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ヤン富田『MUSIC FOR ASTRO AGE』(1992)

アルバム情報

アーティスト: ヤン富田
リリース日: 1992/11/1
レーベル: SONY(日本)
「50年の邦楽ベスト100」における順位は96位でした。

メンバーの感想

The End End

 スティールパンからトロピカルを剥ぎ取る向き、ここにもうあったんですね。小林うてなさんの発明かと思ってしまっていた。
 音がとっても良いと思う。パンニングと帯域の整理がとても緻密で、それぞれの美味しいところが同時に発揮されているし、パーカッションやベースのコンプレッション具合も非常に心地良い。
 宇宙を掲げたタイトルなのに、そしてSF的なサウンドも散りばめられているのに、なぜだかノスタルジックに響く。今見るスターウォーズのエピソード4みたいな。様々な音楽が引用されていて、“地球を離脱する音楽”ではなくて“宇宙に地球を紹介する音楽”という意味のタイトルなんじゃないだろうか、などと考えたり。
 ただ、流石に長い!アルバムの尺がどんどん縮んでいる昨今の流れに慣れてしまった耳のせいでもあるけど、正直ディスク2は聴いていて結構ダレてしまった。

桜子

 スティールパンの音色が夏の中の涼しさって感じ。風鈴を聴いてるみたいな。
 今とても暑い野外で聴いているからこう感じるのかもだけど笑
 エレクトロな楽曲の後にアンビエントなスティールパンの曲を聴くというインターバル走が緊張と緩和をもたらしていて効果的だと思った。

俊介

 これいいっすね、頭吹っ飛ぶ。
 結局こういう突き放してくる音楽が好きだったのよ〜っていう気持ちを思い出した。
 マジカルパワーマコ聴いてるときと同じ、それでしか得られない感覚、○○○で○○○するときとか、○○○を○○○するときみたいなめちゃくちゃ道徳的に悪いことしてるときにしか降りてこない身体感覚きました。中学生のときが最後だったんだけど無事取り返しました。押忍。

湘南ギャル

 めちゃくちゃ良い。前に扱ったMESS/AGE(いとうせいこう)が自分の中ではスマッシュヒットで、そのプロデューサーをつとめたヤン富田の作品。そんなん好きになるに決まっている。MESS/AGEでは、森羅万象のあらゆる素材を緻密に組み合わせることで、芸術的なパッチワークを作り出していた。だが、それゆえに文脈が読み取りづらく、唐突に現れた謎の作品という感もあった。Music for Astro ageではMESS/AGEと繋がるような要素たちがそれぞれに深掘りされており、好きな小説の前日譚を読んでいるかのようなトキメキがあった。博識でセンスのある人間が作る作品はあまりの濃密さに聴き疲れてしまうこともあるが、この作品は聴き手に疲れを感じさせない。それどころか、ヒーリングミュージックにすらなりうる。2時間弱という比較的長い尺のおかげか、要素の濃度や要素どうしの重なりが薄められてちょうど聴きやすい塩梅になっている。これが本物のゆとり教育ですばい、、

しろみけさん

全体としてのまとまりがあるわけじゃないけど、どのトラックも独立した聴感があって、最高級サンプリングソースの博覧会みたいだ。こういうミックステープのようなアルバムは個人的に好物で、何を聞けばいいかわからないが寂しい時によく再生する。Disk 2の、ミキサーで遊んでいるだけの時間が好き。「Astro 2500 Systems」や「Dub Invader」のような、取り留めのないものを聞いている時間がたまらなく心地良い。あと、他のレビュワーも絶っっっっっっ対に言及してるだろうけど、「4’33” Dub」は面白すぎる。それが3分38秒しかないのもめっちゃ面白い。

談合坂

 世のスティールパンはいつも演技をさせられているのだと気づかされた。みんなこのくらい自然体にただの楽器になれたらいいのに。
 電子音とサンプリングもやけに人間味があってのびのびとしているように感じる。そうして親しみを持って触れ合っているうちによくわからない場所に連れて行かれてしまうのもまた楽しい。

 スティールパンの音は小林うてな氏の邦楽シーンへの貢献によって身近、とまではいかないが特異なものとしては聴こえてこない。輪郭のぼやけた音は夢見心地な効果をもたらす。そんなスティールパンの音がどうとかいう話と同時に、このアルバムはぶっ飛んでいる。4:33のカバーなど、かなり挑発的なトライを行っていて、そのサウンドはTo Rocco Rotなど、2000年前後のエレクトロニカシーンと重なる部分もあるように聴こえた。

みせざき

 まさに型に収まっていない、収まり切らない表現力に感じました。曲ごとに楽器が異なり、各楽器の味がそのまま詰め込まれ、表現されているというような印象を受けました。中々様々な楽器それぞれの個性を曲それぞれで表現する前衛作品も結構珍しい気がしました。They'll Come BackはなんかHot ratsっぽい、、
 ティンパニ?なのかな、、が凄いフィーチャーされている気がして、バンドサウンドに溶け込む方法論もあるのだな、と感じました。バンドサウンドの方法論の再構築にも取り組んでいるアルバムなのだと感じました。

和田醉象

 このランキングにこのアルバム入る!?ってほどの違和感。SANDYも結構びっくりしたけどこっちも相当驚き。
 ランキングを知るまでアーティストもアルバムのこともよく分かってなかったけどジャケット通りスチールパンを全面的にフィーチャーした内容なのは恐れ入った。
 結構前聞いたいとうせいこうのサンプリングっぽいやり口だなって思ったけど、調べたら本当に「MESS/AGE」を手掛けた人だった!ビックリした!
 今こそスチールパンって結構ネットとの相性が良くて演奏動画とか上がるようになって知名度が上がっているけど、この時代だとこのジャケを見てもなにか怪しげな装置にしか思えなかったんじゃないだろうか。
 個人的にはもっとガッツリアンビエントだったり、映画のサントラっぽい作りだったほうが好みだったかも。だけど結構感情が入った演奏だったからJet Streamみたいな感じで聞けた。
 ただ、4'33のタブバージョンて。正直4'33の文字列を見た瞬間にちょっと固まったけど直後にダブを挟むなよ!っと突っ込みたくなった。

渡田

 スティールパンを主役とした音楽と言うから、民族音楽じみたものや、あるいはリゾート地に似合うような伸びやかな音楽だと思っていたが、そういった先入観とは少し異なる音楽だった。
 薄い鋼製ドラムの乾いた響きを中心に、それぞれの音がリズミカルに鳴っていて、むしろ規則正しさを感じた。また、スティールパンの高音の歯切れの良い音は、時に機械のボタンを押す時のような電子音にも聞こえ、ますます緻密な音楽の印象を高めた。
 軽快な音色でありながら緻密で間違いのないリズムは、一つの曲というより、ディズニー映画やトムとジェリーなんかで見る、キャラクターの軽快な動きを表現するような音のようだ。

次回予告

次回は、スチャダラパー『WILD FANCY ALLIANCE』を扱います。

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