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ともに歩く

今回の作品は、友達との共作です。
「キーワード決めて、それを使って一つの物語を作る」という遊びをしたところ、いい感じにできたので投稿することにしました。

【キーワード】
・帽子
・いちごミルク
・注射
・扇風機

このキーワードが、どこでどう使われるのか。
是非、最後まで読んでみてください。



寝ぼけ眼でカーテンを開けた。眩しい朝日が私を照らしていた。
朝起きてすぐ、スマホの通知がないかを確認するのがいつもの日課だった。その日はめずらしく一件来ていた。私は、慌ててその通知を開いた。

『今日、何時の電車で行く?』

わざわざ、あいつの方からそんなこと聞いてくるなんてなんだか不気味だ。「なにか企んでいるのか?」と思いつつ、

『11時の電車に乗るよ』

と返信した。その日は、朝まで大雨警報が出ていた影響で学校は昼からだった。いちごミルクを片手に学校へ行く準備を始める。制服に着替え、家を出ると、手に持っていたいちごミルクにストローを指す。いつもみたいに時間に追われることもない、優雅な通学路だ。
駅に着くと、あいつはもうすでにホームで待っていて、私の姿を見るなり、
「またそんなの飲んでる!まだまだおこちゃまですね~」
と私をからかった。
「いいじゃん別に」
私はむきになって言い返した。飲み終わった紙パックをゴミ箱に捨ててから、ちょっと拗ねたふりをして電車に乗り込むと、あいつが後を追いかけてきて私の隣に座った。無言のまま電車は動き始め、走行音のみが響く。
私が不機嫌なことなんか気にもしないで、あいつは話しかけてきた。
「今日の放課後って用事ある?」
本を読んでるふりをして、私はあいつの言葉を無視した。
「ねぇー、聞いてる?」
それでも、しつこく何度も聞いてきた。
「ねぇ……ねぇってば!今日予定あるの!?」
いい加減鬱陶しくなって、
「ないよ!」
とぶっきらぼうに言った。
あいつは少しびっくりしてたけど、すぐに笑顔になって、
「じゃあ、空けといてね」
と言った。あまりの鈍感さに呆れて、
「わかった……いいよ」
とだけ言った。あいつはきらきらした笑顔で、
「やったー!」
とはしゃいだ。

学校に着くと、教室はすでに賑やかだった。
警報なんて嘘だったかのように照りつける太陽の光が窓から差し込んでくる。まるで真夏日のような暑さだ。教室には扇風機が付いているがあいにく私の席は反対側で風は届かない。
席に着くと、前の席の友達が声をかけてきた。
「あんた、今日なんかいいことあったでしょ」
「べ、べつに、ないよ!」
と笑って誤魔化す。
「ほんとか~?惚気って顔に書いてあるような……」
「そんなことないって!」
と言いながら顔が熱くなっていくのが自分でも分かった。
「まっ、なんでもいいけどさ!なんかあったら教えてよね」
とその友達はたのしそうに笑った。
「なんかあったらね。ほら先生来たから前向いて!」


警報明けの学校は慌ただしく終わり、あっという間に放課後になった。
校舎を出て中庭を歩いていると、下駄箱からあいつがこっちに向かってくるのが見えたが、わざと気づかないふりをした。
手に持ていた野球帽を振ってこっちに駆け寄ってくる。
「おーい、気づいてるんでしょ?」
それも無視して私は、
「なに?」
とそっけなく言った。
「ついてきてほしいところがあるんだよね」
そう言って私の手を引いた。
付き合ってもないのに、平気で手を握れるあいつにちょっと腹が立つ。
「いつまで手握ってるの?」
「あっ、いやだった?ごめんごめん!」
あいつは、何事もなかったかのように手を離した。聞こえないくらいの声で、「…そうじゃないけど」と言ってみるが、当然あいつにこの声は届いていない。

