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庭と緑とコーヒー"草月会館&CONNEL COFFEE"

まだ本格的に寒くなる前に訪れた「草月会館」。
1977年に丹下健三氏による設計で完成した。
青山通りの赤坂御所の南側、西側には高橋是清翁記念公園という都心でありながら、豊富な緑陵を臨む絶好の立地だ。
通りに面したカーテンウォールには青空や緑が映り、景色によく溶け込んでいる。

草月会館は、いけばな草月流の拠点であり、ホールや教室、などを備えるほか、ジャンルを超えた創作活動の発信地となっている。
もうひとつ注目したいのが、2階に元の建築や家具を生かしながらnendoによって手掛けられたCONNEL COFFEEだ。


草月会館外観
エントランス

丹下健三氏、イサム・ノグチ氏、NENDOと時代を超えながらも挙げられる共通点は、存在を消しながら強い存在感を放つ、そんな空間を生み出すことだ。

1.イサム・ノグチの尊き石庭

石庭2階からの眺め
石庭

青山通りのガラスのエントランスアプローチ越しに、ボリューム感のある石のアートが鎮座しその先に石庭が見える。
イサム・ノグチによる花と石と水の広場「天国」だ。
草月流の初代家元勅使河原蒼風氏の依頼により、1978年に完成した。現在では展覧会、ライブパフォーマンスの場としても使われている。
1階から見上げると、階段状になった石庭の所々に柔らかな表情のアートが点在する。頂上には天井のトップライトと帰結する開口部があるが、下からはその先はよくわからない。
その先に天国があるのだろうか。
そんな想像を膨らませるような空間構成だ。
2階に上がるとその全貌が明らかになる。ランダムにアートが配置されているが、均整がとれトップライトから切り取られた四角い光も相まって、神々しい空間となっている。
また建物全体が鏡面を上手く活用してるため、この庭を構造や建築壁によって切り取ることなく、上手く拡張させている。

2.緑が店内で倍増するカフェ

CONNEL COFFEE内観
CONNEL COFFEE窓際

CONNEL COFFEEはデザインは元より、運営母体もNENDOという珍しいスキームだ。西側の高橋是清翁記念公園に対して大きく開口をとり、ガラス一面に公園の緑が降り注ぐ。
この緑を生かした内装が何ともNENDOらしい。
天井とカウンター天板は軒裏とも連動して緑がほどよく映り込むようにグレーペンミラーと艶のある黒い人工大理石を用いている。それ以外の床やカウンター側面はなるべく存在感を抑えるために、NENDOがデザインしたフローリング「stream」で統一している。
この構成により、通常窓からしか得られない緑の借景があちこちに映り込み、緑に包み込まれるような感覚を覚える。

3.緑に映える家具のシルエット

2階談話室
2階談話室

カフェのお弁当やコーヒーを2階の談話室でも食べることができる。ランチや休憩、ワーキングなど皆思い思いに活用している。
前面は青山通りで、向かいにある赤坂御所の溢れんばかりの緑を楽しむことができる。時間があれば御所の警備員さんを観察することもできる。
この空間で象徴的なのが、漆黒のチューリップ・チェアだ。この椅子はエーロ・サーリネンによって1956年にKnoll社から発表された。
1本脚を実現するために、強度や素材を考慮してこの形状が生み出された。細く伸びる1本脚と座面や床面に対する曲線はそれだけでも美しい。
ベースカラーが白でシートが赤いものが一般的にはよく知られ、近未来的な印象を受ける人が少ないだろう。
チューリップ・チェアは竣工当時から使われてきたそうだが、漆黒に塗装し再利用されている。
ここでも家具は緑を引き立て、落ち着きをもらたす空間の一部に過ぎない。しかし、椅子とテーブルの連続する、引き締まった黒い曲線ラインは緑の中で、竣工当時からのアイデンティティを放っている。

いけばなのことは正直よくわからないが、多くを語らず、見る人の感性に委ねる、という部分はこの建築やインテリアにも通ずるものがある。
そして型にはまらず、自由に、時代を超えて表現できる、というもの花と建築の共通点かもしれない。


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