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サディスティック・ミカ・バンド『黒船』(1974)

アルバム情報

アーティスト: サディスティック・ミカ・バンド
リリース日: 1974/11/5
レーベル: Doughnut Records/東芝EMI(日本)
「50年の邦楽ベスト100」における順位は10位でした。

メンバーの感想

The End End

 メロウで刺激的でカリビアンでアフリカンでアメリカンでブリティッシュで和風で壮大でかつこじんまりとしていて、この黒船はずいぶんと多様性に富んだものらしい…というか、これは“黒船がやってくる”作品ではなく、“黒船に乗って世界中に行く”作品なのかもしれない。漠然とした言い方だけど、これは驚く側ではなく、驚かせる側の音だと思う。
 好きか?と聞かれると全力では首を縦に振れないのだけど、それでもこれが偉大で凄まじい、どんな時でも称賛されるべきアルバムであることはわかる。有無を言わさぬ威厳があった。

桜子

 目立つエレピやクラビの音に、激しいギター、テクニカルなプレイ。
フュージョンの香りを運んできたアルバム。
 音色に渋みを感じつつも、歌いたくなるようなポップな曲もあり、その幅の広さがとても好きです。
 プレイヤーが楽しそうなアルバムはやっぱりカッコいいです。

俊介

 自分の中でいちばん演奏力があるのはサディスティック・ミカ・バンドか四人囃子。 はっぴいえんどを聴いてても感じるが、西洋の楽器や、西洋音楽の中に、日本の土着的な音をみつけるアンテナが優れたアーティストが当時はすごくおおい。エバーグリーンな魅力を持つアーティストたちは、模倣する力はもとより、どう舵をきってくかみたいな未来を展望する力がつよいなと思う。

湘南ギャル

 それぞれの楽器が違うことをしている。どの楽器も面白味のあるフレーズを奏でている。この2つの特徴を併せ持つとき、その曲は、そしてその曲たちが集まったアルバムは、統一された空気をまとうことは可能だろうか。そんな難しいことできるわけないだろ!と言いたくなるが、この黒船というアルバム、それを成し遂げてしまっている。ころころと表情を変えるチャーミングな人間を見ているかのようだった。そのせいかアルバムを聴いたというより、映画を一本観たような気持ちになる。とびきりキャッチーなあの曲は、もちろんこの映画の主題歌なんだろう。

しろみけさん

 特級のまな板。中盤の3日間の「黒船」を聞けば、そのセッションが技巧に満ちていながら、ユーモアの存在をさらりと許容するような懐の深さを持ち合わせてることに気づいた。朧げなその印象は、続く「よろしくどうぞ」〜「どんたく」で確信に変わる。「タイムマシンをおねがい」も「颱風歌」も、シリアスも茶目っ気も、このまな板の上に乗せて仕舞えば不味くなりようがない。そう感じた。

談合坂

 ここまで聴いてきたなかでいちばん「アルバム」だ…と感じた。そして「タイムマシンにおねがい」がこんな面白い流れの中に収められている曲であるのを知ってかなり驚いた。おちゃらけておきながらめちゃくちゃにかっこいい、最近のインターネット音楽にも通じるユーモア。
 「どんたく」が非常に刺さりました。

 高橋幸宏氏のニュースを受けてから初めて全編を通して聞いた。木村カエラがボーカルを務めたバージョンの「タイムマシンにおねがい」の動画を見かけたことはあったが、ここまでコンセプチュアルな作品だとは。黒船は欧米のロック/ポップミュージックの隠喩で、その要素が日本を侵食していることへの倒錯したワクワクを表現している作品だろう。「墨絵の世界へ」で音楽絵巻の幕開けを告げ、「何かが海をやってくるでは」高橋幸宏の正確無比ながら「人(にん)」が見えるドラムパターンが火を吹く。このバンドのプレイアビリティが炸裂したのが中盤3曲の「黒船」と題されたインスト楽曲で、和製ファンクの一つの到達点では。トーキングヘッズ顔負けのアフロビートを取り入れたかのように聞こえる「塀までひとっとび」などこのアルバム自体が日本のバンドサウンドのあり方を刷新する「黒船」なのだろう。
こっから先は読まなくて良いのだけど、私は「タイムマシーンにおねがい」を生で聞いたことがある。「乃木坂スター誕生」という番組があって、乃木坂46が往年のポップソングをカバーするのだけど、その中で池田瑛紗さんというメンバーが本曲をカバーしていて、横浜ぴあアリーナは沸き立っていた。楽曲の底にある狂気のようなものを表現していた、と振り返ると思う。

