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夢幻鉄道11 オババ様

背中に何かがとりついて体が重くなってから1ヶ月。もういい加減にして欲しい。助けて!と、思っていた。

遠方の友達が訪ねてくる、好きなアーティストが近くでイベントする、でも、体が重くて行けなかった。悔しすぎた。

とりあえず、なんか行動しようと、駅に行った。

そうだ!踊り子号に乗って、伊豆に行こう!

伊豆に着いたはずなのに真っ暗。。。どうやらどうやら、誰かの夢の中に迷い込んだらしい。

誰かの夢の中に入り込む、それが夢幻鉄道のお話となる。。。

気付くと、隣にオババ様が立っていた。

あ、オババ様ってのは通称で、本名は知らない。小さい頃、よく神社の境内で近所の子らと遊んでいた。オババ様はいつも座布団に座って、ニコニコと子らを見守ってくれていた。

子どもらの世界でも、毎日色んなことがあった。父親が失踪したり、母親が育児放棄ぎみだったり、子どもらは別にそれを誰に話すでもない、なんか困ったなと思ってる、そんな時でも、そんな時じゃなくても、オババ様がいつでも視線で背中を撫でてくれた。それは皆が感じていた。

だからこそ、遊具もなんにもない境内で、皆は集い、日が沈むまで、安全安心を貪っていたのだろう。

そのオババ様が、「あなたは今困ってるんだねぇ。」と背中を撫でてくれた。

「これが重くて取りたいんです」

オババ様が言う。

「全てを感謝に変え、手放すんじゃ」

そして、オババ様の体と私が一体化した。

「オババくらいの年齢になると、こんなにあちこち痛いんじゃ。手先足先もこんなに重いんじゃよ」

「わあ、ほんとうだ。」

「吾子よ、だからの、背中に何か着いた位で、そんなジタバタせんでもええ。

そしての、今日という1日を感謝の日にしてごらん。」

「コツは、湧き上がる否定的な感情を、全て感謝に変え、一つひとつ手放していくんじゃ」

そう言うと、色とりどりの風船が、オババ様の手から漆黒の夜空へと吸い込まれて行った。

そこで目が覚めた。

伊豆に着いていた。快晴だ。

勿論、背中は重いままだ。しかし、気になら無くなっていた。オババ様の体を体感してしまったからね。

若い頃の何もどこも痛くない体と比較するから、辛かったんだ。

そして、まだ、オババ様の体になるまでには何十年かある。自分の境遇に感謝して、生きよう。

伊豆の海はキラキラ輝いていた。

私はこの背中ごと生きて行く。

辛さを抱えた人の気持ちに寄り添える、自分の人生を上々だと思う。この人生をありがとう。

オババ様、見ててね。

私もいつか、だれかのオババ様になるからね。

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