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サニーデイ・サービス『東京』(1996)

アルバム情報

アーティスト: サニーデイ・サービス
リリース日: 1996/2/21
レーベル: RHYME(日本)
「50年の邦楽ベスト100」における順位は38位でした。

メンバーの感想

The End End

 2023年の視点ではっぴいえんどを見るとこの作品がなんだか懐古主義的に響いてしまいそうで、1971年生まれの曽我部恵一がはっぴいえんどなどをリファレンスにすることが、99年生まれの自分に置き換えるとどういうことか考えてみた。例えばその置き換えの対象はナンバーガール、くるり、スーパーカーたち97世代あたりになるんじゃないだろうか。そう考えるとそれはまだ”歴史”になり終わっていないただ魅力的な音楽で、同時にそれらに影響を受けた"その後"の景色も見えている音楽であったはずだと思う。
 最後まで聴くと一切捨て曲無し、端から端まで良い曲で埋め尽くされた作品なのだけど、この密度でこの曲数だと体力が持っていかれるなあ、とも感じた。こってりした肴で香り高い日本酒を飲んでいるような、落ち着く場所のない感覚があった。でも、そんな余裕のない作りのアルバムを一生懸命作り上げた25歳の若者ってこれ以上なく愛おしいですよね。近年の円熟っぷりを知っていればなおのこと。

桜子

 バンドって最高!歌を歌うことって、最高。
 アイコンタクトしているのが目に浮かぶような、息を揃えて盛り上がる楽器隊に、高揚するメロディ、伝わる空気感に気持ちが昂る。それに抗えない。自分達のささやかな生活に寄り添い、それを昇華してくれる音楽。
 ずっと大好きなアルバムです。

俊介

 そういえば、このアルバムが目指した東京像を自分はこの目で見たことがない。
 まだサニーデイがサブスクで解禁されるより前に、初期の作品をまとめて近所のTSUTAYAで借りてきいたとき、この「東京」だけはピンと来なかった。
 「サニーデイ・サービス」だったり「MUGEN」は、なにかしら人生のセンシティブな時期に、抜けないように返しをつけたままぐっさり差し込んできて、聴く度に否が応でもその瞬間の匂いとか日差しの角度まで思い出させてくれる。それに対して「東京」は返しがついてないせいで割とスルッと抜けてっちゃう。      
 このアルバムの小気味よくて、ホロホロして、滑らかで暖かい感じを、東京を生活圏にする中で殆ど享受したことないからか。
 はやく東京で生活してるうちにこの作品大好きになれたらなとおもう。

湘南ギャル

 東京。親しみを持つには遠すぎて、憧れを持つには近すぎる。自分にとって、東京という文字が地名以上の意味を持つことはない。これはきっと、東京まで一時間くらいの半端な場所で生まれ育ってしまった故だろう。このアルバムになんとなく夢中になれないのは、自らの生まれの仕業か。この作品で描かれている情景は、誰かにとっては素敵な思い出に根ざした共感を呼び起こすのであろう。そして他の誰かにとっては、まだ見ぬ世界への憧れを持って受け入れられるのだろう。私はそのどちらにもなれず、ただただ取り残される。人が最も距離を感じるのは、未知でも既知でもない存在なのかもしれない。

しろみけさん

 このアルバムについて色々調べてたら「70年代フォークと比較されるアルバム」って…70年代フォーク、私この企画で聞いてきましたよ!? マジかよ、これが当事者性ってヤツ!?
 というわけで、図らずもリバイバルを追体験することになった『東京』。実際聴き比べてみると、ペダル・スティールをはじめとしたアレンジは確かに共通してるけど、ガレージロックなりAORなりの当時なかった音楽の要素が包含されていて、ちゃんと「リバイバル」の意味がある作品になってる。70年代フォークのアルバムというより、80年代以降のポップスを聴いてきた70年代フォークのグループが手元にある楽器で演奏している感じ。
 あと、これに関しては企画倒れになりそうだからちょっと言いづらいけど、リマスター凄すぎ。時代感が一気に掴めなくなるというか、特に低音部がめちゃくちゃファット。事前情報も何もなくこのバージョンの『東京』と出会っても、2023年に発売されたアルバムとして何の疑いもなく聞いちゃう。

談合坂

 正直なところ、アルバムタイトルの’東京’というのは聴いていてもピンとこなかった。物心ついた頃から21世紀で、生まれてこのかた東京の外れでしか生活したことのない人間だから東京観を語る材料には乏しいのだけど、この音楽はもう少し地理的な広さと普遍性を持っているように感じた。
 なんなら時代に関してもこんなサウンドの割にそこまで’背負っている’感じがなくて、この身軽さが魅力なんだと思った。

 成人式の後に「東京」を聞いたことがありますか?めちゃくちゃ楽しかったわけでも劇的な何かがあったわけでも無く、ただ時間が少し経ったんだなと納得しただけの成人式の後にサニーデイ・サービスの「東京」を聞くと、この作品が青春みたいなキラキラした時間の真っ最中ではなく、それに対して(実際にあったかどうかは関係なく)思いを馳せる時間のことを歌っていると分かった。だから録音も全体的にリバーブがかかって形がはっきりしないし、オルガンの響きがアルバムを通して現実から少し距離を取ったような雰囲気を作っている。「いろんなことに夢中になったり飽きたり」で歌われる「答えがないのなら/ないでいいんだ」みたいなさっぱりさは今と変わらずさっぱりしていていて曽我部恵一らしくて好きです。でも私は10年代中盤以降のサニーデイ・サービスの方が好きで、それはもっとさっぱりした/すっきりした様子で演奏し曲を作っているから。

みせざき

 美しいハーモニー、ベースを始めとした確固なバンドサウンドがはっぴいえんどへの一つのアンサーとして提示されている気がしました。
 作品全体としては明瞭さがあり、起承転結がハッキリしており、始まるべくして始まり、終わるべくして終わるという爽やかさが感じられます。マラカスや笛、アコギの音色などの装飾が東京という街の春日和を綺麗に表現してくれています。

和田醉象

 昔の雑誌を見たときの、色褪せた、白くなった昔の家族写真を見ているような、「ああ自分の母親にも若い時代があったんだな」とか思うような感覚にさせられる、『無い懐かしさ』を感じさせられる。
 懐かしさが体を抜けていく。

渡田

 地声に近い歌声とフォーク調の穏やかな印象の中に、様々な音楽ジャンルからの影響を思わせる細かなフレーズが取り入れられていることがうかがえた。こういった点ははっぴいえんどとも似ていると思う。聴いていると、自然と余裕ある都会の町並みが思い浮かぶメロディもはっぴいえんどと同様だった。
 一方で、歌い方には僅かに相違点を感じた。はっぴいえんどでは、ロックに向いていないと言われた日本語によるロックの実践ゆえか、慎重な声の出し方を感じたが、サニーデイサービスは声の出し方に遠慮がなく、気取った印象もちゃんとあった。
 アルバムを通しで聴いていると、どの曲も雰囲気は似ていて一貫性を感じたが、同時に次の曲に入る度に変化するものも確かに感じた。それは、それぞれの曲で印象を彩るちょっとしたフレーズのアレンジや音作りが曲ごとに様々で、水面下で曲の印象に影響を及ぼしていたからだと思う。

次回予告

次回は、ソウル・フラワー・ユニオン『エレクトロ・アジール・バップ』を扱います。

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#アルバムレビュー
#サニーデイ・サービス


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