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キリンジ『3』(2000)

アルバム情報

アーティスト: キリンジ
リリース日: 2000/11/8
レーベル: A.K.A Records(日本)
「50年の邦楽ベスト100」における順位は49位でした。

メンバーの感想

The End End

 前回の座談会で“インタールードが何個もあると冷めちゃう”という話をした時に、カットしたけど“キリンジの『3』みたいな構成が大好き”という話もしていました。アルバム全体のハイライトとなるような、キャリアを貫く代表曲を中盤に配置した後インタールードでガラッと場面を切り替える構成、ベタだけどどこで出会っても好きになってしまう。
 レコードは針が内側に進むにつれカーブがきつくなり針飛びが起きやすくなるので、A/B面とも前半にリズムの強調されたアッパーなナンバーを、後半にバラードを配置するのが定石だったらしいのだけど、これもそういったことを意識して作っているんじゃないだろうか。
 キリンジの歌詞には、皮肉の中に清濁併せ飲む、或いは愚かさも含めて人間という存在を慈しむようなあたたかさがあると思う。“永遠と刹那のカフェ・オ・レ 冬の空を満たす”とか“君は泣くふりも素敵だ”とか歌ってもキザさが気にならない声も羨ましすぎる。

桜子

 堀込泰行さん、すみません好きです‼️‼️‼️‼️スマートで素直な詞に惚れてしまいます。
 前回この企画で聴いたペイパードライヴァーズミュージックよりしっとりずっしりしている印象。昼から夜になった感じ!

俊介

 エイリアンズだけのアルバムかと思って敬遠してたこと後悔してしまった。全曲シングルカットできるくらい、ひねくれてキャッチー、かつ粒ぞろいでした。むしろエイリアンズが霞む。
 なんで同じアーティストが2枚ランクインされてるの?って思ったけど2枚とも入ってないとダメだった。
 テンションコードの浮遊感にイカついポップのメロディがのっかったときのえも言われぬ感じは、今まで企画できいてきたどのアルバムとも似ても似つかない。
 1曲をとってみても、どこがサビか分からないってくらいキャッチーの応酬。めちゃくちゃオーバーカロリー、嬉しい、、。
 このアルバムが映える景色を見つけるためだけの旅がしたいさしあたり。

湘南ギャル

 いいですね。前回聴いたペイパードライヴァーズ〜より好き。素直に進行していくと思いきや、急に予想と反した音が聴こえてきてドギマギしてしまう。そしてその隙に、聞き馴染みのあるメロディに戻っていく。今作は良い意味での違和感が耳に残って、つい聞き返したくなる。メロディも歌詞も音も、全部に気を張って緻密に作っているはずなのに、こちらの肩肘を張らせないような雰囲気を纏っているのがすごい。こんなに気合を入れて作った完成度の高い作品、私だったらガンギマリの目で演奏してしまうよ。

しろみけさん

 ここに少しばかり、キリンジ『3』での堀込高樹の詞をクリップしたい。ここにある文句の全てが、まるで手垢のついていないクリシェであるかのように、ゴツゴツした名詞の隙間で魅力的に散乱している。「イカロスの末裔」で“胸の中に仕舞い込んだリンゴが腐ってなければいいね”とか言っちゃう人の話だ。「君の胸に抱かれたい」だって?いや、ここでも“愛されんだ”という砕けすぎた口語と“I Surrender”というキザすぎるセリフが、(もはや期待通りに)ややこしく混入している。かと思えば「メスとコスメ」で“僕の胸の奥に棲む/君の面影を塗り替えに来たのかい?“と、変な場所からのフックばっかガードしようとしているところに驚くほどストレート(当社比)なパンチラインを突き込んでくるから油断ならない。堀込高樹の前では、サンタクロースもボヘミアンだ。あぁ、でもやっぱり、“遊ばないかと少女の娼婦が誘う/冷たい枕の裏に愛がある/夜風を遠く聞く/歯を磨く”と歌ってしまう、天性のハードボイルドだ。

談合坂

 存在は知っているけど実は通して聴いたことがない邦楽アルバムランキングの上位に来るのではないかと思っていて、というのも恥ずかしながら私がそんな人間のひとりであり……
 聞き流すに聞き流せない裏切りをどんどん仕掛けてくるからずっと楽しい。かなり研究を重ねないとこの‘らしさ’には近付くことすらできないように思う。

 「エイリアンズ」以外初めて聞きました。というか「エイリアン」もサビしか知らなかった。「捨て身の奴に負けはしない/守るべきものが俺にはあるんだ」『悪玉』のこの歌詞に「3」のスタンスが表れていると感じた。一聴するとソフトなアーバンポップとして耳が受け止めてしまうのだけど、目を瞑って少しでも耳を傾けると和声の組み立て方やサビへ突入するまでのタム回しのやり過ぎない塩梅とか、とにかく緻密に作られている。能ある鷹は爪を隠す、という訳では無いけれど、このアルバムは聴けば聴くほど見えないベールが増えていくような作品なのだろう。

みせざき

 圧倒的な特徴やフックで掴んで来るような音楽ではないですが、自然と近寄ってくれる様な居心地の良さ、親しみやすさを感じました。素朴な声のトーン、メロディー、それらを上手く包み込む緩やかさが良いなと思いました。何処か小田和正っぽさを感じました。意外にも一辺倒ではなく曲の雰囲気として展開も多い為アルバム全体として楽しめる魅力もあると思いました。

和田醉象

 いい音楽っておしなべてドライブとか日常の光景に溶け込む(その分聞かれるようになる)と思うんだけど、これは何にでも合いますね。洗濯物を干しているとき、目的地に向かうとき、真夜中作業しているとき、何でも行ける。(歌詞が一行ごとにバラバラな景色に見えるんだけど、それも関係あるのか?)
 フォーン隊がメインかと思いきや、ギター主体な曲もあって素敵。あと、ドラムの質感やばすぎ。

渡田

 あまり激しい盛り上がりはないのにちゃんと鳥肌の立つ不思議な音楽。
 いつまでも転調しなさそうな穏やかな曲調から、気づけばサビに入っている。それだけ音の切り替わりが滑らかだった(大滝詠一の曲にもこういう特徴を持ったものが多かったと思う)。
 曲全体のイメージは穏やかなのだけれど、そういった予測不能な緩急があるお陰で、穏やかなイメージと緊張感が同居している。かつて「エイリアンズ」が何かのCM に起用されていて、宇宙を漂う場面で流されていたのを思い出した。今回抱いたイメージとぴったりだと思った。

次回予告

次回は、コーネリアス『POINT』を扱います。

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