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ボクジェネ「OVER SMILE」

「気にしないで」

声は聞こえない。手が動く。演劇を見ているはずなのに、無音の中で物語が進んでいく。
今までたくさん舞台を見てきたけど、こんな舞台、初めて見た。

思えば幼い頃に観たミュージカルに、目の見えないウサギの女の子が、心優しいオオカミの男の子と友情を育む話があったなあ、と思う。捕食する側とされる側のオオカミとウサギは、普通の状態では仲良くなれない。でも、目の見えないウサギにそれは関係ない。優しい声と言葉、行動に惹かれていく。人は見た目で判断してはいけない。そういう教えを説くような作品だった。

赤、青、緑の三国はいつも争いあっていた。
一人の少女はどこの国にも属さなかった。
彼女は耳が聞こえず、摩訶不思議な能力を持っていた。
彼女は彼女自身の命を削りながら、時を止め、戦いを、争いを止めようとした。


初演は約13年前、そこから何度も上演を重ねられた作品で、高校演劇で脚本が使われたりもしている、オバスマ。ご縁が絶妙になかったので今作が初観劇で。でも、このタイミングで見れてよかったなあと思う。

世界のこと、平和のこと、障害のこと、たくさんのことを考えるきっかけになった。
演劇は娯楽。そこの線引きはしているけれど、社会性の乏しい私にとって、演劇は色んなことを教えてくれる存在でもあって。
小学生の頃を思い出した。出身校はマンモス校だったから、障害を持った子も多くて。そういう子がいるのは当たり前で、お互いに取れないながらもコミュニケーションを取って、学校生活を送ってたように思う。そんなに長いこと一緒にいるわけじゃないし、放課後クラス全員で公園で遊ぶってなってもその子たちはそりゃ来ないし、多分呼ばれてもない。良くも悪くも小学生なのでそういう線引きはしていたと思う。でも、いるのは当たり前だった。未だに実家暮らしな割に中学から学区外に出たので連絡を取り合ってる当時の友達が一人しかいない私には、もうみんながどんな風に生活を送ってるのかは分からないけど、幸せにしてたらいいなと思う。人は誰でも幸せになる権利を持ってるから。


スーちゃん、難しいだろうなあと思う。初ちゃん自身は聞こえてるけど、スーちゃんは聞こえないわけで。聞こえてるはずの声も音も聞こえないように振る舞うってすごく難しいだろうし、手話もたくさんで、セリフ覚えるよりずっと難しいだろうし。すごいなあ…と。でもその分たくさんのことを伝えてくれた。初ちゃんすごいなあと思う。


いつも推しくんがすごい!って話をするんだけど。本当にすごいなと思う。なんか、久々にいつもやる感じの役だったなーと思うんだけど。あ、やっぱ、死ぬん、だ。←初見の感想
カン・リュウソウの野望って、正直分かる気もするというか、そういう思いって人間誰しもが持ってるし、今この世界にも、カン・リュウソウは居るんだよね。居るから、世界から戦いはなくならない。それを仕方ないと思ってはいけないけど、じゃあその人が淘汰されたとして、次の存在が出てくる可能性は否定できないよねって。
この人はミヤビ自身のことを好きだったのかな…ってずっと思ってるんだけど。ものすごく頭のいい人だから、誘われているフリをして、好きなフリをし続けてたと思うんだけど。ミヤビが刺された後に激昂するんだよね。あれは、軍師のカン・リュウソウとして、総督の血筋が居なくなったことに対してキレてるのか、ミヤビという愛する女性が居なくなったことに対してキレてるのか。まあ多分どっちもなんだろうけど、あの熱量を見てると後者が強いのかなあって。まあ、魅力的だもんね、ミヤビ様。
ジーナとのやり合いも、バタク・ブーチャンとのやり合いも、何よりもソロリスとのやり合いが私は大好きで。
千穐楽、役者としては物凄く悔しかっただろうし、アチャーってなったと思うんだけど、私としては、13公演カン・リュウソウとして生き抜いて、彼の本当の意味での最期、剣が吹っ飛ぶくらいの熱量で生き抜いたっていうのが、本当に格好良かったし、その迫力に感動した。舞台はナマモノだなあと実感。ま、本当にビックリしたけど。回収不可能な客席に吹っ飛ばすのが本当に推しくんらしいなと思うんですけど。
久々に、この役をできると制作チームに思ってもらえてるんだなが嬉しい役だったな〜と。見掛け倒しじゃなくて、やっと色んな物が伴い始めてきて、こういう役を貰った時に説得力があるようになって来てるのがただ嬉しくて。応援させてもらえてることが嬉しい。ただそれだけ。


今のこの世の中でこの作品に出会えたことは幸せなことだと思う。
相変わらず作品の話をしない人だ、私は。


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