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02.泥棒

子供時代に大切にしていたことといえば。

家から子供の足で歩いて15分程のところにある
いつもちょっと薄暗い駄菓子屋。
大津製菓。
お菓子が山のように陳列された夢の空間だ。

おばちゃんは話し方が雑であまり優しくない、
おまけにちょっと太っている。
おじちゃんは滅多にお店には出て来ないから
顔も覚えていない。ただ稀に顔を出す時はいつも
長いコック帽を自慢げにかぶっていたのを覚えている。

大津製菓の店先には数台、
ガチャポン(トイカプセル)が並んでいた。
そのうちのひとつに、「ちりんちりん。」と鳴る
小さなベルと羽のついたストラップが
景品の台があった。

確か何度かまわして、お目当ての
ピンクと水色のを手に入れたらそこで満足した。

その2つとも、祖父母から貰った
真っ赤なランドセルに付けて

「ちりんちりん。」
と鳴らしながら学校へ行き、また

「ちりんちりん。」
と鳴らしながら家に帰った。

大津製菓は私の住んでいた小さな町の
子供たちの憩いの場であった。

「今日3時半にオーツセーカ集合ね!」

放課後に遊ぶ約束をすれば、待ち合わせ場所を決めるときの言葉は大体これだ。間違いない。

当然あのストラップも、女の子たちの中では
同じものを持っている子が何人もいた。

そしてある時、事件は起きた。

鳥居れなの真っ赤なランドセルに
心地よくぶら下がっていた、
ピンクと水色のストラップのうち、
ピンクのストラップだけがなくなったのだ。

その時、(どこかに落としてしまった。)
と考えるよりも先に(誰かに盗まれた!)
と思った。

だってピンクは、全世界の女子の憧れの的であり
愛されてやまないカラーであるのだから。

少し下品で、言葉使いの汚かった
自分とは性格が合わないと決めつけていた
あの子を心の中で疑ったりもした。

この歳になって、

誰かを疑うのは、自分にも同じようにずるい心があるからだ。

と、何かで見たけれど……確かにそうだと思う。

だからきっと、その頃から鳥居れなの中にも
下品なところがあったわけで、
実際に行動に起こした試しはなかったけれど、
誰かのものを盗むという考えがあったのだ。

恐ろしや。

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