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清宮海斗はプロレス界の青魔道士である。


はじめに

私がまだ小学生だった頃、父親の影響でプレイしていたゲームがあった。


そのゲームの名前は、『ファイナルファンタジーⅤ』(以下:FF5)。


父親と交代制で一緒にプレイして、勝ったりやられたりしながら敵キャラクターを倒していった思い出は、大人になった今でも脳裏に刻まれている。


このFF5において特徴の一つとして挙げられているのが、【ジョブチェンジ】システムだ。

そんな転機となった本作最大の特徴といえば、やはりジョブチェンジシステム。これは、『FF3』でのジョブシステムをベースに、4人のキャラクターがジョブを自由に変更できるシステムです。
通常のキャラクターレベルのほかにジョブそれぞれにレベルがあり、バトルで得られるAPを貯めることで成長させることができました。

しかも、成長させるごとにアビリティを覚え、覚えたアビリティは、ほかのジョブのときに設定して使うことができたのです。
設定できるのは1つまでだったので(例外あり)、あれもこれもとなんでもできるわけではありませんでしたが、それでも当時としては画期的で、キャラクターの育て方やバトルでの役割の幅が大きく広がりました。


最大4人で行動するパーティーの各人に、剣を使い戦う【ナイト】、格闘に特化した【シーフ】、攻撃系の魔法を操る【黒魔道士】、回復系の魔法を操る【白魔道士】と、様々なジョブを選択してダンジョンを攻略していくのだけれども、中でも個人的に一番思い入れの深いジョブがある。

それは、【青魔道士】だ。


青魔道士はモンスターのアクションを観察し、青魔法として修得する「ラーニング」という技能を持っています。ラーニング可能なアクションをモンスターが使用したあとに討伐することで、青魔法をまれに修得できます。


青魔道士のジョブor「ラーニング」をセットした自分のパーティーメンバーは、敵キャラクターやモンスターが使う技を受けることで相手から技を学び取り、青魔法を介して使用できる特徴を持つ。

青魔法は、攻撃系や回復系だけでなく、レベルが特定の倍数に該当した敵にダメージを与える魔法や、対象を小人やカエルに変化させる魔法、果ては「かえんほうしゃ」や「ミサイル」といった魔法らしからぬ技まで揃えているが、これらは全て、相手から技を受けないことには一向に手持ちの技が増えていかない欠点もある。しかし、技を受けながらも相手を倒すに従い青魔法のレパートリーは増えていき、黒魔法や白魔法とは異なる特色と個性を得ることが出来る。

その上、【黒魔道士】や【白魔道士】のジョブでは装備させることの出来ない「剣」を装備することが出来るため、物理攻撃の面でも優れている。

育てるには時間もかかるし、クセも許容する必要はあるけれど、育てようによってはオールラウンダーになれる素質を持つ【青魔道士】に、私はプレイしながら心を惹かれていくようになった。
パーティーの4人のうち、必ず1人は【青魔道士】にしていたくらい、私の中では好きなジョブだ。



ここまで【青魔道士】について長々と書いてしまったが、今回の記事で私が書きたいのはFF5の思い出ではなく、プロレスの話になる。
とはいえ、【青魔道士】のことを熱心に書いたのは、個人的な思い出だけでは留まらない、ある訳があった。


それは、前々からプロレス観戦をする中で感じていたけれど、文章に残す大層な機会は無かったこと。
それでも、私なりに提唱したいこと。

今回の記事で私が書きたいのは、「清宮海斗は、プロレス界の青魔道士ではないか?」という話だ。


今回の記事を書くにあたって浮かんだ、私なりの幾つかの動機。

プロレスリング・ノアを毎月生観戦していった中で私が感じた、清宮の変化と確信。

清宮海斗と【青魔道士】を結びつける、私なりの共通項。


そうしたものを、記事という形に残したかったのである。


【清宮海斗=青魔道士】説を提唱したい理由

この題材で今回私が記事を書こうと思ったキッカケは、『N-1 VICTORY 2024』優勝を果たした直後の清宮に対する、小川良成のコメントだった。


申し訳ないけど、水を差すようですけれども(新日本プロレスのG1クライマックスに優勝して小川に感謝した)ザック(セイバーJr.)と同じだね。ザックのマネだよ。まあ優勝したから褒めてあげたいけど、これがなかったら褒めても良かったけど。」

「試合もそう。武藤(敬司)さんのマネ、武藤さんのコピー。清宮海斗の試合がないし、清宮海斗の色がないから。ちょっと厳しいようなことを言うけど。」


清宮の師にあたる小川良成から浴びせられた、痛烈な一言。

過去にも小川から「モノマネ」、「ワンパターン」というワードで酷評されたことのある清宮だったが、優勝決定戦で解説席にいた小川の評価に、以前から聞かれていた評価がプロレスファンからも向けられたのである。