毎句八屯

 程よい塩梅の緊張と緩和。そしてぶっ飛び感。いずれにも全振りしていない。それでいい。夢を見ているような1曲目の浮遊感からクレッシェンドに展開していく2曲目。そこから突き抜けたような「タイムマシンにおねがい」。最高に気持ちのいい展開。急なヘビーさではなく少し子供のようなあどけなさもある。しかし、インテリジェンスも持ち合わせていないと、ここまで海外でも通用する和洋折衷なアルバムは作れないだろう。数々の名盤に携わったプロデューサーであるクリス・トーマスの力が大きいにしても、オルガンとギターソロ、ファンキーさの土壌にあるベードラ、息ぴったりなコーラスワークもエキゾチックに自然なノリを生み出している。はっぴいえんどをはじめ同時代で洋楽に影響されるもヘビーすぎないファンキーチューンを生み出す競合他社はいたものの、空間的なオリエンタリズムとファンキーさを共存させたのはこのバンドだけなのではないか。

みせざき

 浮遊感のあるサウンドスケープや詞の乗せ方も含めてすごくいいと思いました。1曲目から2曲目への、スローテンポのゆったりとした始まりから一気に疾走していく感じが、ピンクフロイドの『狂気』の流れを彷彿させる気がしました。ギターもそれこそデヴィッド・ギルモアみたいでかっこいいと思いました。「どんたく」のイントロでのワウ、もしくはフィルターのようなサウンドは弾き方が分からないほどの斬新さを感じました。フレーズが全体的に独特でかなり耳に残りやすかったです。「よろしくどうぞ」でのお祭りの雰囲気など、邦楽アルバムならではの雰囲気作りを試みているなと感じました。

和田はるくに

 日本じゃねえと生まれねぇ音楽だよなあと、他のアルバムよりも親しみを勝手に感じている。地味に日本初のコンセプトアルバムなんじゃないかと思う。
 「墨絵の国へ」のイントロにフィードバックギターが入っているのは歴史的な意義がある気がする。音響として用いているこの時代の作品を他に聞いたことがない。(あったらすまん)
 弊ユニット【鯨どんたく】の引用元もすばりこのアルバムからだ。今聞くと「どんたく」って四人囃子のゴールデンピクニックに入っていそうな先進性がある。
 ボーカルのミカにあまり出番がないのも笑える。

渡田

 垢抜けたアルバム。聴いているだけでちょっと自慢気になってしまう。
 少し不思議なのは、アルバム評を額面通り書いてみようとすると、実際に自分が受けた印象とのズレが起きること。
 多様なジャンルを取り入れていて音楽としては複雑なのだけど、鹿爪らしくない。むしろ印象としてはユーモアさの方をずっと強く感じる。
湿気た歌詞も音も少ないのに、アンダーグラウンドな雰囲気が強い。
 それぞれの楽器が楽しく鳴り響いているはずなのに、緊張感を同時に覚える。
 こういった全ての齟齬が、サブカルチャーとしての面白さに繋がっているように思う。
 「一見享楽的なのだけれど、それでいて一筋縄じゃない所、含蓄の深い所が伺える」点が、いかにも都会的な文化の象徴のようで、そういうものを楽しめる時、誰だってちょっと優越感を感じるものだと思う。

次回予告

次回は、荒井由実『MISSLIM』を扱います。

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#アルバムレビュー
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