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しあわせの足音

「ちゃんと夢叶えて看護師になったんやもんな。ほんますごいわ」
「まあな……。でも、来年には辞めて地元に帰えんねん」
「えっ、そうなん。なんで?」
「結婚するから」
そんな報告を受けたのは、彼女と数年ぶりにあった日のことだった。

―愛とは、深く美しいものである

私の母は、女手一つで私を育ててくれた。
家族に対して不満を感じたことは一度もない。
ただ、母に無理をさせてしまっているのではないかと心配に思うことはあった。

新しい相手を見つけて一緒になれば、きっと少しは楽になるはずなのに、母はそうしなかった。
私が反対したわけでもなければ、そういう相手がいなかったわけでもない。
母の意思であえてそうしていた。
私は、そんな母の気持ちがずっとわからずにいた。

月日が流れ、私にも大切な人ができた。結婚したいと思える大切な人が。
結婚の準備を進める中で、私はあの頃わからなかった母の想いを知ることになった。

「バージンロード」
花嫁が大切な家族と歩く特別な道。
一般的には父親が歩くとされている。

私はこの道をどうしても娘と歩きたかった。
それは、ここまで育ててきた親としてのけじめに近いものなのかもしれない。

―大切な家族の隣だけは絶対に誰にも譲りたくなかった

母の気持ちを知った時に流れた涙は、嬉しさと申し訳なさが混じっていたような気がする。母の覚悟と愛情は、同時に母を縛ってしまっていたような気がしてならなかった。
ただ、それ程までに私を愛してくれたことが何よりも幸せだった。

でも、もうすぐそんな母から旅立つ。
それは同時に母が母自身の幸せを考える時がくるということでもあった。

―未来へ続く道は、大切な人と共に


彼女が話してくれた、彼女のお母さんの話は「純な愛」に溢れていた。

誰もが花嫁の幸せを願う道を、お互いの幸せを願いながら歩く親子の姿は、何よりも美しく、神聖なものだろう。

彼女の結婚式の日。
しあわせの足音が鳴り響くことを僕は願っている。



思いが詰まった作品になりました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!













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