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Howlin' Wolf『Moanin' in the Moonlight』(1959)

アルバム情報

アーティスト: Howlin' Wolf
リリース日: 1959年(月日不明)
レーベル: Chess(US)
「『歴代最高のアルバム』500選(2020年版)」における順位は477位でした。

メンバーの感想

The End End

 これがブルーズ……!やるせねえ〜!!
 私程度の英語のスキルでは正直歌詞の意味なんてパッとはわからないけれど、やるせない、うだつの上がらない日々をあっけらかんとした語り口で愚痴っているに違いない。そういうサウンドが本当に出ている。エモーションに押し付けがましさがなくて素晴らしい。
 あとジャケットがめっちゃシュッとしててめっちゃカッコいい!なんていうか、端的だ。

コーメイ

 ザラザラかつ不思議なギター音とヤスリで擦っている声色が、特筆すべきものであろう。前者は、How Many More Yearsに登場した。漫画のフォントならば、太字かつ割れたもので表現されそうな印象である。これが、嫌味ではなく、癖になるものであった。後者は、誰かに刺激物を喉に流し込まれて、「さあ、歌え」と促されている声かと、はじめはそう思った。が、聴いていくうちに、ただのガラガラ声ではなく、耳に爪痕を残すものだと思い始める。中盤以降、慣れてくるのと並行して、伸びるところで伸びていたので、幅の広い歌声だと、思い直す。これらの摩擦音でもって、最後まで聴き遂せた。そのようなアルバムであった。

桜子

 ループするコード進行やリズムパターンに起伏がない感じ(それがノれる感じになれば大好きなのだけど)が苦手で、ずっとブルースに苦手意識があったけど、今回聴いても退屈に感じた。退屈を楽しめる余裕もなく、まだ私には早かったです。私が好きそうなブルースあったら教えてください。

俊介

 自分が今まで感動してきた音楽のエッセンスが詰め込まれててうれしい。耳は聴いたことないって言ってるけど、心は以前から顔見知りだったって顔してる。音も演奏も歌い方もすごく忙しないんだけど、身体がいちばんリラックスしてる。安心暖炉。安心音楽。

湘南ギャル

 いままで扱ってきた作品の中で、一番距離が近いように感じる。これまでに出てきた音楽には、どこか歴史や権威というものを意識させるものがあり、世界史の教科書を読んでいるような気持ちになることがあった。でも、Howlin' Wolfの飾らなくて気取らない音楽は現代に存在していても違和感がない。Howlin' Wolfと同じマインドで音楽を作っている人間は、今も絶対この世に存在する。彼らだって、現代に生まれてもきっと同じことをしてくれるだろうとも思う。ジャケも古臭いどころか、超かわいいし。

しろみけさん

 オープニングのうめき声で一旦座り直した。この声でMoanin′されてるだけで《あ、何か喋られます?えぇどうぞどうぞ、気の済むまで……。》って会話の主導権を渡しちゃう。バンドがハウリン・ウルフの呼気に合わせて音の伸縮を操縦しているのが伺える録音だ。例えばZAZEN BOYSにも同種のテンションを感じることがある。しかしこちらは冷凍都市というより、もっと温い風の吹く、茶色い木目の扉に守られたバーの蒸しあがったアルコールの匂いが薫ってくるようだ。

談合坂

 つかみがこんなに’つかみ’なことあるんですね……こうやって始まる映画があったらそれだけで好きになってしまうかも。全体を通して音質に統一感がないのもなんだか愛おしい。鉄橋を渡る列車みたいな音のドラムが好きです。
 詩ではなくてスピーチとして出来上がっていて、話し相手に向けたジェスチャーが自然と出てくるよう。

 ピアノと管楽器が細かい譜割りで演奏している様を後ろでどっしりと支えるドラミングが素晴らしい。箱物だろうか?ギターの音色の泥臭さの中に洗練されたものがあって聴きやすい。勝手な印象だが、「昔の音楽」として思い出す音楽のど真ん中に近い。「me」と「you」という「君と僕」を歌った歌詞がほとんどを占めていて、人間って変わらないんだなと思いました。

みせざき

 ロバート・プラントがライブでもごもごしながらハーモニカ吹いてるのはこれが影響元なのだ、と改めて気づいた。
 ギターも声も特に好みでは無かったが、とても存在感があり、聴き手を鷲掴みする力があると思った。きっとブルースに限らず後のロック・ポップシーンに大きな影響力があったのだろうと優に想像ついた。

六月

 紀元前年前に生きていたらしい哲学者のプラトンの、その思想の凄さを讃える言葉に、「全ての哲学は、プラトンの膨大な註釈に過ぎない」というのがあって、つまりそれほど最初から全部を言ってしまったということなのだが、このアルバムを聴いている時もそう感じた。つまり、「全てのロックはこのアルバムのリミックスに過ぎない」ということだ。そう言っても差し支えないということだ。
 ローファイってこの頃からあったんだ!ってくらい荒々して騒々しいバンド演奏が胸を更にドキドキと揺らして、そこらへんにあった灰皿でも鳴らしてんのかってくらいガチャガチャしたリズムが耳を劈く。僕が最初にロックを聞いてぶっ飛ばされたときの光と熱が、少しだけ荒廃した僕の身体と精神の中に舞い戻った気がした。「いつでもどんな時でも スイッチを入れろよ そん時は必ずおまえ 十四才にしてやるぜ」って少しいばって言ったレコード・プレイヤーに乗っていたレコードはこのアルバムだったんだな。最初にしてこれくらい感動するアルバムにこれから出会えるかなと思えるくらい感動しました。

和田醉象

 ここまで聞いてきたもので録音技術の向上に感動していたのに、急なローファイ!……と思ったら割ときれいな音の曲もある。何なんだ。
 本当に、人に聞かせるために、奮い立たせるために歌っていると感じる。歌詞を見ても本当に大したこと言ってないし、すべてが生活にまつわることばかり。言葉を刷り込ませるようになんども繰り返して言う。
 歌っている悩みにあまり大したことがないものもあるが、実際にはままならなくて、歌わなくて歌っている、という燃え滾る情念みたいなものも言葉から感じた。

渡田

 昔のブルースの印象そのままのボーカル。喉から無理やり押し出したような、重々しくて嗄れていて、それでいて伸びのいい声が堪能できた。
こうした声は、まるで昔のラジオから聞こえるような音にも思える。
 ドラムをはじめ、曲の背景の淡々としたリズムが、重々しい歌声を支えている感じがする。

次回予告

次回は、John Coltrane『Giant Steps』を扱います。

#或る歴史或る耳
#音楽
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