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小坂忠『ほうろう』(1975)

アルバム情報

アーティスト: 小坂忠
リリース日: 1975/1/25
レーベル: MUSHUROOM ⁄ 日本コロムビア(日本)
「50年の邦楽ベスト100」における順位は23位でした。

メンバーの感想

The End End

ボーカルのダブリングのアンニュイなカッコよさが存分に出ている。『黒船』あたりから新たなタームへの移行を予感させる作品が続いていた印象だったのだけど、このアルバムはそのムードをたたえつつ、円熟の凄みも同時に感じさせるような。地に足が着いているというか…コードの使い方はお洒落な感じなのに、気取っている感じがあまりしない。すごい。
「ふうらい坊」、細野ははっぴいえんど時代に作った時からこういう発声、こういう音域のボーカルを想像していたんだろうなあ。

桜子

 細野晴臣みたいな感じがするな〜と思って調べてみたら、細野晴臣もプロデューサーをやってるんですね!ずっしりと重めなグルーヴの曲があったり、軽やかでポップな曲、黒船の流れを汲んだようなプレイヤーが光る曲など、バラエティ豊かで楽しかったです。

湘南ギャル

 歌詞だけ読んでもリズムが生まれるだろうな、という曲がたまにある。はっぴいえんどや細野晴臣の曲にそういうものが多いと思っていたが、HOROにもその系譜を感じた。一曲目に出てくる、ボロボロボロ靴というフレーズが大好きだ。並のセンスだったら、変形させるにしてもボロ×4靴としてしまいそう。奇数回繰り返されるなんて、ボロさん側もびっくりしただろう。擬音を繰り返す回数まで考えて、グルーヴを追求している。それがストイックさなのか遊び心かはわからないけれど、大きな魅力を作り出してることに間違いはない。

しろみけさん

 愛らしい。「Yugata love」で“夕方”と“You Gotta”をかけた時、この人を好きにならない理由がないと、心の底からときめいた。バックの演奏が堂に入ってるためにいまいち解し辛いが、小坂の歌唱が所々砕けており、そのルーズなゆらめきが可笑しみだったりメランコリーだったりを許すポケットになっている。こうした効果も含め、キャラメル・ママの面々を含め、風通しのいいレコーディングだったことが容易に想像できる。

談合坂

 言葉の響きを音楽に落とし込むのがめちゃくちゃ上手いと思った。言葉の並べ方というよりも、語頭や語尾にかける処理を隅々まで味わうことができるような。楽器の音がくっきりとした輪郭を持っているので聴いているとかなりボーカルに集中させられるけど、歌詞が悪い意味で引っかかって集中が途切れてしまう、みたいなことがなくて技術の妙を感じる。
 「流星都市」とか普通に令和?って感じで聴いていて楽しかったです。

 日本語を歌にするときに言葉の意味ではなく音のまとまりを重視して区切ることは今ではスタンダードな手法の1つといえる。この例で一番初めに浮かぶのは宇多田ヒカルではなくてマキシマム ザ ホルモン(予讐復讐というアルバムの歌詞カードを読んでみて欲しい)なのだけど、小坂忠はその手法を驚くほど自然と取り入れている。M1「ほうろう」において「はきなれたこの/ボロボロボロ靴が」と靴を指す指事語である「この」を「はきなれた」にくっつけ、そして「ボロボロ」ではなく「ボロボロボロ」と「ボロ」を3回繰り返すことで小気味良いリズムを生み出す。この企画で始めの頃に聴いた日本語を用いた歌謡曲は日本語の響きを重視した結果メロディーに嵌まらず「語り」として言葉を処理していた傾向があったが、本作はメロディー/リズムのスムーズさに最大の重きを置いている。JB顔負けのファンクネスと日本語の語感の特殊さを載せた良い違和感に満ち溢れた曲が収録されていて、リズムと悲哀、すなわちR&Bの精神性を象徴する一作だ。

みせざき

 SlyのようなR&Bチックなバンドサウンドが全体的に聴いていて気持ち良かったです。一曲目の「ほうろう」が特にSlyっぽさを感じました。「ほうろう」、「機関車」の流れで聴くと、グルーヴィーな曲からはちみつぱいのような綺麗さを感じるバラードという変化ある展開においても、ボーカルの声色によってどちらの曲にも対応できる説得力を感じさせられるのが凄いなと思いました。全体的にアンサンブルの絡み合いが良いと思います。カッティングギターも凄く主張が強すぎることは無いが、ソロも含めてアンサンブルの中でのカッコよさが表現できてるなと思いました。スローバラードの曲でもしっとりとさせながらも決してダレることは無く、聴き通しやすさを凄く感じました。

和田はるくに

 聞いたことのある音色だと思えば、参加メンバーもこれまでの視聴で聴いた面々。ニューミュージックな味わいである。
 ここまで聞いてきたアルバムにここまでソウルフルな感触のものはなかったし、それに日本語がハマっている感触がすることに作品の歴史的意義を感じる。(よく考えたら松本隆も参加してるもんな)
しらけちまうぜ〜

渡田

 早川義夫と同じく、悲しい歌詞を飄々と歌っている。その歌い方のせいか素直な歌詞ながら垢抜けた曲に思えた。
 歌詞だけ見てみると、哀愁を含んだ言葉を印象的なフレーズと共に書き上げていて、忌野清志郎にも似た雰囲気を感じた。
 でも奇想天外な清志郎とは違って、小坂忠は落ち着いた歌声と丁寧な演奏を聴かせてくれる。
演者自身が曲に込められた哀愁の主体となるのではなく、あくまで歌詞と聴き手とを繋ぐ媒体としての役割を追求しているように感じた。

次回予告

次回は、鈴木茂『BAND WAGON』を扱います。

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