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Leonard Cohen『Songs of Love and Hate』(1970)

アルバム情報

アーティスト:Leonard Cohen
リリース日:1970/3/19
レーベル:Columbia
「『歴代最高のアルバム』500選(2020年版)」における順位は195位でした。

メンバーの感想

The End End

 鬱屈とした響きだと思った。アコギの鳴り方も、ホーンやストリングスも、どことなくジメジメしていて、投げやりな気分になる。パキッと鳴らすための処理を敢えてしていないことと、滲むようなくぐもったリバーブのせいかしら。
 なんだかずっと居心地が悪いというか、小気味良いリズムの曲でもなんとも言えない違和感がある……私の中のマルコが"「異形」なんだよい!!"と繰り返し叫んでいてうるさい。確かに暗くて変な音楽は好きなのだが、流石にここまでやれとは言っていない!仕事帰りや、夜の部屋の中で聴いていたら気が滅入ってきてしまったので、私はこのへんで……

コーメイ

 ダウナーな雰囲気がそこかしこに感じられるアルバムであった。まず、声色自体が、しわがれており、高い音階を出すならば響くと思われたけれども、今回のアルバムではそれが、確認されず、何とか自分の思いの丈を声にしている印象を受けた。つぎに、抒情的なギター、とくに、「Avalanche」の演奏において、声質に相まって特徴的な音を出していた。これらと途中で入る子どものバックコーラスが、不気味さをさらに演出しており、"話でも聞こうか?"と尋ねる人が少なからずいるような様子を出していたと思われる。

桜子

 悲哀に満ちてるような、どこかズンとした雰囲気があるから「Diamonds In the Mine」の明るさなんて、星野源の底にある暗さとか、そういうものを思い出した。寂しそうだけど、声の低い部分の震えとか暖かく感じて好きだ。血が通ってる事が分かる。

しろみけさん

 本当にこの一曲目で合ってます? 「Avalanche」の爪と弦が寒々しい音をあげて擦れるアルペジオで背筋が伸びたのは良いものの、そこからはラブの側面へとドンドンにじり寄っていき、気付けば彼の包容力の虜になっている。メジャーコードを弾いていても暗く聞こえる人とマイナーコードを弾いていても明るく聞こえる人の二タイプがいたとして、レオナルド・コーエンは意外と後者のような気がしている。だからこそ、一曲目怖すぎるて。

談合坂

 これまでの若さ、という括りが正しいかどうかわからないけど、少なくとも歳を重ねることによる沈静を殊更に見せるような音楽がなかなか登場していなかったなかで、明確に大人の線引きの先に立っているような印象を受ける。今でも音楽の世界でやれこの若さでこれを成し遂げた、みたいなことばかりが持て囃されるなかで、その時間に乗らずにものを作る人はとっても魅力的に見える。懐かしさではなしにいつかまた聴きに来たいと思えるのって素敵。

フィービーブリチャーズまで連なる"インディーフォーク"と呼ばれるうたの出発点を垣間見た気がする。空間の音たっぷりな録音と、感情の上下をなんとか静かに収めようとしながら溢れてしまうような情緒の豊かさ。英語話者だったら良かったのに、とも思うし、英語話者じゃないからこそ色んな聴き方がが出来てもいるのだろう。

みせざき

 周りが騒々しい場所の中で聴いていたが、もっと静粛な場所で聴く音楽だと思った。フォークという括りでいっても、レナード・コーエンという人物像が直接反映されており、レナード・コーエン自身が直接自身のパーソナリティを出す為に必要な手段として作っている音楽に感じる。フォークとは、実は凄く自由で開かれた可能性を持った音楽であると感じた。

六月

 ここだけの話、東京に来て初めてできた友だちの1人で、いまでもすごく尊敬している、僕にとって特別な人がLeonard Cohenを好きだったので、彼の歌を耳にすると、どうしてもその人のことについて考えてしまう。このアルバムに入ってる曲ではないが、Apple Musicでその人が口にした「レナードコーエン」と検索したら出てきた「Suzzane」という曲を初めて聴いた時、特段簡単な英語で歌われているわけでもないのに、リスニング能力もない自分でも風景が頭の中に浮かんできて、洋楽でそんな体験をしたことがないから驚いた記憶がある。正直、単なる歌詞を超えた言葉が歌われている、音楽というものの凄みをそこで再確認したのだった。
 1曲目の「Avalanche」から、恐ろしいくらいの孤独や悲しみが自分の耳に入り込んでくる。続く2曲目なんて後半流れてくる子どもたちの声がホラーに聞こえてくるくらいだ。
 あと「音が引き伸ばされ、鳴り続けている」ような感覚が、作品全体にあるのも印象的だ。別にドローン的な演奏技法が使われてるわけでもなく、単なるフォーク・ソングにすぎないのに。孤独がどこまでも続くように流れ続けるので、ちょっと精神状態によってはその子に引き摺り込まれそうになるので、思わずプレーヤーの停止を押した瞬間も何度かあった。けれどそれは、円形の塩化ビニールに刻まれているように心に傷が刻まれるということである。そういう快楽や気持ちよさではない形で、音楽が人を変える原理をこのアルバムを聴くとわかったような気がする。

和田醉象

 1音目からうっそぉ!という声が出る。スパニッシュな始まりかと思いきや、思い切り横道にそれで男の独白のような弾き語りが始まる。英語圏に染まりきらないギターフレーズや拍の取り方が素敵。
 と聞き進めてたら……3曲目、ボブ・ディランじゃねえか!歌い方もなんかコミックソングじみてきたり、曲のごとの色がすごい。
 基本一人のソロフォーク、という感じなんだけどバリエーションがあって、飽きないのがすごい。あまりわざわざ曲を変えようという気にならない楽しさがある。少し話が転じるけど、今自分のソロプロジェクトをやっていて、その中でアイデアが枯渇して曲が作れない!という気持ちに陥ることがあるんだけど、基本ギター1本でここまで魅せてくれるのがなんだか勇気になった。またギターを手に取ろうかな。

渡田

 繰り返しのフレーズに、抑揚の低い歌い方と、印象だけ言えば耳に残りそうもない音楽なのだけど、不思議と虜になる。
 ボブ・ディランを聴いた時のような自分のすぐ近くで歌ってくれているような錯覚と、イギー・ポップのような真に迫る不気味さがあった。
 こうした静かな雰囲気の音楽は、メロディを楽しもうとするより演劇を観るつもりで聴いた方がいいのかもしれない。物語の1シーンとして情景を考えながら聴くのが楽しかった。

次回予告

次回は、Miles Davis『Bitches Brew』を扱います。

#或る歴史或る耳
#音楽
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