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『有給プロレス』を観に行った個人的感想について


はじめに

「皆さん、ありがとうございました!この期末で忙しい中、仕事を終えて我々の趣味の社会人プロレス。社会人プロレス、どうでしたか?」


後楽園ホールに巻き起こる、拍手と歓声の渦。
会場内は、間違いなく盛り上がっていた。



でも、その様子を見て、私は拍手も歓声も出せずにいた。
何なら、メインイベントの途中から心が無になっていた。

感動したから?いや、そうじゃない。
ある種、モヤモヤした感情に近いものが私の脳内を駆け巡っている。


試合後にハッシュタグを追っていると、興行を絶賛する声が多く聞かれた。

平日にプロ顔負けの人数が後楽園ホールに集結した事も、ニュースに多数取り上げられた知名度と話題性も素晴らしい。


私個人の好みと今回の大会の良さが合致しなかった可能性が、大いにあるのかもしれない。
でも、何度か社会人プロレスの大会も見に行って、試合内容そのものに不満を感じる機会は殆ど無かった。
(最近だとマイクはあったけれど…。)


でも、今回私が書こうとしている大会後(というかメイン後)のモヤモヤしたものは、開催前から引っ掛かっていた部分とリンクしてくる。

暴露とかではないけれど、個人の感想として…。



「なんで君がそんな営業を頼まれているの?それってさぁ、おかしくない?」


ある時、私の知っている人と一緒にプロレスを観に行った時の事だ。

帰り際に一緒に食事をしようと飲食店を探していた時に、知人がふと、こんな言葉を口にした。

知人「ポスターを貼ってもらえたりするようなお店とか、ないかなあ…」

私「えっ、何の興行のポスター?」

知人「有給プロレス」


私は驚いた。彼は、この『有給プロレス』にカードが組まれていない人間だったからだ。

これが、自分の出る大会なら分かる。
聞けば、知人は当日の試合に出ないにもかかわらず有給プロレスの営業活動を頼まれて、最近は仕事終わりにフライヤーやポスターを置いてもらえる飲食店を探しているのだという。

仮にこれがプロなら、諸般の営業活動の費用は持ってくれるのだろうけど、これは社会人プロレスだ。
営業を頼まれた側に活動費用が支給されているとは、とてもじゃないけど考えにくい。


「なんで試合に出ない君が、身銭を切ってまで営業やるように頼まれてるの?そんな義理って正直なくない?」

知人に対して、思わず怒り交じりに出てしまった言葉…。

今回試合に出る選手は全員関東圏に住んでいる訳ではないし、最大でも約1,500~1,600人のキャパシティを誇る後楽園ホールを平日に埋めるには、出場選手だけの力では足りない事情も十分理解できる。

有給プロレスを企画した首謀者を中心に、関東圏内を営業している様子もSNSで目にしたし、表に出ている全てが営業活動だとは思わない。
けれど、お金を払って試合出場が決まっている選手よりも、試合には出ないのにフライヤーを渡されて営業させられる人の方が大会を告知していたりする現状を見て、私は非常にモヤモヤした思いを抱いてしまった。

自分の意思で「同期や関係者が興行やるんで、来ていただけませんか?」的な口コミ営業とかを自発的にやるのなら未だしも、フライヤーまで渡してOBに本意でない営業活動をするよう仕向ける…。
プロでもアマでも、飲み屋とかでポスター営業する場合は実際に出る・携わる関係者が直接足を運んでいたりする訳で、過去に学プロ以外の別案件で、当人が汗をかかずにポスターやフライヤーだけ置くよう頼み、店の人から断られたり注意されたりしてる様は何度か見た事もあるから、余計に私の中で違和感を覚えたというか…。

聞けば、その知人以外にも、試合に出ないOB関係者が営業を頼まれているのだという。
私は、試合に出てないけど営業させられてる知人に、「どうか、彼らに営業手当が支給されていてほしい」と願わずにはいられなかった…。


