「猫の恩返し」と答える全ての人に①(考察編)
きっかけ
猫ハルについて書きます。2002年に公開された映画です。何を今更と感じる方もいるかもしれません。しかし分かりやすいストーリーのためか、考察が全く見つかりません。オタク界のご意見番こと岡田斗司夫も語るに値しない映画として、長らく取り上げてきませんでした。そんな猫ハルですが、ゴールデンウィーク中に、たまたま金曜ロードショーでやっていて、誰からも遊びに誘われ、たまたま暇だったので、書くのはオレしかいねぇと筆を取りました。
また、よくある話題に『どのジブリ作品が好き』というテーマがあります。僕も何度か尋ねられました。その度に「猫の恩返し」と答えています。そして高確率で「あーいいよね、猫の恩返し。歌とかもいいよね」というボールが返ってきます。
「歌以外にもあるわ!」と、改めて、その理由を考えてみました。しかし、「ふわっとした緩さ」みたいな、それはもうふわっとした感想しか思い付きません、、、そういったこともあり、前から一度整理したいと考えていました。
主題
キザなタイトルをつけましたが、とても簡単です。
猫の恩返しって結局どういう映画なの
猫の恩返しの好きな理由、良さ
あらすじ
普通の女子高生ハル
この映画の理解を深めるため、注意深く見返し、色々と調べました。その結果、主人公であるハルを知る事が、猫ハルの映画そのもの、テーマに繋がっていくと感じました。
最初に猫ハルのテーマを伝えておくと、
「自分の時間を生きること」です。
まずハルの状況についてです。
皆さん、これらのシーンからどういう印象を持ちますか。全て、猫の国に行く前です。上手くいってない様子がめちゃくちゃ伝わってきますよね。なんかなぁみたいな感じしませんか。作中では、町田くんへの恋煩いしかぐらいしか具体的に触れていませんが、他にも色々あるような気がします。
解説本を買って、カンニングしました。猫ハルの脚本を担当した吉田玲子さんのインタビュー記事です。
また、④は猫王の側近ナトルに猫の国に来るよう誘われ、少し考えて「猫の国に行ってもいいかな」と話すシーンです。あれほど猫の国からのお礼に迷惑していたハルが、このセリフを話した背景も解説本に書かれていました。
ここで猫ハルが作られた当時の時代について触れます。森田宏幸監督のこのようなツイートを見つけました。
次の表を見ると、監督のツイートは、確かに間違っていないようです。ハルのどこか現状に満足していないモヤモヤした心は、この時代の多くの若者に共通していたことかもしれません。
次にハルのキャラクター像についてです。
ハルの特徴は普通の女子高生です。猫ハルのメイキング映像で鈴木プロデューサーも、次のように語っています。他のジブリ作品で見られるような一生懸命頑張る子や芯の強い子ではありません。ハルはその真逆です。ふわっとしていて優柔不断で毎日一生懸命頑張って生きていません。こういう特徴だからこそ、『自分の時間を生きる』というテーマがすんなり入ってくるのだと感じます。自分の時間を生きまくっているもののけ姫では、成立しません。余談ですが、ハルのコンセプトは「背は高いが腰は低い」です。
作中でハルは何回も「かっこいい」と話します。このセリフが気になったので、それぞれのシーンを紹介します。
①町田くんが好きな理由を話しています。
友達「だけどそんなに町田がいいかね?」
ハル「そりゃかっこいいもん!」
②ナトルにルーン王子の妃として迎えたいと言われ、ハルが驚いている様子です。
ハル「嘘嘘嘘、うまいこと言って、そんな事あるわけ、、、だって王子様、猫じゃない?」
ナトル「にゃにをおっしゃいますやら、猫とはもうせ、ルーン王子かっこいいじゃないっすか!!!!!」
ハル「え?!かっこいい??」
①町田君が好きな理由は、「かっこいいから」と言い切っています。②当初、猫の王子(ルーン王子)の妃として迎えられることを疑っていますが、「ルーン王子はかっこいい」と告げられ、急に考えこみ「猫の国もいいかもね」と思わず言ってしまいます。また、バロンに出会った時も、ハルの最初の一言は「かっこいい」です。
