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Dusty Springfield『Dusty in Memphis』(1969)

アルバム情報

アーティスト: Dusty Springfield
リリース日: 1969/1/18
レーベル: Atlantic(US)
「『歴代最高のアルバム』500選(2020年版)」における順位は83位でした。

メンバーの感想

The End End

 "in Memphis"なのに、アトランティックからのリリースなのにイギリス人なのか、この人。タイトルもロクに見ずに再生した一発目の印象が"あ、またアメリカの風だ"だったのだけど、調べてみたらレコーディングも、作曲陣も大概アメリカらしい。じゃあアメリカの風で適切だ。
 でも、レイ・チャールズの時に聴いたようなアメリカン・ポップスのムードはありつつ、"巧みに作り上げられたハッピーな箱庭"みたいな空気は感じないあたりに、UKの出自が表れているのかしら……?ちょっと雑に括りすぎかな。ただ、アメリカの風なのに湿っているところが、この作品の面白いところだと思う。

コーメイ

粘着質な声色だけれども、なかなか聴くのを止めようとは思わないアルバムであった。バックの演奏が、ボーカルを阻害しない程のものであったけれども、味付けはしっかりするといった具合で、歌手を邪魔していなかった。これらの均衡が取れていたため、聴く分には、悪くないアルバムであった。

桜子

 輪郭がぼやけているような、霧のかかったような音像・ボーカルがナチュラルな美しさを纏っていると感じた。
 曲順もアップダウンを感じさせる流れがあって、「Don't Forget About Me」のタイミングとか、すごくワクワクしましたー!

しろみけさん

 これまで聞いた作品の中でも、突き抜けて演奏のバックバンド感が強い。ソロもなければ意匠も最小限、その上ボーカルがこもり気味の録音になっているので演奏との距離が感じられる。よりひっそりとした作品というか、ミニマムではないんだけどこじんまりとしていて、その後のベッドルーム・ポップ(というか、この前出たクレイロのアルバム!)にも続けて聞けそう。秘境のポップスらしさがありながら、秘境にはギリ留めておけない。

談合坂

 ほどよいパッケージング。どの曲にも同じエンドロールの映像を流していい具合に沁みることができそう。それは皮肉とかではなく、かましてやろうという身構えなしに飽きのこないアレンジと技術で仕上げるシンプルなうまさがあっていいということ。海の向こうの古い音楽という雑なイメージに行き着きはするけど、むしろそれは虚構的なものとしてすんなりと聴けた。

身の上話で恐縮なのですが、この企画を帰りの満員電車の中で書いている。おそらく、ポストハードコアみたいな音楽か、でっかい音のインダストリアルテクノとか、そういう類の音楽しかリスニング環境的に合わない。だからこのアルバムの1曲目を再生した時点で"いや〜合わねーな"となりそうなもんだったが、凄い素直にスルッと聴けた。意外とテンポが早いのだ。ポップスの憂いもありつつ、主婦とかOLさんのテキパキとした仕事捌きに近い軽さがある。

みせざき

 ただのソウルではなくてジャズのような流暢さがバックに感じられ、流れるように美しさを堪能できる。初聴で聴いても何度も聴いているかのような既視感に自然と引きずり込まれるような印象を受ける。とても良いアルバムだと思った。

六月

 流石にBeatlesも経て、こういうど真ん中のボーカルで引っ張っていくタイプの音楽を出されても、どう聴いていいのか分からないというのが最初聴いた時の気持ちだった。いや、時代遅れと言いたいわけではなく、それらの時代を経過した、楽曲も歌声も素晴らしいものになっているとは思う(後半ちょっとボサノヴァっぽい曲があったりとかして面白かった)のだけれど、その質の高さとは別に、白人がアメリカに奴隷として拉致された黒人たちの子孫が、アメリカの文化と混血して作られたR&Bを真似ている、その何重にもかさなった倒錯した状態(その倒錯の果てにあるのが2024年のCindy Leeの『Diamond Jubilee』だと思うけれど)に興味を持ってしまう。Rolling Stonesを筆頭に、ロックン・ロールやサブ・カルチャーというものの猥雑さは、さまざま種の乱交とそれに伴う混血、という状況から生まれてくるものであって、良識的な人々のそれの文化に対する反発もその乱雑さが自分の生命にまで及ぶことの危機感や不安によるものであると思われる(もっとも、細分化の果てにそのそれぞれにファンダムという秘密結社にも似た閉鎖した空間を作り、不寛容を貫いているカルチャーが蔓延している現在では、このようなサブ・カルチャー、この交配という状態は生まれ得ないのだろうが)。話をこのアルバムに戻そう。この作品もその交配から生まれたものであり、そういう意味では、ロックンロールというものがなければ生まれ得なかったのかもしれない。決して時代遅れの産物なのではなく、むしろこの60年代末という時代を見事に映し出した作品だと思った。

和田醉象

 やりたいことをやりきっているような昂りを感じた。曲一つ一つの粒立ちが素晴らしく、声で命が吹き込まれて世界観が立ち上がってくるさまが美しい。ふいごで炎をたなびかせているような赤い躍動、職人の汗かいて血管滲む肌の感覚がある。
 あと、曲の進行がお手本みたいな綺麗さだ。自分でも曲を作ることがあるから結構参考にしたくなる瞬間が多い。「Son of a Preacher Man」みたいなベースを弾けるようになりたい。

渡田

 くどくないイントロと歌い出しが日本の歌謡曲を思わせる。
 ジャンルとしては、ソウル・R&Bに含まれそうだけど、良い意味で感情が淡白だった。歌詞のフレーズも区切りが短く、此方がかしこまってしまうような転調もない。あくまで上品に作り手の内面が表れている。

次回予告

次回は、Flying Burrito Brothers『The Gilded Palace of Sin』を扱います。

#或る歴史或る耳
#音楽
#アルバムレビュー


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