盛り上がった各試合

有給プロレスが行われた、2024.6.28。
当日は各人による営業活動の成果もあってか、増席に増席を重ねて前売り段階で全席完売となった。
(個人的には、まずそこにホッとした。)

実際は完売マークの1,500人とはいかないまでも、月末の平日金曜日に、コロナ禍以降各プロレス団体が集客に苦戦している後楽園ホールをフル仕様で満員にした事実は間違いない。

何より、試合も面白かった。


前半戦はバトルロイヤルやタッグマッチで学生プロレス出身の現役プロレスラーが登場して、社会人レスラーと絡む場面が多々見られた。


第4試合の『喰零斗たむvsヘルデカイ』も、互いの技術を結集させる好勝負となり、前半メインを託された事も納得の内容。


約10分間の休憩を挟んだ後で行われた後半戦も、3WAYタッグマッチから流れを盛り上げていく。


そこからのセミファイナル・『大谷譲二vs佐々木コンプリートJr』が圧巻の内容だった。


今大会で行われた7試合の中で、明らかに流れている雰囲気と空気感が違った一戦に、会場の歓声も自然と大きくなる。
個人的に、今大会のベストバウトだった。


自己満足と営業努力から来る、メインのモヤモヤ

では、そんな素晴らしい内容だったのに、何故大会終了後に私はモヤモヤしたものを抱いたのか?

その理由は、メインイベントの内容にあった。


フィニッシュムーヴに至る過程を散々引き延ばし続けた結果、中盤から内容がダレ始め、攻防にハッキリした見所も無い試合が40分近くにわたり展開されたからである。
例えるなら、沢山飲もうと水を多めに入れたけど、入れる原液の量をケチッた結果、薄い味しかしないカルピスのような試合内容だった。


良い試合が長くなるのは、双方のやり取りを沢山見たくなる内容だから、自然と長くなる。
でも、そういう攻防も希薄のまま、40分近くやったという既成事実ありきで【熱闘】とか【激闘】になるなら、それは違うんじゃないかなって。

実際、あのメインを死闘と言われても私自身ピンと来ない部分があったのは、見たいと思えるようなやり取りを重ねて、自然と時間が長くなったという感覚が無かったからだ。


時間を長くしたからメインに相応しいわけじゃないし、時間を長くすれば良い内容になるわけではない。
プロでも薄々勘付いていた命題ではあったけれど、この日のメインを見てハッキリと、そういう思いが確信に変わった。


普段、CWPとかでも内容を持たせて上手い印象のある人達が長く薄くやる方向に引っ張られてしまったのは、聖地に棲む魔物故なのかなあとも思ったけど、他の方が唱えた「『まだ終わらせたくない』という惜しむ気持ちが働いたんじゃないか?」という考察には納得も理解もできる。

個人的には場内実況で笑える箇所があったから、まだ救いはあった。


でも、何より一番モヤモヤしたのは、前述した営業を試合に出ない人間にまで頼んでおきながら、メインの4人がマスター○ーション同然の内容しか見せていなかった事だ。
営業の経緯を事前に人から聞いていたからこその、モヤモヤ感。

今大会の運営等に関与していないOBにまで、フライヤーを渡して営業するよう運営が頼んだのなら、主催してるトップはそれ相応の内容を見せるべきじゃないかと私は思った。

ハッキリ言うと、今大会に無関係の人を営業に駆り出しているような大会のメインが、自己満足を煮詰めたような内容しか提示出来なかったんだなって。

そこに、プロだとかアマだとかは関係ないんじゃないかな?
実際、他の試合はエゴも面白さに変換していたと私は思ったから。


休憩時間中の撮影会が押したことで「これは延長料金が発生します!」と叫んでいたスタッフもいたから、メイン開始の21:30時点で覚悟はしていたんだろうけど、実際に後楽園ホール完全撤収の22:30が迫る22時過ぎまでやっていた時点で「施設を借りた時間内に収める努力すら諦めていたんだろうな」と思ったし、それはプロとかじゃなく、社会人として致命的だよなあと現実的な見方になってしまった…。