ただし一箇所だけ全く違う使われ方がされているシーンがあります。人間の世界に戻るため空から落ちてくるシーンです。「私たち、かっこいいかも〜」とハルは叫びます。主語が違います。ここだけWeです。それ以外は、Heです。
自分の時間を生きる
猫ハルのテーマは、『自分の時間を生きること』です。バロンがそのまんま話しているので、とてもわかりやすいです。
「キミがどうすればしっかりと自分の時間を生きられるか考えよう。それさえできれば何も恐れることはない」
「キミは、キミの時間を生きるんだ。前にもそう言っただろ」
ハルは無事、猫の国から人間の世界へ帰ることができました。それは、バロンの言葉通り自分の時間を生きられたことを意味します。
しかしハルにとって、自分の時間が何を指しているのか、自分の時間を生きるとはどういうことなのか、作中では、説明がないので自分で考えなければなりません。僕の中で、『自分の時間を生きる』とは、『自分の過去の時間を受けいれる』と考えました。
まず、ハルが猫の国へ行って、結局どうなったのか、これについてです。たまにネットで「ハルは猫の国行って成長して帰ってきた」という感想を述べる輩を見かけます。
自分の時間を生きられたから成長したのか
僕は、成長と言えるほど大層なものを得たとは感じません。ハルの状況や性格から考えると成長は飛躍し過ぎです。成長はしてないけど、心の中の霧が晴れて、視界が明るくなり、その結果、自分自身への気づき(自己理解)が進んだのではないかと感じます。
解説本で監督と脚本家が述べたことを紹介しておきます。
以上のことを踏まえて、少し前に戻ります。「かっこいい」というセリフに触れた箇所です。
Heの「かっこいい」とWeの「かっこいい」を比較すると、自分の時間を生きられたかどうかで使われ方が違っているのが見えてきます。猫の国に行った前(He)と行った後(We)ですね。
猫ハルの原作は柊あおいさんという少女漫画家が描きました。少女漫画が原作、主人公は普通の女子高生です。それはもう「かっこいい」や憧れが溢れる世界ですよね。しかし当初、ハルはそれらを好きと信じていたんだと感じます。それが、猫の国に行って変わります。物語のラストシーンです。
友達「別れたんだって!町田のやつ!」
ハル「え!ふーん、そうなんだ」
友達「あれ?なにその反応??もっと他に言うことないの?」
ハル「別に、もういいのよ」
猫の国に行く前、ハルは「かっこいいから町田くんが好き」と言い切りました。しかし猫の国の経験を通して、自己理解が進み、かっこいいと好きは別物であることに気づきました。だからこそ、全く気に留めない反応になったのだと感じます。めちゃくちゃ清々しい顔してますね。
それでは、改めて「自分の時間を生きる」とはどういうことなのか、考えます。ハルがヒントになりそうなことを話しています。
「猫を助けたことも、迷って苦しんだこともみんな、大切な自分の時間だったんだ」
このセリフが話されるまでの流れは以下の通りです。
ハルが子猫だったユキちゃんに魚のクッキー食べさせたから、トラックに轢かれそうになったルーン王子助けたから、ユキちゃんとルーン王子は結婚できます。助けてもらったことに、二匹の猫はハルにお礼を言っています。
僕はここがポイントだと考えています。
自分の時間を受け入れる
自分自身のおかげで二匹の猫が結婚出来ること、感謝されていることを知り、ハルの中に過去の時間(行い)が肯定されたような、間違っていなかったと後押しされるような気持ちが生まれました。「やっぱ猫を助けてよかったのよ!」というセリフもあります。肯定されたことでモヤモヤした時間も含め自分の過去の時間を受け入れられ、「猫を助けたことも、迷って苦しんだこともみんな、大切な自分の時間だったんだ」というセリフが出てきたんだと感じます。この経緯から『自分の時間を生きる』とは、『自分の過去の時間を受けいれる』と考えました。
だいたいこんな感じに考察してみました。長くなったので猫ハルの好きな理由、良さについてはパート②で書きます。
ps 猫ハルの情報を仕入れるため金曜ロードショーとジブリ展行ってきました。全然なかったですが、、、、