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【初愛】~君に捧ぐいのちの物語~⑥

④の②からの続きです。④のラストに読者様に、どちらの物語がいいかを
コメントください、とお願いいたしましたが、残念ながらコメントはありませんでした。
それは致し方ない事だと理解しています。
従いまして、この【初愛】という物語を続けていくには、作者が①か②のどちらかを決めなければ、この先には進めません。
作者は、②の展開を選択して、この物語を続けていくことにしました。

作者は、春べぇが、創った歌は、春べぇの婚約者であった万理江への想いもあっただろうから、なべっちのように慌てて万里江に聴かせるべきではないと考えたからです。
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再掲 【初愛】④のラスト②
②田辺が、万里江に向かって呟いた。
「春べぇから、おらは震災以来、もう何度も聴いていたんだ。万里江、戻ってこないかなぁ、帰ってこないかなぁって。あいつは俺の前で涙を流しながら何度も呟いていたんだ、だからもう今、万里江を目の前にして思うよ。春べぇが万里江を蘇らせたんだって、、。そして春べえが初めに創った歌がこの歌だよ。万里江のことを思って創った歌だって言ってたんだよ。春べぇは仮設住宅に行って初めて創った歌なんだよね」
田辺は、携帯を取り出して、その歌を流し始めようとした。
それを見てみやくみは急いで立ち上がり、携帯を取り上げた。
「なべっち、この歌は春べぇが創った歌だから、まりっぺが春べぇと会った時に聴かせるか、それをしないか、つまり春べぇに任せるべきだと思う。
そうすることがいちばん大切なのかな、と今思った。だから、なべっち、今はやめましょう」
田辺はみやくみを驚くように見たが、すぐにみやくみの想いが分かった。
「そうだね、そうしよう」
田辺はみやくみから携帯を受け取ると、ポケットにしまった。
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↑ の続き

「春べぇ、が歌を創っていたの?この4年間で、この牧野石ではいろんなことがあったのでしょうね。
私は浦島太郎の女性版なの。この4年間の牧野石の出来事はまだ何も知らない。パパにも最近連絡がついたばかりだから、電話だけでどんなことがあったか少し聞いただけ。。。。

パパが、今頃春べぇに私のこれまでのことを電話で話していると思うわ。私がパパに頼んだから。もしかしたら、この「街合わせ」にいるんじゃないかと思ったりもしたんだけど、あとでゆっくり春べぇとは話をするつもり。そう呟いてから、万里江はみんなの顔をぐるっと見渡しながら、レモンティを一口飲んでから、ゆっくりと震災当日から今日までの話を始めた。

        山平万里江の話

「4年前のあの日は、私はパパの仕込みの手伝いをしていたの。あの頃は少しずつ私にも、パパは包丁を握らせてくれるようになっていたの。魚の捌き方の基本と、鮮度管理について学び始めたころだった。もちろん私は一人娘だから、パパのお店を継ぐという覚悟も出来ていたの。でもね、私ってすんごく不器用で、パパのようにお魚を扱うことができないのよ。これはね、何と言ったらいいのかな、一言で言ったら才能ってことだと思い始めてたの。
男だからとか、女だからとかとは全く別の話で、お魚を扱う仕事っていわば向き不向きが絶対にあると思った。好きとか嫌いとか以前の、才能としか言えない何か。生まれ持って自分に備わってる見えない力、と言ったらいいのか、とにかく私は半年ほど、パパの仕事を継ごうと決意して、一生懸命に努力しはじめてから、気付いたことだった。自分には、この仕事の基本中の基本の魚を扱う能力がないんだってわかったの」

みやくみは、万里江の話を頷きながら口をはさんだ。
「まりっぺは、私たち4人の中で一番努力家だったし、頭も良くて、綺麗で何もかも備わった女性だと私はいつも思っていた。だからまりっぺが、マスターの後を継ぐために修業を始めたのを聴いて、すごいなぁ、と思った。まりっぺがお店を継いだら、それこそマスターの十倍ぐらいのお客さんが集まってくると思ったわ。だからそういう風にまりっぺが悩んでいるとは、思わなかった。気付かなくてごめんね」

「ううん、みやくみ、気にしないでね。それと私は見かけよりも、どんくさいのよ。みやくみ、あのね、パパの十倍のお客さんなんて無理無理。人一倍努力することは本当だけど、でも努力しないとダメダメな人間なんだなぁ、とも思ってた。でもなかなか自分の本心というか、弱さというか、そういうものを見せることができなかったの。そういうの、ほら、見栄っ張りとか言うじゃない。私はそんな人間なの。自分の弱さを見せたくない見栄っ張りの人間だった。
パパはそんな私のことを一番よく知ってたから、私の気持ちを尊重しつつも、いろいろ考えていた。私が修業を始めてから3か月ほど経ってから、週一で春べぇがお手伝いに来始めたの。私は婚約者の春べぇがお店に来ること自体はすんごく嬉しかったし、楽しかった。でも、ああ、そういうことなんだな。私の旦那さんになる人が、このお店を継ぐべきなんだよなって妙に安心してた自分もいたの。春べぇとはその辺の話は何となくわだかまりがあるというか、私の想いを傷つけたくないという気配りもあっただろうから、あえて言わないで単純に週一で、お手伝いに来てるってスタンスでいたの。
そんな感じで2011年3月を迎えて、春べぇ自身も、学習塾講師を卒業して塾経営に進むという道をどうするか悩んでた。そして毎週金曜日に来てた日の
夜に、パパと私と、春べぇとで仕事が終わったらゆっくり話そうということを決めたのが1週間前。つまり3月4日に春べぇがお店のお手伝いに来た日。
だから3月11日も、パパと春べぇと朝早くに塩釜の市場にネタを仕入れに行って、帰ってきてから仕込みが始まるお昼過ぎまで、お店の2階で2人で休憩してたのよ。パパは組合の用事で不在だった。帰ってきたのが2時過ぎだったの。。。」

みやくみも田辺も驚きの表情を見せて二人で顔を見合わせた。
みやくみが尋ねた。
「まりっぺ、じゃあ、震災が起きたときは、お店に3人でいたということなの。春べぇもお店にいた?」
万里江は、不思議な表情を見せて応えた。
「そうよ、地震が起きたときは3人で金曜日と土曜日の仕込みの最中だったんだよ。え?春べぇに聴いたことなかったの?」

みやくみはなぜ?という表情で田辺を見た。田辺はみやくみを見た後、何かを考えるように頭を抱えた。

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