しばらく歩いて辿り着いたのは、私たちが通っていた保育園だった。
数年前に廃園になっている。
「懐かしい。なんで来たの?」
私が聞くと、あいつは、
「なんとなく、ここがいいかなって」
とめずらしく真面目な顔をして中に入っていった。
「えっ、入っていいの!?」
と聞きながら後ろを追いかける。
「ちょっとくらい、大丈夫だよ!」
あいつは、いつも以上に無邪気な笑顔で園庭のブランコに座った。私も同じように隣のブランコに座る。しばらく沈黙が続いた後、あいつが急にポケットから、注射器のおもちゃを出して、
「これ、覚えてる?」
と言った。
「覚えてるよ」
あいつとは保育園からの幼馴染だった。保育園の頃のあいつは、泣き虫で友だちがいなかった。そんなあいつの遊び相手はいつも私で、周りの男の子が野球やおにごっこをしている中、おままごとやお医者さんごっこをして遊んでいた。今思い返すと、私に付き合ってくれていたんだと思う。
「あのさ…」
思い出に浸っていると隣から声がした。
「保育園の時、いっつも二人で遊んでたよね。周りの目も気にしないでさ、ずっと二人で。まさか、ここまで一緒にいるなんて思わなかったけど……。このおもちゃね、ここが廃園になるって聞いたとき、先生に頼んで貰ったんだ。確か、中三の時だったと思う。それからずっと大事に持ってる。高校は別々になるって思ってたから。いつか成人式とか……同窓会とか!大人になってから再会した時に見せたらびっくりするかな、なんて思ってさ。でも、結局高校まで同じになって今でも頻繁に一緒に帰ったりなんかしてさ……あの頃からずっと好きだった」
いつものつまらない長話だと思って聞いていた私は、驚いてパッと顔を上げた。
「え、今なんて?」
と聞き返すと、あいつは、
「告白の二度聞きは禁止だよ!」
と言いながらブランコから飛び降りて、置いていた鞄を肩に背負い、何も言わずに歩き出した。私は、
「待って!」
と言いながら、あいつの手を握った。あいつは一瞬驚いたような顔をしたけど、すぐにいつもの笑顔に戻って、
「帰ろっか」
と言った。

手を繋いだまま、保育園を出ると、あいつが、
「さっきも、ほんとは嫌じゃなっかったんじゃないの~?」
といたずらに言った。その得意げな顔にムカついて、
「当たり前でしょ!好きなんだから!」
と言うと、あいつは顔を真っ赤にして俯いた。そんな、あいつを愛おしく思いながら、
「なんか、保育園の時に戻ったみたいだね」
と言うと、あいつは、
「遠足とか、お散歩の時とか、いっつも一緒だったもんね」
と言った。
「よく、恥ずかしげもなく手繋いでたよね」
と私が言うと、
「今もじゃん」
とあいつが言って、二人で笑いあった。
あの頃とは背の高さも手の大きさも変わってしまったけど、それでもあいつと繋いだ手は、あの頃みたいに変わらず暖かかった。


あの日のことは、鮮明に覚えている。
そして今、『あいつ』は3LDKの我が家のリビングで大きな口を開けて昼寝をしている。私ちあいつは同じ苗字を名乗り、繋ぐ手の間には小さな手がひとつ挟まるようになった。

「ねぇねぇ!パパ、いつまで寝てるの!」
もうすぐ、6歳になる娘が寝ているあいつを必死になって起こしている。
「うーん……どうしたの?」
「あっ!やっと起きた!一緒に遊ぼうよ!」
「わかった、わかった」
眠そうにゆっくりと体を起こすあいつ。待ちきれない娘は無理矢理手を引っ張って起こそうとする。
「ねぇねぇ!早くしてってば!」
こういう強引なところは、父親譲りだ。ようやく起きたあいつは、娘に手を引かれて子ども部屋に連れていかれる。その途中、キッチンにいる私の手を握って、
「ママも一緒に!」
とあいつが言った。
「びっくりした!急にやめてよ。今ご飯作ってるんだから!」
と答えると、あいつは、
「あっ、いやだった?ごめんごめん!」
と軽く言って、握っていた私の手を離す。
「そうじゃないけど……」と言いかけたけど、その時すでに、あいつは娘と子ども部屋でお医者さんごっこをはじめていた。
「まっ、聞こえないよね」
と呟いて、二人が遊ぶ姿を眺める。
「先生~、なんだか風邪っぽいんです」
保育園の頃から、あいつはごっこ遊びが上手い。そのスキルは子育てで遺憾なく発揮されている。
「そうなんですか!じゃあ、まずお注射しますね~」
一瞬、あの頃の自分の姿が娘と重なって見えた。
私はコンロの火を止めて、
「ママもいれてー!」
と言いながら、子ども部屋に走って行く。
「いいよー!ママも患者さんね!だから、パパのとなり座って!」
と娘に言われて、隣に座ると、
「ほんとは嫌じゃなっかったんだ~」
と『あいつ』がいたずらに笑った。その得意げな顔にムカついた私は、むきになって言い返した。

「当たり前でしょ!好きなんだから!」

あんたらのことが。



最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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