見出し画像

Johnny Cash『At Folsom Prison』(1968)

アルバム情報

アーティスト: Johnny Cash
リリース日: 1968/5/6
レーベル: Columbia(US)
「『歴代最高のアルバム』500選(2020年版)」における順位は164位でした。

メンバーの感想

The End End

 なんとなくカントリーに対して直線的なグルーヴの音楽だというイメージを抱いていたけれど、よくよく聴くと16分でスネアを刻むセカセカした曲でも、細かく/小さく揺らいでいるな。細野の『泰安洋行』や『Flying Saucer 1947』以降の取り組みに触れた後だからそれを自然と理解できた。
 黒いジャケットで身を固めて出てきたこの声の持ち主が時々歌いながら漏らす笑い声、セクシーすぎて笑ってしまう。下手をすると、腰をクネクネさせる以上に、直感の深いところにアプローチしてくる作品なのかも。

コーメイ

 Johnny Cashの歌声を中心に、緩やかな曲もあり、打楽器を用いた曲もありというアルバムであった。のみならず、ライブ盤ということもあり、観客と歓声とMCとが、臨場感を出していた。そのため、アルバムの世界に入って行きやすいと思われた。

桜子

 慰問ライブの音源をそもそも初めて聴いたけれど、普段のライブと変わらない熱狂があるなと思いました。カントリーの感じにセクシーな声が合っていて、心地よさと情熱が同居していて、面白かった。

湘南ギャル

 まず、ジャケがめちゃくちゃかっこいい。自分が刑務所にいたとして、こんな額から汗流して、こんな本気のライブをしてくれる人を見ることができたら、背筋が伸びて仕方がないだろう。演者から聴衆、そして聴衆から演者へのリスペクトが、録音を聴いているだけの私たちにも伝わってくる。気持ちの良い空気だ。
 そして、豊かな低音がとてもセクシー!それがあってこそ、たまに出る掠れ声が映える。私もヒューって言いたい。

しろみけさん

 まず、コンセプトが素晴らしい。タイトルの通り、カリフォルニアにあるフォルサム刑務所で行われた慰問コンサートの、文字通り"実況盤"。日本の刑務所にも同様の制度はあるが、バックグラウンドが異なる米国の刑務所では、慰問の意味合いも変わってくるだろう。冒頭から「Folsom Prison Blues」、銃を放ってここに連れてこられた男の話だ。その後もLonesome、Lonesome、Lonesome……。渋い演奏にアガる囚人、こういう音楽の受容のされ方にはもっと光が当たるべきだろう。人が本当に救われているかもしれない瞬間なのだから。

談合坂

 ポピュラー音楽がポピュラー音楽として在ることのもつ強い力を感じさせてくれた気がする。歌声のことを指す表現で伸びる高音とはよく言われるけど、その表現を継ぐならジョニー・キャッシュの歌声は良く伸びる低音と言うべきか。なんというか、高音の伸びみたいに現世から飛び立とうとしやがる優美さとは違った、俗世間に根を張るような歌声に魅了される体験を示していることにこの音楽の意義なり有難みなりを見出してしまう。ひと節歌い上げた後に沸き上がるオーディエンスのどよめきがじんと沁みる。

 以前、日本とアメリカにおいてポピュラリティの差がかなり大きいアーティストの1人がジョニーキャッシュだと耳にしたことがある。たしかに、カントリーを土壌に喉の下の方を震わしながら体全体を増幅期にするような歌い方は決して馴染み深いものではない。でも、この企画で十数年間のポピュラーミュージックを駆け足に振り返ってきた私にこのプリミティブな響きこそ歴史の波に埋もれることのない魅力なのだと!

みせざき

 1曲目からブルースだ。しっかりしたブルースだがジョニー・キャッシュの色と声で表現されているのでオーラが普通のブルースシンガーとは違う。曲は歌謡曲のようなものからバラードまで、カントリーまで、実に沢山ある。会場の雰囲気も、獄中という普通でない環境もあるが、それより音がスタジオ録音でないかと思うほど綺麗なのに驚いてしまう。ある意味奇跡とも言える瞬間を捉えていると感じた。

六月

 お笑い芸人の中でのあるあるとして、刑務所の慰問としてネタをしに行くと、下ネタがよく受けるというのがあるらしい。あと女の人が出ると反応が良いそうです(このアルバムではジョニーキャッシュの嫁さんが出ていますね)。
 それはそれとして、この刑務所での慰問コンサートを録音したこのライヴ・アルバムも、そのまま暴動が起きてしまいそうなくらいに盛り上がっている。しかもCashが歌っている内容もコカインや殺人についてや死刑囚が死刑を受けるまでの歌とか、刑務所の囚人に向かって歌っていいの?ってくらい結構危ない(和訳を見るとある程度更生を促すものであるのは感じ取れるけれど)。カントリーという音楽ジャンルについて結構穏やかなイメージを抱いていたのだけれど、今のギャングスタ・ラップとかに近いものだったのだろうかと思ってしまうくらいに、猥雑さがともなっている。生きることにまつわる全て、文字通り全ては歌になりうる。アメリカという国の中で、黒人にとってのそれがブルースなら、白人にとってはカントリーがその役割を担っていたはずで、その中でもJohnny Cashは、アメリカの栄光や狂乱を体現し、光も闇も背負って(刑務所の囚人という暗部に追いやられた人々に対して歌うという行為がそれを証明している)それらを歌い続けた怪物的なミュージシャンのだと今回のアルバムを聴いて痛感した。このあともCashはアメリカの歌を歌い続け、イラク戦争が始まってまもない2003年9月に死んだ。

和田醉象

 ぶってぇ〜。
 怒り、讃え、全て飲み込む。刑務所で行われたライブの模様の実況録音らしいが、客の盛り上がりにJohnnyの歌が客らの気持ちの最大公約数として、太い嘆きを出力している感触をいだく。これだけ特殊な場でのライブでここまでまとめ上げて、高みに登っていく様を見るのは面白い。
 音楽そのものというよりもライブに対するレビューになっちゃった。

渡田

 この前の座談会で、レイ•チャールズのアルバムが"劇中歌みたいだ"と話題になったけど、自分にとっては今回のアルバムがそれだった。普段カントリーロックを聞かないのもあって、自分がぼんやりイメージしているカントリーとしての特徴が分かりやすく詰まっているように感じた。
 ディズニーランドの西部のエリアで流れている音楽。

次回予告

次回は、The Band『Music From Big Pink』を扱います。

#或る歴史或る耳
#音楽
#アルバムレビュー


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?