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moonlit night

雲一つなく、月が輝く夜。
ここ最近、君と会う時はいつもこんな夜だ。

君が僕の誘いを断る時は、いつも決まって雨降りだった。
君からお誘いの連絡が来る時は、いつも決まって満月だった。

君と出会ってからもう数年が経つ。
前は天気なんて気にしていなかったはずだ。

待ち合わせの場所は、いつもの場所。
よくわからないモニュメントの前だ。
夜空からは、一ヶ月振りの満月が僕を眺めている。

君は、いつも少し遅れてやってくる。
「ごめんね」
と、はにかむ顔も見慣れたものだ。
毎回同じ居酒屋でご飯を食べて、君の好きな本や音楽の話を聞く。
グラスが三杯空いたら、そろそろ終電の時間だ。
会計を済ませ、店を出ると、君とはお別れになる。
「今日も月が綺麗だね」
君の口癖だ。

背を向けるとすぐに、君からメッセージが届く。
君が気まぐれで始めた、おすすめの本を送るノリ。今回で五度目になる。

太宰治 斜陽
池澤夏樹 スティル・ライフ
鈴木弘樹 グラウンド
北野武 浅草キッド

ジャンルも年代も、バラバラ。君の気分次第だ。
いつも、そのメッセージを確認すると、僕はすぐにネットで検索して、注文履歴のスクショを君に送り返した。
今日、送られてきたのは、

夏目漱石 月

検索したが、そんな本はなかった。
出てきたのは、「『I love you』を『月が綺麗ですね』と訳した」という逸話だけだった……振り返ると、繁華街の明かりに紛れかけた、君の背中が見える。急いで、君の背中を追いかけた。

どうやら、君はよっぽど文学が好きらしい。

息を切らしながら、僕が、
「ずっと前から月は綺麗だったよ」
と言うと、君は笑顔で、
「今日は暖かいね」
と言った。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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