その延長料金を、前述の知人とか巻き込んでた人に営業手当として反映させてあげて…。


現役学プロ団体の大会で組まれるOBマッチで、30分近い時間で現役生よりも長く毎回試合しちゃってる某OBを見ている時くらい、気持ちが冷めたところはある。「自分だけ気持ちよければいい」みたいな。
でも、周囲は高評価だったのだから、その評価こそが正義なんだとも私は思う。


私がこんな事を言ったら、ある人から「メジャープロレス団体の価値観で切ってるからイタい」なんて弄られたけど、個人的に社会人プロレスはプロの価値観で切っても面白い団体が多いし、内容も刺激的だと私は本気で思ってるよ。


関東圏で定期的に試合してる社会人プロレス団体だと、人を楽しませるところにプロレベルで向き合っているCWPも、地元の教育委員会とか商店街と絡みながら親子連れも楽しませるnkwも、プロでも見れないような独創性と狂気性の高いストーリー展開が見れるRAWも、ディック・ズレーター率いる新進気鋭のAZWも、皆それぞれ素晴らしい。

単発興行でも、じっくりした攻防が「これでもか」とばかりに堪能できる『健康プロレス』の存在は広く知られてほしいし、私も薦めたい団体だ。


以前、何処かで「アマチュアはお金を払って試合して、プロはお金を貰って試合する」という話を耳にしたことがある。
その原則に則ればメインの内容も納得いくんだけど、ある種の自己満足的な要素もトリートメントして魅せていく実力者がメインにいたからこそ、試合に出ない関係者に対して営業活動を頼んでまで人を集めたからこそ、メインで纏まりないことをしていた事実が私には衝撃的だったのだ…。


まとめ

メインに対して個人的に思う事はあったけれど、私はメインで40分近くも試合しなくたって、社会人プロレスで充分伝説は作れたと思うのだ。


コロナ禍福以降、プロでも集客に苦戦する時代で、後楽園ホールを社会人プロレスが満員にした。
この事実だけで確実に金字塔じゃないですか。

社会人プロレスを初めて見たという人達に「社会人プロレス面白かった!」、「学生プロレスも観に行きたい!」と言わせた事実もデカい。

2.17に行われた『学プロALL STAR』と並ぶ、アマチュアプロレス界に残る伝説的興行が上半期だけで2つも残った2024年は、今後も語られる軌跡だろう。


そんな今大会で、学プロ出身者から数多くプロレスラーがデビューしている近年の状況でも、プロとアマには明確に差が存在するんだと改めて実感させられた。

学生プロレス出身の現役プロレスラーが絡む試合も複数あった中、攻撃面の迫力とか、受けている時でも相手選手を飲み込む存在感とかが、プロには間違いなくあった。
セミファイナルの『大谷譲二vs佐々木コンプリートJr』が象徴的で、社会人プロレスでも屈指の蹴りの強さを誇る佐々木が攻めても、その全てを受け止める大谷の存在感が猛烈な攻めも飲み込んでしまっていた。


2022年秋にnkwで、学プロ出身のチョコット・シタイナー(現:チョコ・バトラー)が女子プロレスラーのSAKIとシングルマッチで対戦した時にも同じことを感じたけれど、技量や体力だけではなく、運営とか魅せ方の部分で相当な違いがある。
例え、それが個人のマスター○ーションであったとしても、人がお金を払いたくなる方向に味付けと工夫がなされているのがプロなんだろうなと。


ただ、このプロとアマの違いは、決して否定的だったり悲観的だったりでは無いとも私は思う。

プロでは魅せられないアプローチと発想力を活かした展開が学生プロレスや社会人プロレスにはあると思うし、多くのプロ関係者からも御祝いコメントが出されるだけの魅力が、それを何よりも証明しているのではないだろうか?


以上、私が有給プロレスを観て思った主な感想になります。

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