「武藤敬司のパクリじゃないか」

「もっと清宮はオリジナリティを出さないと」


前々からプロレスファンよりそんな指摘がなされることも少なくなかった清宮だけれども、2022年に武藤敬司から直伝されてシャイニング・ウィザードを使用し始めて以降、顕著になっていった。


それは、私の中で清宮海斗という選手の事が好きという面も、少なからず作用していたと思う。
ただ、それ以上に、清宮のシャイニング・ウィザードや脚4の字固めが「取って付けた」ように思われてしまうのが辛かったのだ。


今回の記事は、N-1決勝が行われた当日に書いたツイートの内容を元に膨らませて書いた。

これは、「【青魔道士】のラーニングと、清宮の技の習得は、過程も含めて一致するのではないか?」という自説である。


①敵と対峙した過程での「ラーニング」

私が清宮海斗というレスラーを【青魔道士】ではないかと感じたのは、試合中に敵から受けた技や振る舞いを自らの試合に活かす「ラーニング」の過程が、青魔法を取得していく過程と重なったからだ。


2022年8月、武藤敬司に敗れて以降、直接勝利が遠かった清宮は、2022年7月に武藤から遂に勝利を収めた。
後のシャイニング・ウィザード直伝に繋がった一戦で、清宮がフィニッシャーに用いた技は、かつて清宮がタップアウトを喫した脚4の字固めであった。


ただ相手の真似をして技を得るのではなく、実際に相手から受けた痛みも忘れず活かしていくのが【青魔道士】だ。
「ラーニング」とは即ち、これまで受けてきた傷や痛みの集積でもある。


今でも私自身忘れられないシーンが、2021年5月に行われたNOSAWA論外とのシングルマッチにおける一幕だ。


論外から血祭りにされた直後「これがNOAHのプロレスかよ!わかんねえよ!」と感情を露にした清宮だったが、その3年後、ゲイブ・キッドから流血沙汰に追い込まれても退くことなく立ち上がり、GHCヘビー級王座戦では(偶発的とはいえ)出血したゲイブにリベンジを果たした堂々たる姿に、私は成長と頼もしさの両方を感じずにはいられなかった。



②技だけではない高精度な「ラーニング」

清宮の「ラーニング」力は、何も他人の技だけに留まらない。
技の使い手が持つ空気感や、敵の振る舞いや間合いといった言葉で形容しづらい箇所までラーニングしているのだ。

所謂「あっ…、○○がやってた…」という思い出も含めて想起させてしまう再現度の高さは、清宮海斗が単なる他人のモノマネではないと感じている一番の要因でもある。


2024.5.4両国国技館で行われたイホ・デ・ドクトル・ワグナーJr戦での、ドロップキックを絡めた畳掛けるような脚攻めは、武藤敬司を想起させるものがあった。


2024.7.13のNOAH日本武道館大会メインのYOICHI戦では、大YOICHIコールが会場中に響き渡る中、普段は声援を浴びる事の多い清宮が、相手を受け止めて尚、絶対的な強さを示す王者像を終始見せ続けた。

この姿は、2023年2月に東京ドームで対峙したオカダ・カズチカが見せた、圧倒的な強さと立ち振る舞いにも酷似している。


それでいて、YOICHIに試合のペースを渡さず流れを要所で断つ嫌らしさは、小川良成や武藤敬司が纏ってきた嫌らしい攻め方そのものであった。


今の清宮が場外戦で見せる容赦の無さも、東京ドームのオカダ戦で喰らった容赦の無さに近いものを私自身感じている。


技に留まらない相手の空気感や振る舞いをも、清宮は取り込んで自分の試合に反映させてしまうのである。


③「ラーニング」から変換されるオリジナリティ

試合で浴びた敵の技と間合いを、自分の試合で出力できる「ラーニング」力の高さ。
ただ、この2つだけでは、清宮はパクリと言われるだけで終わってしまう…。

今回の記事を書く上で個人的にどうしても外せないのは、清宮の場合、自らのエッセンスを注入してオリジナリティを確立しようとしている点だ。


一例を挙げるなら、武藤敬司の代名詞にして、清宮の現フィニッシャーであるシャイニング・ウィザードだろう。
2022年夏以降に武藤の直伝で使用し始めた経緯があるとはいえ、タイガー・スープレックスホールドからフィニッシャーが変わって以降、清宮のオリジナリティを指摘する際に度々議論に上がる技ともなっている。


ただ、「オリジナリティがない」と批判されてきたシャイニング・ウィザードは、武藤敬司から直伝されて間もない2022年秋の段階で、既に「相手の頭を腕で掴んで膝を当てる」オリジナリティは確立されていた。

