NJPW/NOAH
はじめに
2024年1月。
あれは、八王子でプロレスリング・ノアが大会を開催した時の事だろうか?
大会の前後で『大サイン会』と銘打って行われた全選手参加のサイン会に、私は気になっていた選手のブースに足を運んでいた。
気になっていた理由は、前日にSNSで「初のポートレートGETしてください!たくさんお話ししましょう!」という彼の投稿を見かけたからだ。
言われてみると、彼のいる団体ではポートレートにサインを書くような文化も無ければ、そもそもサイン会を行う選手も大会ごとに限定されているイメージがあった。
だからこそ、興味を惹かれるところがあったと言うべきか…。
列に並び、サインが私の番になった時、私は彼にこう伝えた。
「SNSの投稿を見て来ました!」
(その言葉が伝えたくて、サイン会に来てるところもあった。)
「ありがとうございます!」
快活に応えてくれた青年の神対応に、その後は私が緊張して、彼に「ありがとうございます!応援してます!」しか言えなくなってしまったんだけど、その時のやり取りは今でもハッキリと覚えている。
この時のポートレートに書かれたサインには、彼のサインと別に、ある言葉が記されていた。
NJPW/NOAH
異例の国内武者修行
新日本プロレスでデビューした大岩陵平のプロレスリング・ノア参戦が始まったのは、2023年9月の事だ。
同年夏に『G1CLIMAX』参戦を果たした清宮海斗との越境タッグ結成を経て、武者修行という形でプロレスリング・ノアに参戦した大岩。
通常、新日の若手選手は海外への武者修行⇒凱旋帰国を経てトップ戦線に上り詰める流れが伝統となっていただけに、大岩のように国内他団体で武者修行する流れは異色であった。
私がNOAH武者修行中の大岩陵平を振り返る時、まず最初に思い浮かんだのは、2023.10.9の新宿FACE大会で組まれた『ジェイク・リー&アンソニー・グリーンvs大岩陵平&LJ・クリアリー』の一戦だ。
NOAH初参戦となるLJ・クリアリーとタッグを組み、当時GHCヘビー級王者だったジェイク・リーと対峙した大岩だったが、試合終盤にパートナーであるクリアリーに裏切られて敗戦を喫するという、まさかの結果に…。
現在NOAHのブランドとしてシリーズ化している『MONDAY MAGIC』のseason1初回大会で喰らった、あまりにも手痛い裏切り…。
しかし私は、武者修行中の大岩がNOAHのストーリーラインにガッツリ加わった記念すべき瞬間なのだと、何故か嬉しい気持ちでいっぱいになった。
その後は清宮のいるNOAH本隊と行動を共にする中で、ジェイク・リーのいるユニット『G.L.G.』とも対峙。
『MONDAY MAGIC』season1最終回のメインイベントでは、清宮とのシングルマッチを経験するなど、ストーリーラインの一角を任されるまでに至った。
2024年3月には、NOAHで久々に開催されたタッグリーグ戦『VC Tag League』で清宮と共にエントリーして、見事優勝を果たした。
支持率の高さを表した大岩の"謀反"
ここから大岩は清宮との関係を強めていくかに思われたが、二人の関係性は思わぬ形で瓦解することになる。
大岩のタッグパートナーであった清宮が、拳王と共闘する流れから新ユニット『ALL REBELLION』を結成したのだ。
その新ユニットのメンバーに、大岩の名前は無し…。
かくして、2024.5.21後楽園ホール大会では、清宮と大岩が対角線でぶつかり合う展開に発展したのである。
試合後、清宮と拳王は大岩を『ALL REBELLION』に勧誘するも、大岩は清宮に背後から襲いかかり、拳王にはドクターボムを浴びせた事で清宮との決別を宣言した。
この時、NOAHの会場で私も初めて見かけたような男性客が、拳王や大岩のマイク中に念仏のような文句を呟いていたのだが、大岩がドクターボムを決めた刹那、男性はリング周辺に設置された柵を蹴飛ばして、即座にセコンドやスタッフに取り押さえられる一幕があった。
この出来事で「これだからNOAHの客はマナーが悪い」みたいな意見も言われたのだけれども、これだけはハッキリ知られてほしい。
この場にいた殆どのNOAHファンは、大岩の謀反に対してブーイングを浴びせるどころか、両手を上げて拍手と歓声を送って大岩の支持を表明したのだ、と…。
これは、清宮がどうこうという訳ではなく、大岩のNOAH参戦以降、常に隣にいた清宮の下を離れて自立を決心した大岩に対する、観客の祝福と期待感によるものだったのではないだろうか?
