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荒井由実『MISSLIM』(1974)

アルバム情報

アーティスト: 荒井由実
リリース日: 1974/10/5
レーベル: Express/東芝EMI(日本)
「50年の邦楽ベスト100」における順位は26位でした。

メンバーの感想

The End End

 以前レビューした「ひこうき雲」に感じた少し鼻につくあざとさのようなものがかなり薄れていて、個人的にはこちらの方が楽しく聴けた。
 「ひこうき雲」の時に書きそびれたことだが、やっぱり少し間抜けに聴こえるところがユーミンの歌唱の魅力だな…と思う。時折顔を覗かせる不穏なコードとあわせて、漂白され過ぎていない手触りが非常に良いし、同時に近寄りがたくもあるような。“学年一位でリレー選手で生徒会長で、ちょっと抜けてるところも含めて完璧なアイツ”みたいな悔しさを感じるアルバムだった。
 「旅立つ秋」がレディオヘッドのそういう曲みたいな音像で好きでした。

桜子

 ユーミンの経験を歌にしたアルバムなのかなあと思います。
 小さい頃の神様を歌っていたり、海をみていた午後に出てくるレストランドルフィンはそのままの名前で実在しますし、山手という街の名前が出てくる事で感じるリアリティーがあります。恋については健気でありながら寂しい雰囲気を纏った物が多くて切ないです。

俊介

 レーダーチャートにしてみたとして、どこにも落窪んだところがない優等生的なイメージ。個人的に、荒削りで、ラフさとちょけた雰囲気がある音楽が好きなので、このアルバムは、ほかのユーミンの作品に比べても陰が薄い、改めて聞いても。 シュガーベイブ、キャラメルママら当時のシーンの最先端に立つ敏腕たちが参加してる時点で、否応がなしに由緒正しき傑作になってしまう。すごい贅沢なことが言える時代に生きてる。

湘南ギャル

 前のレビューでひこうき雲を聴いてから、なぜ我々はユーミンの歌に親しみをおぼえやすいのだろう、とずっと考えている。初めて聴いた曲でも子どもの頃から聴いていたかのような気持ちになる。お風呂上がりにつける化粧水くらい、身体にすっと入っていく。まだ真相の解明には至っていないが、今回思ったことはあまりに歌詞の聞き取りやすいということ。それでいて、元気すぎたり押し付けがましかったりしない。ハキハキしてないのに言葉が聞き取りやすい歌い方って、案外、多くの人がやっていることではないのかもしれない。まあこんな簡単に分かることではないだろうから、これからも定期的に聴く。

しろみけさん

 スノッブを引き受ける。自分の親の、その少し上の世代が、しきりにユーミンの話をしたがる。それは単にセールスが莫大だったからだと思っていたが、それだけではなく、「私だけのフランソワーズ」や「魔法の鏡」といった半分ファンタジーのようなフランスらしさが醸すスノッブな感覚が衝撃だったのだろうと、ようやく気づいた。その点、ユーミンが八王子出身であることは、ちょっと出来すぎなくらい合点がいく。郊外を経由しなければ構築できない、カリカチュアされたエッフェル塔のような存在。

談合坂

 各々のサウンドは何というか「平ら」だけど、声とかメロディとかだけじゃない「ユーミンっぽさ」が私の中に確立されていることを思い知らされるので凄いな…と思う。
深くかかったリバーブの成分が隙間に行き渡るのを山腹で吸う早朝の空気みたいに取り入れながら聴いていました。『ひこうき雲』でも言った気がしますが、素朴な贅沢という感じです。

 彼女の曲には、アーバンなスタイリッシュさと郊外のいなたさが共存している。幼いようにも老練したようにも聞こえる声質は、これからの生活にワクワクしているようにも、終わりかけの人生を淋しく慎ましく閉めるようとする静かな意思を有しているようにも聞こえる。1番聞いてて面白いなと感じたのが「あなただけのもの」で、パーカッションもリズム隊も跳ねに跳ねているのにずっと少し暗いトーンが曲を支配していて、絶妙すぎるバランスに唸る。

毎句八屯

 意識的には聞いていなかったが、親の影響で大分耳馴染みのある作品。
 まず心掴まれるのは一曲目。動きがありつつもキャッチーなリフ、フルートを中心に風を感じられる展開、また戻っていく風向き。この曲を題材にしたコンテンポラリーダンスを見たいと感じるくらい自然体で聞いていられる。
 アルバムを一通り聞いたあと、「優しさに包まれたなら」のシングルとアルバム版を聴き比べた際、絶対にアルバム版だろう‼︎と思うほど、アルバムver.の良さに侵されていた。他の曲も延長線上に同じ空気感を持っていると感じて、作品の統一感を再確認した。
 しかし、「延長線上」と言ったように、アルバムが進んでいくに連れ、序盤軽やかさを帯びていた曲調は緩やかに重みを持っていくように感じた。「旅立つ秋」はあるラジオ番組の終了に際し作られたものということもあり、人生の最後のような求めずとも迫る「死」を連想してしまった。


みせざき

 全体的に知ってる曲は「ひこうき雲」よりも多かったです。「ひこうき雲」よりも少し大人になったような、落ち着いたユーミンの雰囲気を感じれたかな、と思いました。「海をみていた午後」での特にサビに入る部分のコード感覚など、独特な感覚でのしっとり感が味わえたかなと思います。「あなただけのもの」などでのファンキーチューンがあったりと、多彩性も感じました。あと、演奏もすごくシンプルな編成なのに、簡素だったり物足りない印象を感じさせないような作品全体としての魔力も感じれた気がしました。これこそ名盤なのでしょう。

和田はるくに

 知っている感じがすごい。ただ、今回耳を通してその「知っている」の解像度が上がっていくものだから面白い。
 あとランキングに入っていないので今のところその本流を聞く予定はないみたいだが、GS全盛期を彷彿とさせるようなスピリングリバーブの効いたリズムギターに時代の匂いを感じる。

渡田

 当時の荒井由実は二十歳だけど、才能ある若者と呼ぶのもおこがましいくらい洗練されたものを聴かされてる気がする。
 「ひこうき雲」での個性が、もう誰も真似しきれない無二のものに完成していると思った。
 もし仮に自分が彼女と同じ年に生まれて、当時このアルバムを聴いたらどんな複雑な気分になるのだろうか、きっと酷いことになると思う。想像するだけで鳥肌が立つ。

次回予告

次回は、四人囃子『一触即発』を扱います。

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#アルバムレビュー
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