2022.9.3 NOAH・エディオンアリーナ大阪第1競技場大会


2024年頃からは、必殺技であるシャイニング・ウィザードを繰り出す前に、トップコーナーからの変型シャイニング・ウィザードを用いるようになった。

2024.4.22 NOAH・新宿FACE大会
2024.5.4 NOAH・両国国技館大会


シャイニング・ウィザードの前に見せるプロレスLOVEポーズも、2024年に入ってからは、本家と異なり【獅子舞のように体を動かしながら叫んで披露する】ムーヴが取り入れられている。

清宮の使うシャイニング・ウィザードは、年を経るにつれて清宮自身のオリジナリティを帯びるようになっていったのである。

2024.6.9 NOAH・後楽園ホール大会


極めつけは、2024.9.14NOAH後楽園ホール大会で大岩陵平を相手に披露した、4の字式エビ固め(オガワマジック)だ。


小川良成が使用していたオガワマジックは、脚4の字をかける入り方から相手を固めて丸め込む技だ。


しかし、清宮は同じ技の入りから上体を反らして、変型サムソンクラッチのように固めたのである。


「ザックのパクリ」、「武藤さんのパクリ」と清宮を酷評した師匠・小川良成に対して、師匠の技に自らのアレンジを加えたことでアンサーに変えた清宮の姿を見て、私は改めて確信した。

清宮は、自分のチョイスでオリジナリティを確立できる選手なのだと…。


まとめ

2022年夏、武藤敬司が清宮に直接シャイニング・ウィザードを伝承した際、清宮と武藤がこんなやり取りを交わしていた。

清宮「今まで自分の技の中でパッとキレのある技がないと武藤さんにおっしゃっていただいて、そこがずっと今シリーズも引っかかりながら色んな練習とかリングでもやってきたんですけど、【自分にしかないもの】というのはどういう部分で…」

武藤「【自信】だよ。これで絶対ピンフォールを取るんだという気持ちと自信と、あとは結果だよな。結果を積み上げていくしかないじゃん。やっぱり、4の字とかドラゴンスクリューとか使うにあたって何回も何回もチャレンジして失敗する事もあれば、その中の積み重ねで成功というものを導き出して、それが積み重なっていけば自信に繋がるし、【自分のもの】になっていくと思うよ。ぶっちゃけ、4の字だってドラゴンスクリューだって前からあった技だからね。だから、逆に言うんだったら、本当の意味で俺から奪い取って見ろよ。お客を納得させられるように。それで実績を作って、それを磨いていくしかないじゃない。」

「最初は揶揄されたりするんだよ。ファンだって『武藤の真似だ』とか言ってくる。それをぶちかましていかないと自分のものにならないからね。それを納得させるという事が彼のこれからの課題であったりする訳で。」


【自分にしかないもの】は積み重ねた結果と自信によって生み出されていくという武藤の発言は、プロレスに留まらぬ名言だと私は思う。
このやり取り以降、清宮は結果を積み重ねながらも自信を持ってシャイニング・ウィザードを使っているが、今でも清宮に向けられる批判を見ていると、オリジナリティの創出とは非常に難しいものなのだと痛感させられる。


ただ、技や振る舞いを相手から習得していく過程が、よくあるプロレスラーの公開特訓のような特殊イベントではなく、実戦を通じた痛みに基づいている点は、清宮ならではのオリジナリティだと私は思う。

私がプロレスリング・ノアを本格的に見始めたのは、清宮がGHCヘビー級王座初戴冠を果たした2018年頃だった。
そこから定期的に清宮の試合を見ているけれど、「○○と対戦して勝った・負けた」という結果だけに留まらない屈辱・悔しさ・痛みなどを、自らの試合や振る舞いに反映させながら成長し続けている事を、清宮の試合を通じて私は感じた。



【青魔道士】というジョブは、敵から受けた技をラーニングして青魔法として使用できることが最大の強みである。

「オリジナリティに欠ける」と言われてしまえばそれまでなのだろうけど、青魔法として堂々と使えば、それは【青魔道士】ないし青魔法の個性に繋がっていく。


清宮も、デビュー戦のコスチュームで緑色を纏い、かつてはタイガー・スープレックスホールドをフィニッシュに用いるなど、三沢光晴の存在やノアの象徴を(内的にも外的にも)背負うよう期待されていた節がある。
ただ、近年は武藤敬司の技を取り入れながら、コスチュームの色も緑→黒→カラフルと変遷を遂げるようになり、ノア生え抜きながら様々な血筋を取り込み、個性へと変換している。


正直な所、武藤敬司が偉大過ぎる故に、その存在を超えて清宮が万人を納得させるようになるまで更なる時間が必要だろう。

しかし、清宮はシャイニング・ウィザードを使っていても、オリジナリティを創出する事から逃げている訳では決して無いと私は思う。
客席とかで試合を見ている私は、そんなことを色んな人に伝えたい一心で、今回この記事を書いた。


清宮海斗はきっと、何にだってなれるさ。
その変化さえも、私は楽しみにしていきたい。


※関連項目


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