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John Coltrane『Love Supreme』(1965)

アルバム情報

アーティスト: John Coltrane
リリース日: 1965/1(日付不明)
レーベル: Impulse!(US)
「『歴代最高のアルバム』500選(2020年版)」における順位は66位でした。

メンバーの感想

The End End

 ビートルズの、ロックの風通しの良さに触れた直後にこれを聴くと、ジャズというジャンルが当時すでに"行くところまで行ってしまった"音楽であったことが感じ取れる気がする。
 "何度かの発明を経て辿り着いてしまった行き詰まりをどうやって打破するのか"、恐らくみんながそのテーゼと格闘していた時期で。パッと触れて楽しむにはハイコンテクストすぎるという印象が一番大きかった。同時に、そのコンテクストを汲み取れるようになりたいなとも思っている。

コーメイ

本アルバムは、複雑怪奇であった。「Acknowledgement」の終盤に、「A Love Supreme」をお経のように口にするのを聴いた。その際、不気味な雰囲気を感じ、この感情がアルバム最後まで継続した。
 しかし、「Pursuance」でテンポの速いドラムが展開されていた点は、好きになった。
 だが、遥か上空に旋回している、手の届かないアルバムであった。

桜子

 3曲目のテンポから来る疾走感と、慎ましさを閉じ込めた激しいドラムの、シャリシャリしているライドは、良い意味で耳を滑って、馴染んでゆくから、マリオカートのBGMとかと合いそうだと思った。マリオカートやりたい。

湘南ギャル

 前回は、指が早く回ってすごいねみたいな最悪な感想になっちゃったけれど、今回でやっとジョン・コルトレーンの人間らしいところを見ることができた気がする。『Giant Steps』がプレイヤーとしてのジョン・コルトレーンを表していたとしたら、『A Love Supreme』はアーティスト、表現者としてのジョン・コルトレーンを強く打ち出したように感じる。
 また、ベース・ドラムを基礎に、ユニゾンでテーマ、各々がソロ、というベーシックなスタイルであった『Giant Steps』に比べると、次に何が起きるかわからない面白さや、楽器同士の絡み合いによるグルーヴが増しているように感じた。ジャズを、それもコルトレーンをこんなにノリノリで聴けるとは思わなかった。嬉しい発見!

しろみけさん

 プレーヤー同士の競演というより、バンド全体で“膜”を作ろうとしている。様々なリズムが並走しているが、これもこれで一つの統御であり、否が応でも巨視的なリスニングをするようになる。ソロパートであっても背後のリズムの方が気になってしまう。“スピリチュアル”という形容は、コルトレーン自身の思想的背景に依るものとばかり思っていたけども、この巨大物の存在を有無を言わせずに感じさせる説得力は、大仏や聳え立つ霊峰を見てしまった体験にも似ていて、確かに崇高さへの平伏を再現するものだ。

談合坂

 すっごいモダン。歴史のお勉強みたいな気持ちは一切感じなくて、リアルタイムに体験する類の高まりがある。理解しきれなくてもこれは聴いていてとにかく楽しい。どういうわけか私がこのアルバムの二曲目を初めて聞いたのはYouTubeに上げられているPhononというプロデューサーのDJセットだったけど、このアルバムを通して聴いていたらああいうベースミュージックの前にこれを持ってきたくなる気持ちも結構わかるかも、と思った。

 3人それぞれが別の部屋で同じリズムを聴きながら演奏しているのかと思った。それぞれ強い主張があるかと言われると無いのだけど、単独の演奏で完成してしまうようなぶれなさがある。この泰然自若とした演奏がたまたま交差点の真ん中ですれ違うように重なることでクラシックとしか言いようがないオーラをまとった合奏になっている。5周くらいしたのだけど、聴けば聴くほど言葉にするのが難しくなる。

みせざき

 複雑な構成のバッキング演奏もジョン・コルトレーンのメロウで宙を舞うようなサックスによって飲み込みやすい音楽となり、とても心地が良い。
 神からの啓示というようなスピリチュアルさを理解し切ることはできなかったが、その入り口に入り込ませてくれるような気がした。

六月

 前に出たJohn Coltraneのアルバム(『Giant Steps』)ではなぜこんな上手いジャズをする人がフリー・ジャズをやるようになったのか、ということを疑問として残したのだけれど、その答え合わせがこのアルバムなんだと思った。これをやったらもう他にやることはないだろうなというのが容易に想像できるくらいには、ここでの演奏はバチバチで、キワキワに極まっている。相変わらずコードやらの音楽理論的な知識に乏しいので、うまく説明できないのだけれど、各楽器が奏でる音に全く隙がなく、自由気ままに動きながらぶつかったりすることなく舞っている。何か美しい舞踏を見ているような、そんな気分になる。規律から離れた個々の自由を担保しつつ、それらが合わさり調和しているという美しさ。
 何十年も前に死んだコルトレーンが遺したサウンドには個人的には現代におけるジャズやそれに親和性を持った黒人ミュージシャンとのつながりを感じることができた。これが現代に出ても、その年の名盤ランキングを席巻するだろう。Robert GlasperやFlying Lotusたちが喉から手が出るほどにほしい音はここにあったのだな。

和田醉象

 これもあんまり得意じゃないな。アルバム通してドラムだけ聴いてしまった。ずっとソロだったらいいのに!3曲目がジャックスの「マリアンヌ」みたいだなと思っていたら、それとは違う方向に飛び出た凄まじいドラムソロだった。その後スムーズに他の楽器合流するの笑う。裏でドラム暴れっぱなしだし。短距離走みたい。

渡田

 この企画が始まって以来、ジャズを聴いているとしばしば落ちる、目の前で演奏されているかのような感覚が呼び起こされた。
 こういった感覚になっていたのもあって、曲の後半に突然呟くような歌詞が入ってきたことには驚いた。ひたすら〝A Love Supreme〟と何度も呟く様からには、予測不能の緊張感がある。呟くような歌声と象徴的な歌詞の繰返しによる緊張感という点では、後のポストパンクやインダストリアルロックとも似た雰囲気も感じた。

次回予告

次回は、Beach Boys『The Beach Boys Today!』を扱います。

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