「洋傘のスズキ」の跡地でした。佐藤さんは、オーナーにスクールの説明をしたうえで「ここを活用しませんか。山形のイベントにぜひ参加してください」と相談し、提供が決まりました。
佐藤さんはスクールに、準講師にあたるサブユニットマスターとして参加。七日町でクラフトイベントがよく開催されていることから、参加者の間で「ものづくりカフェ」にするプランが練り上げられましたが、経済的理由や参加者の多くが県外在住者だったことなどが重なり、その後それは上手く進みませんでした。
「2015年夏頃、『自分が本当にやりたいことは何だろう?』と考えたんです。自分のカフェを持ちたい、と思いました。それもただコーヒーを出すのではなく、コーヒーはカフェのコンテンツの一つであって“空間そのものを売る仕事”がしたい、と。アーティストなどの色々な才能を持つ人たちが展示をしたり、モノを販売したりして、コンテンツを持ち寄るフレキシブルな空間です」
STEP 03 事業計画
家賃を10万円に交渉し、全額800万円の融資を受ける
佐藤さんは、4年半勤めた地元の不動産会社を2015年8月末に退社。9月に資金計画を立て、日本政策金融公庫でプレゼンテーションを行いました。
「全額800万円の融資を依頼しました。その内訳は、トイレや厨房、2階のミニキッチンなどの水まわりに280万円、内装デザインに150万円、厨房設備に100万円、電気設備工事に100万円、食器や一部の家具などの備品に50万円、解体に40万円、物件取得に35万円などです」
初期費用をおさえるため家賃を交渉し、35坪を10万円で借りることになったそうです。さらに、工事期間中は家賃をタダにしてもらい、不動産の仲介料も半額になったため、初期費用は30万円ほどだったといいます。
融資は10月に無事決定。月に10万円を80回払いで返済することになりました。「オープンした現在のランニングコストは、家賃と返済をあわせて月に20万円と人件費が15万円弱、光熱費・雑費で10万円。他に仕入れ代がかかりますが、飲食の売上が黒字になっていて、おかげさまで順調に返済しています」
STEP 04 開店準備とリノベーション
多くの仲間がお店のパーツを創作してくれた
支出をできるだけおさえ、賢くプランニングをしている佐藤さん。空間づくりでは、融資決定の前に設計図や解体の見積もりなどを進めていたため、10月末の契約直後に解体をスタートします。
「工務店に丸投げせずに、センスの合う方と店づくりをしたかった」と話す佐藤さんは、水まわりだけをある工務店に依頼し、内装は知り合いのデザイナーと話し合って決めることにしました。「現場で『こうしよう』と話しながら、設計図のないデザインをしていきました」
仲間が新たな仲間を呼び、「溶接ができる人が扉を作り、左官が壁塗りを担当し、他の仲間がカウンターの足場となる石を用意するなど、集結したメンバーが一緒に作り上げてくれました」。こうして、なんと解体から1ヶ月半後の12月中旬にお店が完成したのです。
店名は「BOTAcoffee」に決定。「洋傘のスズキ」からヒントを得て、「雨」や「傘」のキーワードから、水の滴る音の「ボタ」に決まったそうです。「ここを守った歴代の家主さんの想いを店の名前で継承したかったんです」
STEP 05 現在とこれから
“点”をつないで“面”にしていくまちづくり
客層は、平日は買い物帰りの主婦、土日は若いカップルが中心。「意外だったのは、七日町に来る機会のない人が、当店を目当てに来てくださることでした」。地元商店街もウェルカムムードで、お店を経営する人が「コーヒーを飲みたい」と立ち寄ることも多いそう。
これまでに料理人などとのコラボレーション企画を開催していますが、「今後は当初の事業プランをさらに実現したい」と佐藤さん。2階のスペースも活用し、アートの展示や映画イベントなどで、アーティストやクリエイターが関われる空間を目指すそうです。
実は、店づくりに関して佐藤さんが強く意識していたことがありました。それは、七日町のすぐ近所にオープンした「とんがりビル」の「エリアごとリノベーションし、シネマ通りを元気にする」というビジョンと、馬場さんの「“点”をつないで“面”にしていく」というまちづくり論。
「“点”の部分を僕は今創っているのですが、来てくださったお客さんには街なかを見ていってほしい」。お客さんに近所でおすすめのところを聞かれたら、センスのいい好きなお店を紹介しているのだとか。既に“点”を“面”へと展開し、まちを少し変えつつある佐藤さんは「おもしろいコンテンツがあれば必ず人は集まってきます」と語ります。
スマートにプロジェクトを進め、順調に経営する佐藤さん。今後は「BOTAcoffee」でイベントを不定期に開催し、「古い旅館をリノベーションした近くのシェアハウス「ミサワクラス」に住むアーティストたちと何か一緒にやりたい」とも考えているそうです。
さらに、映画館がなくなってしまった「シネマ通り」に映画館スペースを復活させる構想から、現在は2階を「BOTAtheater」にするため改築中。「シネマ通り」や七日町の今後が楽しみです。
(Writer 小久保 よしの)