マイク中も野次を飛ばし、鉄柵を蹴飛ばして退場となった男性客の行動を、私自身支持するつもりは全く無い。
ただ、結果的に男性客から本気の怒りを引き出し、多くのNOAHファンからは喝采を浴びた大岩のアクションは、彼が武者修行中に築き上げたNOAHファンからの会場支持率の高さを如実に示すものとなった。
これは間違いない。
個人的に、この出来事は大岩のNOAH武者修行においてターニングポイントになる出来事だったと私は実感している。
清宮に始まり、清宮に終わったNOAH武者修行
大岩陵平がプロレスリング・ノアで過ごした約1年間の武者修行を語る上で、清宮海斗の存在を外すことは出来ないだろう。
清宮に導かれるようにしてNOAH参戦を果たした大岩は、清宮やNOAH所属選手達と切磋琢磨しながら、清宮と共にタッグリーグ優勝の実績を残し、清宮と決別・相対を経て、最後は自らの手でNOAH卒業を決めた。
NOAH参戦1発目となった2023.9.3の試合は、『清宮海斗&大岩陵平vs小川良成&ザック・セイバーJr.』のタッグマッチ
NOAHラストマッチとなった2024.9.14の試合も、メインで『清宮海斗vs大岩陵平』のシングルマッチ
大岩のNOAH武者修行は、まさに清宮に始まり、清宮に終わったのである。
そして、大岩のNOAHにおける成長過程を象徴した試合も、彼が1年間で3度対戦した清宮海斗とのシングルマッチだったのではないだろうか?
正直な話、私自身新日本プロレスを熱心に追っていない事情もあり、大岩陵平という選手の特徴を今一つ掴みかねていた所がある。
しかし、清宮海斗戦で、彼の成長速度とスゴさを目の当たりにしたのだ。
一度目に行われたシングルマッチ(2023.12.18新宿FACE)は、まだ物語の序章であり、大岩も清宮を脅かす程の強さを示してはいなかった。
しかし、タッグリーグ優勝と決別を経て約8ヶ月後に実現した2度目のシングルマッチ(2024.8.9後楽園ホール)で、大岩の才能が爆発することになる。
『N-1 VICTORY 2024』公式戦の舞台で実現した一戦で大岩が見せたのは、しつこいまでの多彩な締め技だった。
一度でも清宮の身体に絡み付いたら最後、何度となく清宮がエスケープを試みようとも、その度に大岩は体勢を変えながら技をキープし続けたのである。
まさに【蟻地獄】とでも形容できそうな、ある種の執念にも似たしつこさに、会場は興奮のどよめきに包まれた。
試合は30分時間切れドローで双方が勝ち点を分け合う結果となったが、小川良成や丸藤正道が使うようなキーロックに、NOAHの選手では見かけないような腕攻めを織り交ぜながら清宮を追い詰めた大岩の見せた攻め方は非常に濃密で、このまま続きが見たかったほどの内容であった。
そして、NOAHラストマッチとなった清宮との3度目のシングルマッチは、一転して場外乱闘からの投げ技が飛び交う激しい展開に。
2回目のシングルを【静】とするならば、3回目は【動】そのもの。
最後は清宮に一瞬の隙を突かれる形で敗れたものの、静と動の相反する2つの試合を約1ヶ月間でやってのけた大岩の成長がハッキリと見て取れたのである。
まとめ
「『MONDAY MAGIC』で、NOAHの若手(小澤大嗣、大和田侑)より大岩の方が出番が多いのは何故なの?」
NOAH武者修行当初は、大岩に対してこのような反応も見かけたけれど、気付けば大岩は、NOAHファンから所属選手並、あるいはそれ以上の声援を送られる存在へと駆け上がっていった。
NOAHラストマッチとなった2024.9.14後楽園ホール大会も、特別なゲストを招いたり、GHC王座戦を複数組んでいた訳ではなかったけれど、それでも入場待機列は後楽園ホールの横を通り越して、屋根のある位置まで達していたのだという。
NOAHに限らず、このような光景は中々見たことがない。その要因が大岩のNOAHラストマッチだったことは明らかだろう。
でも、ある時誰かが呟いていた言葉が、私は脳裏から捨てきれずにいた。
かぐや姫には月という帰る場所があったように、大岩にもまた、新日本プロレスという帰る場所があった。
理屈では分かっていたんだ。
この今が、永遠ではないということも。
だから、NOAHラストマッチを終えた直後の清宮と大岩のやり取りは、NOAHの用意した卒業証書授与式のようにも見えた。
険悪な別れではなく、前向きな祝福も込めての別れ。
武者修行の1年間はあっという間だったけれど、新日本プロレスの『HOUSE OF TORTURE』との対抗戦やタッグリーグ優勝、清宮とのライバル関係の形成は、密度の濃いものだったと言えよう。
多分、この先大岩がIWGPのタイトルを掴み取る瞬間が来たとしたら、私は泣いてしまうと思う。
それは、大岩がNOAHで積み重ねてきた頑張りが、見てるファンにも刺さっているから。
これは、今世の別れではない。
NOAHファンにとって、また大岩と会える時がやって来ると信じている。
ハローベイビー、俺は大岩の未来を愛してる。
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