見出し画像

ピチカート・ファイヴ『カップルズ』(1987)

アルバム情報

アーティスト: ピチカート・ファイヴ
リリース日: 1987/4/1
レーベル: CBS/SONY(日本)
「50年の邦楽ベスト100」における順位は60位でした。

メンバーの感想

The End End

 もっともっとあざとい感じかと思ってたけど、想像より随分腰の入ったというか、落ち着いたサウンドだなという印象。『BAND WAGON』や『SONGS』の時に“なんとなく流れていってしまって感想が浮かばない”と言ったメンバーがいたけど、個人的にそれに近いかも。
 コンプが過剰じゃない、柔らかい音像が、この企画で聴いてきた近い時期の作品とは違った景色を想像させるけど、でも、やっぱり、うーん…実情だけじゃなく、志向するところも、私は“リア充”じゃないんだろうな、と思わざるを得ない。私のために鳴ってくれる日がくる気がしていない。

桜子

 渋谷系が1つの音楽性を指す言葉では無いと分かっているからこそ、これが渋谷系にカテゴライズされるアーティストだと思うとビックリしつつも、妙に納得してしまう。
 気取っていて心持ちに余裕を感じる詩とサウンド。経済的にも若者に色々余裕があったのかな?
90年代大学生をやっていた親のアニエスベーの洗濯物が頭にチラつきます。

俊介

 野宮真貴や田島貴男がメインボーカルを務めていた頃のピチカートファイブしか知らなかったので、彼らとはまた別ベクトルの優しさが詰まった「カップルズ」にドキドキした。
 勿論、エンジニアや小西康陽、プロデューサーとして参加してる細野晴臣にもリファレンスがあったんだろうけど、とにかくミックスが面白くて、すごい推進力がある曲調に対して、深めのリバーブがかかってるから、物凄くドリーミン。
Wikiによると、アルバムジャケット撮影の際、いくつかの候補の紙焼きの中から一番ピントがボヤけてるのを選んだらしい。
 良い意味でありきたりな渋谷系サウンドに不釣り合いなぼやけたリバーブの音像、捨象的にカップルを表現したジャケットにぼやけたピント、所謂な感じで一筋縄にいかないのがこの作品の不思議な魅力。

湘南ギャル

 ジャンルを輸入して独自のものに昇華させ、そのことが評価されるという流れは、日本音楽史の中で度々見られる。これがなぜ評価されているかを考える時、重要なのはジャンルの輸入そのものでなく、輸入したものをどう噛み砕き、どう構築し直したのか、というところにあると思う。例えば、英語と発話方法が全く違う日本語で、どうロックをロックたらしめるかを追究した結果、そこにオリジナリティが生まれた。この企画で扱っているMM誌のランキングでも、日本語ロックを作り上げた(諸説あり)はっぴいえんどが高く評価されている。
 前置きが長くなったけど、カップルズというアルバムはかなり純度の高いボサノヴァに思えた。ボサノヴァをただ日本語にして替え歌しているようだった。ポルトガル語も日本語と同じく、一文字を一音にはめがちだから、当然の結果と言えば当然の結果ではある。だけど、これ聴くなら本家本元のボサノヴァ聴けばいいじゃんねという思いを拭えなかった。

しろみけさん

 到底買えない家具屋のカタログ。もしくは、住む予定のない代々木上原の2LDKについてSUUMOで調べている時間。そういうのが好きだ。現在の生活に激しい不満があるわけじゃない。ただ妙に落ち着く。プレイングが最適化されているゲーム実況を見ている時の気持ちに近い。ピチカート・ファイブの、もう笑っちゃうくらいの消費者マインドは、そういう自分の趣味にフィットする。こういう軽薄さは好物なのに、なぜプラスチックスは…

談合坂

 時代の進みを感じる。アキシブ系を好んできた人なので耳馴染みのあるアプローチばかりだったのだけど、つまりはそんなにも‘型’を成り立たせる、そして型で成り立たせることができるのだなと。
 こんなに地に足をつけている(ついている、ではなく)のもこれまでにはなかったように思う。一周回った後という感じ。

 音響派???ボサノバ???AOR???あるいはスイートなシティポップ???どれにも内包されている心地よさをカジュアルに、あるいは軽薄に取り入れることで知らないのに知っている音楽を作り出している。とはいえ高揚感はあまりなく、「凪」のトーンで統一されている点に強く惹かれる。

みせざき

 アルバムカバーも含めてそうなんですが、87年発のJ popの作品には思えなかったです。全体としてのサウンドに少しオルタナティブな雰囲気を感じました。多分歌謡要素にジャズやボサノバ、ソウルの要素、ピアノやストリングスなどの強めのフィーチャーにミクスチャー性を感じたからだと思います。ソングライティングや声には歌謡曲的雰囲気を感じることが多かったが、そこにサウンド、音像を含めた魅力を付随させたという部分が本作にエバーグリーンな魅力が生まれた理由なのではないか、と感じました。

和田はるくに

 なんちゅーか本中華、流れ変わったなって感じ。

渡田

 歌詞も音もまろやかで、どの曲も違いははっきりあるけれど、それでいてどの曲も抽象的な印象を与えてくる。
 メロディにはユニークなフレーズもあるのだけれど、何度も繰り返されるせいで、聴いているうちにそれが本当に良いものなのか分からなくなってくる。
 ゲームのコンセプトアートを見る時みたいな曖昧な印象。

次回予告

次回は、ボ・ガンボス『BO & GUMBO』を扱います。

#或る歴史或る耳
#音楽
#アルバムレビュー
#ピチカート・ファイヴ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?