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12月24日

サンタクロースは赤い服なんて着ていない。

八歳の夜、サンタの姿を見てみたくて、寝たふりをして待っていた。扉が開いたからそっと目を開けてみると、お父さんだった。目が合うと少しびっくりして、「早く寝ないとサンタさん来ないよ?」と言って部屋を出ていった。
いつもは頭を撫でてくれるのに、あの日は撫でてくれなかった。

二十四歳の夜、大好きな彼女をデートに誘った。
いつもは行かないオシャレなレストラン。
指輪を持つ手は、ポケットの中で少し震えている。
山下達郎が流れるイヤホン。
サンタ気取りの僕。
ソワソワしながら眺めた携帯画面には彼女の可愛い笑顔が映っていた。

三十歳の夜、僕はサンタになった。
プレゼントは買ってある。準備万端だ。
ベッドに入って30分経つ。もう大丈夫だろう。
そっと部屋に入って寝ている娘に近付くと、ふっと娘がこっちを見た。まだ起きていたようだ。
少し驚いたが気づかれていない、大丈夫。
「早く寝ないとサンタさん来ないよ?」と言って部屋を出た。
頭を撫でてやれなかったのが残念だが、今日ばかりは仕方ない。

そして時は経ち、八十四歳の夜。
もうサンタを引退して何年も経つ。
この日に聴く曲は60年間変わっていない。
今年も山下達郎が流れている。
指輪を持つ手は、相変わらず震えている。
久しぶりにサンタ気取りの僕。
写真の中の彼女は、今日も可愛い笑顔だ。
僕はそっと指輪を置いた。

「メリークリスマス」


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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