見出し画像

映画「シン・仮面ライダー」〜正義と悪の立ち位置

庵野秀明監督作品「シン・仮面ライダー」を鑑賞しましたーっ٩( ᐛ )و‼︎ ※以下ネタバレ注意

黒いロングコート着用という斬新なヴィジュアル

ハリウッド映画のSF、アクションもの名作がいくつも生まれた80年代。当時勤務していた会社の事業所近く有楽町マリオンの映画館でよくロードショーを鑑賞したものでしたが、仕事も家庭も忙しくなり次第に劇場から足が遠のきました。それでも幼い頃にゴジラ、ガメラ、ウルトラマン、ウルトラセブンといった元祖・子供向けSF作品に育てられた私は、2016年公開の「シン・ゴジラ」と、2022年の「シン・ウルトラマン」は劇場で鑑賞しました。

オリジナルからかけ離れた造形に馴染めなかった

ところが、過去2回鑑賞した「シン・シリーズ」は造形がオリジナルと大きくかけ離れていたり、女性軽視とも取れる時代錯誤な演出も受け入れがたく、幼い頃のノスタルジーが傷つけられた想いがあったのと、仮面ライダーにさほどの思い入れがなかったことから、当初は「シン・仮面ライダー」の鑑賞はやめようと思っていました。しかし、知人から勧められたyoutube動画「<期間限定公開>『シン・仮面ライダー』冒頭映像(2分49秒)」を観た衝撃で一転、劇場に足を運びました。

原作オマージュの構図と効果音〝シャキーン〟の完璧さ

鑑賞してみて昭和版と令和版の仮面ライダーでは、善と悪の立ち位置が入れ替わったような印象がありました。シン・仮面ライダーが闘う「SHOCKER(Sustainable Happiness Organization with Computational Knowledge Embedded Remodeling)AI知能装填型人間改造による持続可能な幸福追求組織」は、まるでSDGsのような、人類の〝全体幸福〟を希求する秘密結社で、そのエンブレムにはまるでプロビデンスの目を彷彿とさせるマークが描かれています。

胸のグリーンライトはプロビデンスの目にリモデル

一方、眉間にグリーンライト輝く令和のシン・仮面ライダーは昭和の仮面ライダーのような同じ価値観で統一された〝世界平和〟のためでなく、身近な家族や隣人のために闘います。ライダーとSHOCKER、つまり、ヒーローと敵役という正義と悪の立ち位置があたかも逆転したかのようです。「全体主義vs民主主義」「共産主義vs個人主義」「グローバリストvsナショナリスト」「万人を救済する仏陀の慈悲vs共にいる個人に向けたイエスの隣人愛」…それは人類が統合すべき永遠のテーマであり、コロナや戦争で混沌とする現在の世界情勢とも絶妙に重なる興味深い設定でした。

複眼の下の覗き窓から瞳が輝くリアルなマスク

暴力という不本意な力の行使に苦悩する主人公の姿に、本意ではない縦社会の中で毎日役割を演じている自分の姿を重ねながら、最新のCG技術で魅せるカッコいいサイクロン号の変形や、初代オリジナルをしっかりと尊重しつつも現代風にアレンジされた斬新なマスク、要所のBGMや効果音に子供時代のワクワクが甦りました。鑑賞後にはもう何年も買うことがなかったパンフレットを迷わず購入。かつてのハリウッド映画を見終わったあとのような爽快感と感慨を覚えました。

久しぶりに訪れた銀座外堀通り

その一週間後、会社の後輩から『大ヒット御礼舞台挨拶』のチケットを入手したと誘われ2度目の鑑賞。場所は有楽町からほど近い「丸の内TOEI」。銀座外堀通り沿いのかつて「プランタン銀座」だった建物の、ファストファッション「ユニクロTOKYO」「GU」100円ショップ「ダイソー」というフロア構成に隔世の感。舞台挨拶には主演の池松壮亮、ヒロイン浜辺美波、そして柄本佑、森山未來のキーパーソン4人が登壇し、MCはなんと庵野秀明監督。スクリーンとは別の素顔での俳優陣と監督の生のエピソードトークは新鮮でした。

初めて鑑賞した映画の舞台挨拶

同じ映画を公開中に2度も観たのは、1988年公開の「ランボーⅢ〜怒りのアフガン」以来35年ぶりでした(ただし、この時の2度目は取引先から貰った招待券でタダ見)。自分がこれほど仮面ライダーが好きだったのかと不思議に思うほど強く心に刺さったようです。「ランボーⅢ」では友を助けるために本意ではない戦場へ向かう主人公の苦悩が描かれていました。そして「シン・仮面ライダー」で描かれていたのも、敵を倒すために不本意ながら暴力を使う主人公の葛藤でした。

不本意な闘いに臨む2作品の主人公にシンパシーを覚えた

そして、3回目の鑑賞まで長くはかかりませんでした。昔と違って映画を鑑賞するためにわざわざ電車で都心まで出かけなくても、最近では自宅近くの大型ショッピングモールのシネコンに気軽に自転車で観に行けます。しかも、最近の映画館のシートはコロナ対策の影響から、隣席との目隠しもあり間隔も広くストレスフリー。後方に設けられたシニア層にも優しいアップグレードシートなら脚を伸ばしてゆったり鑑賞できます。

自宅から気軽に通えるシネコンが複数回鑑賞を誘引

鑑賞を重ねるごとに、初見では気づけなかったさまざまな趣向や設定の奥深さに圧倒されました。随所に散りばめられたオリジナル作品や原作者へのオマージュ、昭和時代のモノ作りへのリスペクト、スマートさはないがアニメやCGやワイヤーワークでは出せない泥臭く血の通った戦闘シーン、令和と昭和が錯綜する台詞回しやライティング、シリアスな映像と原作漫画的コミカルな動き、絶妙のカメラアングルや敢えて昭和の特撮に寄せたCG効果もすべて、製作者側の仕掛けだったことに感服しました。

BGMも相まってアクションシーンが刺さったハチオーグ

気がつけば私は今作を5回も鑑賞していました。1回目の鑑賞では本郷猛の闘う苦悩に自分の悩みを投影し、2回目の鑑賞で緑川ルリ子のクールな可愛さに惹かれ、 3回目にはハチオーグの「あらら」バリエーションとカワイカッコいいアクションシーンに痺れ、4回目で実は寂しがり屋の一文字隼人の優しさが愛おしくなり、5回目の鑑賞後には、公開終了後の自分が「シン・仮面ライダー」ロスになることを確信しました。

『僕の名はライダー。仮面ライダーと名乗らせてもらう』

本作品はこれまでの「シン・シリーズ」の中では賛否が大きく分かれているようです。しかし、ゴッホの絵画やシューベルトの音楽、宮沢賢治の詩や、猪木vsアリ戦の格闘技など…当初は世間に認められず、酷評されバッシングされたものが時を経て再評価され、問題作が文化財になるというのもよくある話。今は万人に理解されていないからこそ、のちの時代に再評価され、不朽の名作として多くの支持を得る可能性を秘めているとも言えます。

富士山バックのダブルライダー・ルリ子・サイクロン号

公開期間中にこれほど何度も同じ映画を鑑賞したことはこれまでになく、またこれからも一生ないでしょう。それほど私の心に刺さった「シン・仮面ライダー」は、もうすでに私にとっての不朽の名作です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?