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「パンツをはいている者」と「パンツをはいていない者」

世界中には人間が沢山いるが、大きく二つに分けることができる。

「パンツをはいている者」と「パンツをはいていない者」だ。

卓球日本代表の水谷選手も「パンツをはいていない」らしい(らしいというのは実際に俺は確認していないため)。

世界中に人間が沢山居すぎて正確な数を調査するのは困難だが、とにもかくにもそう分けることができることは断言できる。

最近は週6-7でボディコンバットのクラスに参加している。筋トレマシンには触りもしないが、ほぼ毎日ジムに通っている。

コンバットが終わってロッカールームにもどる。シャワーを浴びるべく服を脱ぎ、タオルとパンツをもってシャワールームへ。

途中、大きく”OUT OF ORDER” (故障中)と書かれた貼り紙がしてあるガラス張りのサウナの中に(おそらく中国人の)おじいさんが一人いて座っている。

貼り紙、見えなかったんだろうか。俺は思う。

目が悪いのかな。俺は思う。

英語が苦手で読めないのかな。俺は思う。

もしかして貼り紙自体が扉全体のデザインに見えてるのかな。俺は思う。

いくらそこにいても温度なんか全く上がらない。サウナのこっち側とそっち側の温度は変わらないのだ。

じいさん、タオル一枚でむしろ寒くなっていきはしないか。

そしてそのタオル、小さすぎやしないか。

そのときどこからともなく声が聞こえた(…気がした)。

「誰もいないスペースで自分を見つめなおしたいんじゃ」

俺は心の声で返した。

「でもみんな見てるじゃないか。」

「いいんじゃ。見てもらいたいんじゃ。いやむしろワシを見せてやりたいんじゃ。いや、見せつけたいんじゃ。」

嗚呼、そうか。そうだったのか…(まさかそれでそのタオル?)。

「サウナ、機能してないよ」

そんな野暮な言葉はいらなかったのだ。(言ってあげられない俺の心の弱さの問題ではない)

納得して通り過ぎかけた俺はあ、っと思って立ち止まった。

そして振り返る。

振り向いた俺の目に映ったのは、ガラスケースに入っている”OUT OF ORDER”のじいさんの姿だった。

南無…


ふうっ。

話が長くなった(いつものことだ)。

左に折れてシャワースペース。

いくつもあるシャワーボックスは、使う場所を決めてある。

ふふふ、いつも思うが、日本人にはこんなシャワースペースは作れまいな…。日本人が作れるのは所詮たったの一種類。どの場所も寸分たがわず均一に水/お湯が出るシャワーくらいのもんだろう。

オーストラリアは違う。

同じ角度にひねっても、おりゃーーーっと死に物狂いで湯が出るもののあれば、ふざけているのかと思えるほどチョロチョロのシャワーもあるのだ。俺の汗の方が流れるのが速いくらいだ。

どうやったらそんなものができるのか、そうできたものを許容できるのか分からないが、それが通常なのだ。初めて使う者へのドッキリまで含まれたシャワーなのである。

で、水圧の強いのが二つ。俺はいつもそのどちらかを使う。

そのどちらもふさがっているときはその次のチョイスまで準備してある。

日本なら(空いてさえいれば)先に浴びている人の隣には入らず、一つ間をとって入る(だろう)。せっかく気持ちよく個人の時間を過ごしているのに視界に入って邪魔したくないと思うからだ。そんなことさえ日本人はとてもセンシティブなのだ。しかしここでは違う。

最初のころ、俺は不思議でならなかった。他が空いているのに、どうして隣に来るんだろうと。向こう行けよ、と。

しかしじきに納得する。そんなことをしたらチョロチョロに入らねばならないのだ。シャンプーが頭からちっとも流れてゆかない、永遠に流しきらないかもしれないと思わせるシャワーを、少なくとも俺は浴びたくない。

さて、ベストのシャワーボックスに入って、いつものようにパンツとタオルをひっかけよう…としたところ、信じられないことが起こる。パンツが床に落下したのである。見る見る間に床に広がる水分がパンツに移動する。

あらゆる恐ろしい菌がウヨウヨしているイメージのその床の水が(俺はゴム草履をはいている)あっという間に俺のパンツを犯してくるのである。

急いで拾い上げたが時すでに遅し。勢いのあるシャワーで洗ってはみたものの、濡れたパンツをはくのは「好み」か「好みでない」かで言えば、100%「好みではない」

付け加えれば、脱いだパンツも汗びっしょりで、濡れたパンツに属すので結果は上と同じである。

というわけで、シャワーを浴び終わった俺はパンツをはかずにロッカーに戻り、そのままスエットパンツをはくことにした。

いつもではないが、年に数回、やむを得ずこういう状況に陥ることがある。強調しておくが「やむを得ず」である。

というわけで、世界中の人間は大きく二つ、「パンツをはいている者」と「パンツをはいていない者」に分けられる、

という話(なのかどうなのか)。


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