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休日はパン屋。強い雨が降っていたので、父が車で送ってくれるとのこと。エプロンをつけて車に乗る。店に着くまでの短い間、部屋にごみが溜まっているぞと説教をくらった。最近の父は「まだまだ子供だな」とよく言う。少々、というかかなりうざい。通り過ぎた歩道に、大きな荷物のようなものが見えた。

店の自動ドアを力づくでこじ開けて入る。いつもは後ろから出勤するので、みんなを驚かせてしまった。「人が倒れてるかもしれないです!!」もっと驚いたみんなの顔も見ず店を飛び出た。早朝の枚方には人が通らない。そしてきっと酔っ払いだと思われる。勘違いかもしれないけれど、とりあえずわたしは走っていた。横断歩道の対岸から女性が通報している声が聞こえた。

電話の声だけ聞いたとき、わたしの気持ちは「怖い」だった。今年に入って何度も事故を目撃している。車に轢かれた人、突然道に倒れた人、そこから去る人と寄ってくる人。
いつもの道が突然ざわめくことが恐ろしい。
人が動かなくなる瞬間が怖い。

1秒以内にいろんなことを思い出した。ガードレールの向こうで倒れているのは若い女性だった。

側に落ちているスマホは119に繋がっていた。
女性の呼吸は荒れていて、喋ろうとすると引き攣った息が出るみたいだった。「大丈夫、もう来たから」。呼吸に専念するように促す。電話口を代わって場所を伝える。わたしにとっていつもの道のいつもの場所を、どう伝えれば良いのか躊躇った。

救急車が来るまでの間、ひたすら呼びかけ続けた。「大丈夫すぐ来るって」、「あとは待つだけだから落ち着いて呼吸して」。

わたしよりも断然苦しくて不安なはずなのに、彼女は自分の呼吸の隙間で「すみません」「仕事」と言っていた。エプロンを見て申し訳なく感じたらしい。「毎日遅刻してるから大丈夫笑」とか答えた気がするけどいろんな意味で大丈夫じゃなかったな。

深呼吸するように促した時、電話で「吸い込みが多い状態なので、吐くように伝えてください」と教えてもらった。声だけで分かるんだなと感心しつつ、自分の無知を情けなく思った。

サイレンが聞こえて、救急車をタクシーみたいに停める。女性は咳き込んでから大きな声で「すみません」と言っていた。迷惑とかそういうものじゃ無いし、何でそんなこと気にするの?とモヤモヤしたけれど、「どういたしまして!」とだけ言ってパン屋に戻った。

「どういたしまして」には感謝以外の感情も受け取る力がある気がする。




【※追記】

「Live119」というサポートがあるみたいです。
これは、救急隊がその場を見て適切な処置を指示してくれるというもの。
実は救急車が来るまでの時間って結構あります。比喩でも何でもなく、近くにいた人に命がかかっている。もっと認知が広がるといいなあ。

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