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10年ごしの君の相づち

 好きな相手や尊敬している相手の口調や口癖はうつるらしいという話は知っていた。私が店長モードでお説教をしたり、話をしたりする時は、泣きたいくらいに私の店長のコピーだ。「さんきゅーありがとう」という、なぜ、2回重ねる…と疑問に思うお礼の言い方がうつってしまった時には、なんてこったと笑ったもんだ。何しろ、全く気がつかない内にうつっていて、ある時、ハッとするのだ。「嘘、やだ、あたし、さんきゅーありがとうって言ってる」と。そして、無意識に言ってしまうので、そこからは毎回、「あ、また言ってしまった…」と笑ってしまうのだ。私の店長と繋がりがなくなり、もう5年近くが経ち、一度店長職をおりたこともあり、いつしか私もその言い回しをしなくなってしまったことに気が付き、少し寂しくなる。

 私のくだらない口癖がうつってしまってるのを見たこともある。10年以上経っても繋がりがある1年目を支えてくれた子。ショックを受けた時に私が言っていた「どーん」だった。「もう、絶対こんなこと言わなかったのに。あ、また言ってしまった」と度々聞かされて、すまんねぇと笑ってた。

 さて、私には昔から疑問に思うことがあった。当時はまだ彼氏だった旦那と、お店で相棒だった子が相槌で度々「そうね」って言うのだ。旦那も相棒も男性である。あまり性別だからという言い方は好きではないが、どちらかと言えば男性はあまりしない言い回しなので、ふたりとも面白いな〜不思議だな〜とひとりで感心していた。

 そこからずっと時間が経ち、私は店長職をおり、娘か生まれ、長い育休を得て、職場復帰した。なかなかしゃぺらなかった娘は保育園に行き始めてから、めきめきしゃべるようになった。しゃべるようになった娘は、なかなか面白い言い回しなどで楽しいおしゃまさんだった。しかし、そのクスッと笑える娘の物言いは、残念ながら全て私のコピーなのである。自分でも気が付かない言葉のくせを、しかも、微妙なくせを完全にコピーして披露してくれるので、本当に参ってしまう。

 そうして、ある日、春が近い公園で散歩しながら、私を見上げて娘が「しょうねぇ」って相槌をうっていることに気がついてしまった。その瞬間、そっか、そうだったんだ。あれは、あの不思議な相槌は、私のくせだったんた。10年以上経って届いた君の相槌が、何でも出来た君が私をちゃんと店長として信頼してくれていたんだなと教えてくれた気がした。

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