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投資信託の月次レポート、タテとヨコで比較できるようになる日はいつやってくるのか

6年近く毎月、計70回、月刊誌『投資信託事情』にコラム連載の機会をいただいてきました。先日、その連載が最終回を迎えました。

この連載の過程で、いくつか挑戦を試みたのですがそのうちの一つが #月次レポート研究所  です。

月次レポートとは、投資信託が発信する毎月の報告書です。ほぼ全ての投資信託が月次レポートをつくっています。

素晴らしく中身の充実した月次レポートもごくわずかに存在しているのですが、その大多数が残念な存在にとどまっています。これを変えられないか、というのが月次レポート研究所の挑戦です。

SNSを見ていると、アクティブファンドは「フィーが高い」だの「パフォーマンスが冴えない」だの等々、ボロカスに批判されています、批判されまくっています。

月次レポートの現状を見ると、こう思うのです。

自業自得

こんな情報発信だったらボロカス言われても仕方ないだろう、と。

問題は極めて初歩的というかプリミティブというか。なぜかというと、レポート、情報発信の内容以前の問題だからです。

内容以前の問題とは、より具体的に言うと、適切な比較が極めて困難だ、ということです。

比較が困難なのは、タテ(時間軸)、ヨコ(他のファンド)、この両方です。


タテ

まず時間軸、時系列の観点からです。

野村アセットマネジメントさんに『情報エレクトロニクスファンド』という運用成績がたいそう立派なアクティブファンドがあります。このファンドのWebページのスクリーンショットです。

サイトを見渡してみても、このファンドの月次レポートは「最新」のものしか見つかりません。

先月、3ヶ月前、半年前、1年前、3年前、5年前、10年前のものは確認できません。

月次レポートの中身です。

ファンド資産、投資先は2024年2月末時点のスナップショットのみです。過去の状態との比較はありません。

このファンドの場合、2015年2月の決算期の運用報告書(全体版)以降、年次でファンド資産を確認することは確かに可能です。

https://www.nomura-am.co.jp/fund/annualreport.php?fundcd=140012

ただ、これは年次のものです。

https://www.nomura-am.co.jp/fund/annualreport/140012/R2140012_20210222.pdf

この期の期初の投資先は34社、期末は37社となっています。仮にこの期中に100社、200社まで投資先を増やしていても、その経過は分かりません。月次のレポートが確認できれば、そんな極端なことは起きていないだろうと類推できます(月中にドカンと増やして月末に戻している、という可能性は消せませんが)。

また、中身を取っ替え引っ替えしていないかどうかも推測することができます。

株式投信でAUM 2位の大和アセットマネジメントのケースです。

このファンドのケースでも、月次レポートは最新のものしか見当たりません。

こちらのファンドも過去の状態は示されていません。

上記のグラフは市場全体との比較として大変参考になるものですが、今までがどうなっていたのか、は分かりません。今までの経過が判れば今後の傾向の予測する材料となります。

しかし、足元の状況だけでは今後どうなるのかを想像することはできません。

ファンドがこれまでどんな軌跡を辿ってきているのか、それをより多く示してもらって、僕たち投資家は比較検討できるようになります。

投信会社側の言い分が「そんな手間、容量が無い」ということであれば、それはファンドがあまりに多すぎるということだろう、と考えます。

ヨコ

月次レポートで示される定量データは各社、各ファンドでバラバラです。

このため、ファンド同士の比較が、パフォーマンス、騰落率のみに陥りがちです。

ファンドのパフォーマンスの源泉は投資先、ファンド資産の中身です。それを比較するための材料があまりに乏しいのが実状です。

その種の情報を全体で一律に揃えてください、と言いたいところです。が、そこを統一したりすると、開示の範囲を狭くするインセンティブにもなりかねないので、今のままで結構です。

しかし、ファンド間の比較を容易にするために、一つだけ、全てのファンドで月次レポートで開示してもらいたい内容があります。

ポートフォリオの特性

です。

https://www.smd-am.co.jp/fund/pdf/0827m.pdf


https://www.nvic.co.jp/wp/wp-content/uploads/2024/03/id200001_report1_2403.pdf

こうしたデータは、ファンドの目論見通り運用されているか確認する材料となります。

「バリュー」「割安」と銘打ったファンドが本当にバリューっぽい投資先でポートフォリオをつくっているのか、「グロース」「成長」と銘打ったファンドが本当に成長を評価されている投資先でポートフォリオをつくっているのか、が分かります。

そして、ファンド同士の比較が可能になります。

https://www.smd-am.co.jp/fund/pdf/158346m.pdf

「配当フォーカス」と銘打ったファンドであれば、このような指標も必要となるはずです。これがあれば「配当」を投資判断の根拠としているファンド群でのヨコの比較が可能になります。

これにタテ、時系列の情報が加われば、さらに比較の視点、視座を増やすことができることでしょう。

アクティブファンドを選ぶのは難しい

難しい。僕もそう思います。その最大の理由は、比較するための、判断するための情報があまりに少ないから、です。

レポートの中身、発信の内容についても色々と意見はあります。しかし、現在はそれ以前の状態です。この記事でご指摘したのは「最低限」のお話かと思います。

その「最低限」さえクリアできなければ、アクティブファンドはボロカスに批判され続けることでしょう。

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