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Beach Boys『Wild Honey』(1967)

アルバム情報

アーティスト: Beach Boys
リリース日: 1967/12/11
レーベル: Capitol(US)
「『歴代最高のアルバム』500選(2020年版)」における順位は410位でした。

メンバーの感想

The End End

 なんとなくだけど、ビーチボーイズにはガナって欲しくなかったな……。なんか、説明が難しいのだけど、そこの型は破らないのが美しかったじゃん!!みたいな。それだけの差なんだけど、ため息をつくような魔法ってそういう部分の差に宿るじゃないですか。
 とはいえ『The Beach Boys Today!』にも見られた少し軽薄なムードと『Pet Sounds』的な音像とが混ざり合っていて、充分に楽しく聴くことができた。『Pet Sounds』に入りきれない人のための助走に良いかも?ベースがずーっと重たくて太いのもフェチでした♡

コーメイ

「Mama Says」の簡潔な歌唱が、一番印象に残った。コーラスが絶品なのは周知の事実であるけれども、緩急の付いたテンポと何重にも成るコーラス層が、わずか1分程の長さに収まっていた。バックの演奏が付いているのも良い。しかし、この声だけでどこまで勝負出来るかという点が気になっていたため、この曲を聴いていて、"すごいな"と唸った。

桜子

 私はサーカス団のピエロがすごく怖いのだけど、なんだかそんな感じがする。楽しそうなのに、狂気や怖さが同居しているのが、印象的。ピロピロのオルガンと底に広がる、音の響きが、対照的ですごく怖い。それらが良いシナジーを作ってるかというと、それもまた違う気がする。けど、大好き。マジで。
 幽霊とか、魂とか、あまり信じないけれど、このアルバムからは、そういった類のパワーを感じる。それを充分に感じていたいから、ながら聴きとかあまりしたくない。

湘南ギャル

 ビーチ・ボーイズ?!ってなったけど、これはこれで好きだ。めちゃくちゃエナジーが湧いてくる。Wiki読んだら、ノイローゼになったブライアン・ウィルソンに代わってカール・ウィルソンが主導権をとって完成させた作品らしい。私は、これの一個前の『Smiley Smile』がビーチ・ボーイズ作品の中で一番好きだけど、あの作風が一生続けられるものではないこともわかる。主要メンバーがやられても、別の違う方向に舵を切ることができる人がいるという状態は、バンドとしてなんと健康なんだろうと思う。そして、その違う方向にも魅力が詰まっているなんて、本当に素晴らしい。

しろみけさん

 『Pet Sounds』が掴もうとするたびに霧散してしまう夢だとするならば、『Wild Honey』はその夢が輪郭を獲得したかのようだ。というより、ブライアン・ウィルソンにはおいそれと話しかけられない、孤高のムードが漂っているとばかり思っていた。だから、マイク・ラブの存在があったとはいえ、彼がサウンドの軸を踊れるポップスに変更するなんて。こういうのが好きなら良いンだけど……。

談合坂

 急に近くに寄ってきた。聴き手と音源の距離も近いし、メンバーたちも狭い部屋の中に集まっている。前はもっと開けた場所で、たくさんの空気を伴って届いてきていたように思う。電気的なノイズって屋外では聞こえていたとしてもあまり気にならないけど、狭い部屋のなかで鳴っているとどうやっても意識が向いてしまう。でも、空気の性質が違うだけでなんとなく滞留する感覚は以前と共通しているような気もする。

「Here Comes The Night」、「Let The Window Blow」あたりの曲で顕著だけど、ピアノという楽器が曲の低音部のメインを担っている時の響き方って不思議だ。海や大地といった存在の広さと荘厳さと恐ろしさが同時に存在しているような感覚に襲われる。そしてその遥か上空で重なり合いながら揺蕩い続けるコーラスの神聖さよ。11曲24分だと短いから45分くらいの尺で聴きたい。

みせざき

 一聴で分かりやすいタイプではなくて、硬い印象を持つ鍵盤の音色の印象が強くてサウンドの全体像を掴むのが難しく感じた。でもサウンドはウォール・オブ・サウンドの潮流を引き継いでおり、確固たる壁を巡らせていると感じる。
 ただブライアン・ウィルソンの歌のメロディーが聴きやすく、聴けば聴くほどその味が強調されていく印象を感じた。

六月

 恥ずかしながら『Pet Sounds』と、『Smile』付近の音源以降はあまり聴いたことがなかったので、聴いてみたけれど。『Pet Sounds』の次の一手となり、出されていたら確実に文字通り世界を変えたであろう作品になるはずだった失われた傑作『Smile』プロジェクトの頓挫以降、精神的不調が続くブライアン・ウィルソンが一応ほぼ全曲の作曲を担当しているが、見るからにメロディを作った途端の勢いで進めている、『Pet Sounds』や『Smile』のような周到さとは真反対の、やけっぱち感すら感じる正味2分の曲が続いて、この当時のブライアンの心理状況を知りながら聴いているのもあるかもしれないが、無理矢理にテンション上げていることによる痛々しい明るさが充満していて、なかなかにホラーだ。もはや初期のさわやかな頃からあまりにも遠い処へきてしまったんだな……となかなかに複雑な思いを抱えてしまって、その思いを拭い去ってシンプルに楽しいポップ・ソングとして聴くことは難しかった。それでもどの曲もシンプルに良い曲で、だからこそほぼ何もできないでいてもこういうグッドメロディを作れてしまうところにブライアン・ウィルソンの空恐ろしいところがあるなと思う。

和田醉象

 すごい力抜けてる。『Pet Sounds』みたいな作り込まれた音像を期待してたけどそれに比べるとかなり緩めな感じ。『Beach Boys Today』よりも力抜けてる。確か『Smiley Smile』が出たあとだから、本人等的にもかなり意図的に方向を変えたんだろうか。
 曲自体どれも素晴らしいと思うけど以前の作品ほど心打たないのは彼らに対してハードルが高くなっているからか。

渡田

 『Pet Sounds』の時と同じ神聖な雰囲気はあるけれど、オルガンのソロや笛の音などからは綺麗さだけでない怪しさ、異教な印象を感じる。
 ほとんど宗教的な静謐さに、独特の楽器まで混ざったサウンドからは、少し置いて行かれる感じもあった。『Pet Sounds』の時にギリギリ感じられた彼らの天国が、もう自分には捉えきれないものになっている感じ。

次回予告

次回は、The Who『The Who Sell Out』を扱います。

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