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VERMILIONな日々 sideラムダ

アタシ、ラムダにとってお酒はまさに、命の水だ。

喉を焼くアルコールは虚ろな脳を覚醒させ、ほどよい酩酊は現代社会に蔓延るあらゆる不安を忘れさせてくれる。

酔っている間、アタシは無敵になれる。酔っている間だけは、どんな困難にも打ち勝てる気がする。

アルコールがアタシにくれる至福の酩酊こそ、この世で5指に入るほどの宝物だ。

だけど、ひとたび酔いが醒めればーー

「あああ!!レポートが間に合わなーーい!」

くそったれな日常が、私を待っているのだ。

「ラムダ、また唸ってる」
「うっさい。いま残り1ページをでっちあげてるからちょっと待って」

在学生がたむろする大学構内のラウンジ。アタシはノートパソコンの画面をにらみながら、今日提出のレポートを必死に書き上げていた。

大学生が暇な時代なんてはるか昔、今じゃバイトに講義に課題にと慌ただしいのがトレンドだ。

おかげで貴重な昼休みを、コンビニで買ったパンをコーヒーで流し込みながらパソコンにかじりつく羽目になってしまった。誰が悪い?きっと国か教務部の連中だ。

「嘘。ラムダが毎晩飲み歩いているのが悪い」
「思考を読まないで。しょうがないでしょう、お酒がおいしいんだから」
「限度がある。酒の飲みすぎで前期の単位全部落とす人なんていない」
「その話は蒸し返さないでよっ。ママにもこっぴどく怒られたんだから、っと!」

最後の一行に定型文をコピペして保存する。後はこれを印刷して提出すれば、進級するための単位にギリギリ届くはずだ。

硬くなった体をほぐすために、椅子の背もたれに身体を預けるように大きく伸びをする。
一緒に両手も天高くに伸ばせば、肩からはバキバキと景気の良い音が鳴り響いた。

「……なんで中身はこれなのに、身体だけはすごいんだろうね」
「お陰でスケベ心見え見えな奴しか寄ってこないけどね」
「お酒が主食なのに脂肪が胸にいく!不自然!意味不明!」
「はっ!これが持って生まれた素質ってやつよ!」

悔しがる友人にどや顔を返す。

これは自慢だが、私のプロポーションはそれなりに良い方だ。

胸は豊満で身長もそれなり、それでいて絞るところはしっかり絞られているモデル体形だ。日本人離れした美貌も相まって、着るものとメイクにさえ気を付ければ、そこらのモデルにだって負けない自信がある。

が、だからといって着飾るのはめんどくさい。頭が茹った男が寄るのはウザいし、女性らしいしぐさとか何それつまみになるの?という感じだ。

「だから男が寄り付かない。わかってる?」
「寄り付かないんじゃない。悪い男が多すぎて、理想の彼が近寄れないだけよ」
「ちなみに理想は?」
「私の酒癖を見ても逃げない男」
「いるわけないじゃん」
「いるわよ何処かに」

残念なものでも見るような目を向ける友人を無視して、私は横に置いた鞄から飲み物を取り出す。さ、レポート終わりにスカッとしないと。

「待て酒カス。何を飲もうとしてる」
「何って、見れば分かるでしょ?缶チューハイよっ!」
「大学内で!酒禁止!」
「仕事終わりの一杯くらいいいじゃない!」
「だめに決まってる!また学生部に怒られる!」
「もー!じゃあ今から飲みに行くわよ!それならいいでしょ!」
「まだお昼。やってない」
「昼からやってるお店教えるから!今飲みたい気分なの!」
「じゃあ……まぁ」
「はーい決定。おっさけおっさけ〜♫」

私は机の上に広げていた資料をパソコンとともに無造作にバックに投げ入れて立ち上がる。友人は私の行動に呆れたような顔をしながらも、立ち上がってくれた。

「……流石に、レポートの提出は忘れない、よね」
「ん?どうした〜」
「今行く。ま、ラムダもそこまで愚かではない、か」

次の日、私はレポートの提出を忘れていたことに気が付いて、教授に泣きの1回を土下座することになるんだけど、それはまぁ、話さなくても、いいよね!

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