ぜんざい

【いつか来る春のために】㉔ 仮設からのリライブ編❺ 黒田 勇吾

美知恵は集会所の後片付けを皆で終えて、自治会長に挨拶したあと、康夫おじさんに声をかけた。加奈子は友人の真理ちゃんたちと入口で立ち話をして笑っていた。
「おじさん、お疲れ様でした。先ずはひと段落でしたね。これからまだまだ大変だけど、一緒に頑張っていきましょう、体気を付けてね」
「みっちゃん、ごくろうさんだった。先ず。一区切り踏ん切りがついたってとこだなぁ。今日はこれがら夢川の浜さ行って泊まる予定だ。明日は浜のみんなど復興に再出発だな。夢川はまだ何も始まってねえがら長い道のりになっぺ。んだども希望は自分たちでつぐっていぐしかねぇ。希望はあたえられるもんでねぇと思う。みっちゃんこれがらもよろしくなっす」微笑みながら康夫おじさんは手で顔を撫でた。綺麗に剃った髭のない顔が少し赤くなっていた。小さなふたつの目はまだ濡れていたが、笑顔になって、また来週なぁ、と言って康夫おじさんは集会所の玄関を出ていった。美知恵はおじさんに頭を下げてそれから加奈子に声をかけた。
「加奈子さん、先に帰ってるからね。おひるごはん用意してっから、よかったら真理ちゃんだちもよるように言ってね」加奈子は微笑んで頷いた。美知恵は集会所の入口を出て歩き出した。そして今のおじさんの言葉を思い浮かべた。(希望は自分たちで創っていくしかない)おじさん、その通りですね。なんて素敵な言葉だろう。おじさんも変わったなぁ。美知恵は感動して微笑んだ。おじさんを変えたものはなんだったんだろう、と考えてみたがよくわからなかった。集会所の周りはお昼の時間になったからなのか、子供たちはすでにいなくなっていた。

 美知恵がぜんざいを温めていると、加奈子が帰ってきた。真理ちゃんたちは帰ったということだった。美知恵は三人分のぜんざいを盆に載せて隣の部屋に行った。加奈子も光太郎を抱いて一緒に座った。美知恵は三人の写真の前にぜんざいをお供えすると静かに写真に語りかけた。
「お父さん、お母さん、隆行、先ほど一周忌を済ませました。長い一年だったように思います。みんなで昔、よく食べてたぜんざいをお召し上がりください。隆行は特に好きだったよね。いっぱい食べてね。これから新たな人生に出発します。どうか私たちを見守っていてください」美知恵は写真に手を合わせて祈った。加奈子も合掌して目をつむった。光太郎が膝の上でおとなしくして写真を見ていた。

「はい、じゃあ加奈子さん、私たちもいただきましょう」美知恵は気持ちを切り替えるようにすっと立ち上がって居間に戻った。

              ~~㉕へつづく~~

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