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神宮外苑樹木伐採許可取消訴訟傍聴ルポ       

 2024年8月8日15時~東京地裁103号法廷
 令和五年(行ウ)第312号外     
 伐採許可処分取消等請求事件     
 原告/大澤暁、他 被告/新宿区

    本訴訟は、神宮外苑樹木伐採許可処分の取消等を求め、新宿区民が新宿区を訴えたものだ。
 当日は第4回口頭弁論にあたり、環境ジャーナリスト・村田佳壽子氏、新宿区民•中垣るり氏の意見陳述があった。

 103号法廷は傍聴席が100席弱ある大法廷だ。最終的に集まった傍聴人は40人程度だろうか。少ない。芸能人の薬物事犯の刑事裁判などでは平日にもかかわらず裁判所の外まで並ぶほどの人が押し寄せるというのに。市民の傍聴参加が多ければ世論の関心の高さを示すことができ、裁判官へ「安易な判決はさせない」というプレッシャーになる。傍聴は裁判の応援になため、今後も可能な限り参加したい。


◼️本処分は人権侵害。樹木伐採は全世界に対する加害

 村田氏の陳述では、本処分は憲法11条、12条、13条、25条に違反し、市民の環境権(人格権?)、生存権等を侵害するものである。
 外国人特派員協会での神宮外苑樹木伐採をテーマとした会合では、欧米の記者から「なぜ日本人はこのような暴挙を許しているのか。まるでNYのセントラルパークの真ん中にエンパイアステートビルを建てるかのような愚かしいこと。有権者は何をしているのか」「国連が地球温暖化を超え、地球沸騰化の時代と宣言している現在、世界では樹木は公共財と位置付けられている。ドイツでは自邸の庭の樹木を伐採するのも許可を要することもあるほどだ。神宮外苑樹木伐採は、日本のみならず世界に対する加害だ」と厳しい意見が出たという。
 各種人権団体からも反対の声が上がり、イコモス(ユネスコの諮問機関)からは計画の見直しを25回も指摘されいるという状況だ。
 本許可にあたっては、東京都と三井不動産という権力の癒着が疑われることも指摘。
 外苑再開発は、野球場とラグビー場の老朽化を理由として始まっているが両施設は耐震性を充たすもので取り壊しの必要はなく、建築物として貴重なもので残存させるべきとの意見が建築家等、数々の専門家から意見が出ている。
 権利者である明治神宮の経済的困窮も理由に挙げられるが、そもそも外苑の土地は相場の2分の一の価格で払い下げられた。公共財としての維持が困難だというのであれば、国民に返還すべきだ。
 今の子どもたち、将来の子どもたちにどのような社会を残すのか。外苑の樹木を残すべきだ。これは人権問題なのであると語った。

◾️裕福層の利益優先、市民の想いをないがしろに

 中垣氏は、60年間神宮外苑近くにに住んでいるという。1964年の東京オリンピック開催時は原宿に住んでいたが、同開催に伴う道路拡張で立ち退きを余儀なくされた。2020年の東京オリンピックもコロナ下になぜこのような大きなイベントをしなければならないか疑問に感じた。オリンピックしかり、外苑樹木伐採しかり、市民を無視し富裕層だけのための利益を目的としたものではないか。
 外苑は子どもの頃の思い出が詰まった場。大切な思い出を無くしてしまうようで悲しい。感情論と言われるが、神宮外苑はコモン、公共財産であり地域住民の想いは尊重されるべきだ。
 高層ビルが建つことによるビル風も心配だ。これまで神宮球場での試合後、観客は信濃町駅と外苑前駅に分散していたが、これからは外苑前駅と青山一丁目駅に群衆が詰め寄ることとなり、韓国・ソウル梨泰院で起きたような群衆雪崩のような状況が起こるのではないか。このような樹木伐採を許すことはできないという想いで今日はこの場に立っていると語った。

◾️裁判後の記者会見

 裁判後の記者会見では、弁護士らに記者から今後の見通し等の質問が出た。
 山下幸夫弁護士は、被告は「原告には“原告適格”がない」と反論しており、今後の裁判ではこれを中心に審議されるだろう。環境権を盾にして原告適格が認められた事例は過去にない。
 伐採に伴う緑化植樹の割合基準が定められているが、新宿区はそのパーセンテージの母数を伐採した区域の土地面積としてそれを充たすとしているが、本来ならそもそも樹木があった樹林地を基準としなければならない。これは大きな瑕疵でありマスコミには強く伝え、大きく報じて欲しいと語った。

◾️次回口頭弁論は10月28日(月)を予定。「原告適格」など本格審理へ

 弁護士の先生方、原告の方々が外苑の樹木を守るために地道に裁判に取り組まれ、闘ってくださっているお姿には深く敬意の念を抱いた。
 新宿区側の原告適格の反論については、環境権、人格権を盾にそれを認める判例は山下弁護士が控えめながら触れられたようにこれまではなく、見通しは厳しいのだろうというのも率直な感想だ。仮に認められれば画期的だろう。どうにかうまく論を組み立てて認めてもらいたいと感じる一方、実体審理に至らず却下判決がなされることも予想される。しかし、だからと言ってこのような裁判が無駄ということは決してない。訴訟というものに市民の声を載せ、マスコミ報道を通して世論を喚起することができる。市民の声一つひとつは小さくても、それを裁判という俎上にのせることの意義を今一度確認したい。

★「原告適格」とは原告が当該訴訟の主体となることができるかという訴訟要件にあたる。それを認める要件は行政事件訴訟法や判例の積み重ねで詳細に定められているが微細な法律論となるため詳細な説明はここでは割愛する。

 次回裁判は10月28日(月)。同じく103号法廷で行われる予定だ。
 明治神宮外苑の再開発をめぐっては、周辺住民などが計画自体の認可の取り消しを求めて東京都を訴えた裁判も、東京地方裁判所で継続中だ。


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