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満開の桜を見上げ、まだ少し堅い制服を馴染ませようと、肩や足を大げさに動かす。
桜の花に出会いを感じていたのは、もう数十年前の話。

いつからか散っていく桜を、くわえタバコでぼんやり見つめるようになった。

あの日の輝きは、もう目の中に残っていない。
少しくすんだ世界の中で生きている。

缶コーヒーを片手に喫煙所のベンチに座る。
たまに吹く風が心地いい。
コーヒーを飲もうとすると、桜の花びらが降ってきた。

満開の桜たちが少しづつ散っていく。
たった二週間で何もなかったようになくなってしまう。

春の桜、夏の蝉時雨、秋の紅葉、冬の雪。
一瞬を彩るものに、人は心を奪われる。
それはきっと、自分たちも一瞬の存在だと、
心のどこかで気が付いているからだ。

帰りにノートと鉛筆を買おう。
そう心に決めて、空き缶を捨てる。
桜の花びらをポケットに忍ばせた。

何十年か振りに桜に心を揺さぶられた俺がいる。

春は出会いと別れの季節……だって。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


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