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父が最期にくれたギフト

小さい頃から父のことが心配だった。
いつもどこかに行ってしまうようなそんな気がしていた。

父は年中行事を大切にしていて、クリスマスも毎年家族で行っていた。ある時ちょうどクリスマスイブに父が会社の人の葬儀に行かなくてはならなくなった。わたしはなぜか父がそのまま死の世界に連れて行かれるのではないかと不安で不安で食事も喉が通らなかった。
帰ってきた時は嬉しくてすぐに玄関に駆け寄ったことを覚えている。

父はよく色んなところにわたしを遊びに連れて行ってくれた。今思うと夜勤もしていたし、仕事で必要な資格を取るための勉強もしているようだったから忙しかったはずだと思うのだけど、母が仕事の日に動物園、大船観音、ボウリングなど2人で出かけた。父のわたしだけを撮った写真が何枚か残されている。

父は普段は真面目でお人好し、お酒が大好きで弱いのにたくさん飲む。酔っ払うといつもとは全然違う陽気ではじけた感じになって夜遅くでも会社の人を連れてきて家族を困らせた。
ストレスが溜まっていたのを上手に吐き出せずにいたのかもしれない。

わたしは父が大好きで、思春期に反抗期はなかったが、なぜか19歳ぐらい頃父に嫌悪感を抱くようになってしまった。特に理由もなく、うざったかった。遅い反抗期だろうか。父は少し寂しそうだったのがたまに胸がチクッとなったが自分ではどうしようもなかった。

わたしが22歳の頃、恐れていたことが現実に起きてしまった。
父が胃がんになってしまった。父はまだ55歳だった。ステージⅣ。手術で胃を全て摘出したが他に転移しているかもしれないと医師に言われた。
ずっと不安だったのに!いつか父が目の前からいなくなるような気がして。
その日から家の神棚に毎日お祈りをした。
どうか父を助けてください。

わたしの願いは叶わず父はその2年後に亡くなった。
妊娠7ヶ月の姉が父を見舞って帰ってからまもなく息を引き取った。妊娠中の姉に死に際を見せたくなかったのかもしれない。と後から思った。
最期は母の顔を力強く見た。ありがとうと言っているように見えた。父は母の事、大事に思っていたんだな。わたしもいつか死際にそんな風に思える人と一緒になろう。この光景は父からわたしへの最後のギフトかもしれない。と泣きながら思った。

その日からわたしは悲しくて悲しくて毎日泣いて泣いて泣きまくった。
仕事中だけは仕事に集中し、帰りの電車で泣いた。
しばらくして、父が笑っている夢を見た。母にその事を言ったら母も父が笑っている夢を見たと言う。きっと天国で楽しくやってるんだね。と2人で涙が止まらなかった。

それから、不思議といつも父が見守っていてくれている気がする。どんなに辛い事があっても遠くから優しく見守られている気がして大丈夫。と思えるようになった。

心を壊して休職した時も、実は父がこれ以上頑張ると命が危ない。と危険信号を出してくれたのではないか。自分と同じようになってはいけない。周りに気遣い過ぎて、お人好しになりすぎてストレスを溜めてはいけない。と。
考え過ぎじゃない?と言われたらそれまでだが、休職してから父のことをよく思い出すようになったからあながち間違ってないかもしれない。

お父さん、わたしはこれからは自分のことを大切にし、やりたいことに挑戦していくようにするよ。そして楽しかったと思える人生を送れるようにする。

最後に見せてもらったギフトを大切にしていくね!
ありがとう。お父さん。


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