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Bob Dylan『Bringing It All Back Home』(1965)

アルバム情報

アーティスト: Bob Dylan
リリース日: 1965/3/22
レーベル: Columbia(US)
「『歴代最高のアルバム』500選(2020年版)」における順位は181位でした。

メンバーの感想

The End End

 リトル・リチャードやプレスリーやらビートルズに触発されてこういう形をとったことは容易に想像ができるけれど、リズムはなんだかカチカチだ。かなり2:1の比率に近いハッキリしたスウィングで、常に一定の跳ね方をしている。
 でもそれが歌の、ディランのリズム感を引き立てている。歌詞の譜割り、言葉の詰め込み方がすごくスマートでカッコいい!

コーメイ

 まず、本アルバムを聴いて、楽曲に言葉を詰め込む歌唱スタイルが、印象的であった。音を贅沢に使うという意図ではなく、自分の表現したい内容―それが、逆に隠れ蓑となっていても―を音の限度まで盛り込む姿勢が散見されたからである。歌詞カードを見てみると、夢の中での荒唐無稽な出来事、寓話、依頼など、さまざまな世界が展開されていた。これらを辿る作業に途中から興味が湧いてくる。その結果、辞書を引き引きでも、聴こうと思わせた。今後の彼のアルバムでも詩に寄り添うことになるであろう。
 つぎに、前半のロック調だけれども、Bob Dylanの前景化した音が、今までの聴いてきた企画のリストに収録されているアルバムで確認されなかった点が、勉強になった。とくに、「Subterranean Homesick Blues」におけるChuck Berryの音楽を借りながらも、Bob Dylanの存在感が感じられる1曲となっている。このオマージュのうまさが発見であった。

桜子

 言葉が短く詰まっている曲は、そのフローが気持ち良くて、ラップの音楽を聴いている時に感じる良さに近いものを感じられて、面白いなぁと思いました。余裕がありそうだから感じる自由さ、規則の読めなさを醸し出せるところとかもそうだと感じました。

湘南ギャル

 前回扱った『The Freewheelin’ Bob Dylan』では終始張り詰めた緊張感が漂っていたが、今作はかなりご機嫌。これからの季節に合いそうな陽気さがある。
 しかし日本のフォークは歌詞に惹かれることが多かったけど、なんせ自分はモノリンガルだからな〜。十分には旨味を味わえていない感じがします。

しろみけさん

 "言いたいことがあればそれが歌詞じゃ"と言わんばかりに、リリックに合わせてフラフラ動くメロディーのようなフローのような歌。前作でもそれは発揮されていたが、バンドをバッグにつけた今作の方がより一層傍若無人な振る舞いを堪能できる。発声も一段とくぐもっている。決して張り上げず、小さい声のまま連ねる詩の深さに沁み浸る。

談合坂

 広いステージとかスタジオみたいな音楽空間というよりは、住宅の中にいるような感じがする。スタイルはロックに通じているかもしれないけど、場としては少し違ったところにあるみたいな印象。それでも、家も街中も公演も、等しく社会であることは変わっていないと安心させてくれるバランスのよさがある気がする。

 中盤「Bob dylan's 115th Dream」ではボブ・ディラン本人の笑い声が収録されていることからも、どこかラフな印象を受ける。メロディーも作り込まれておらず、"語り"が長い時間を占める。このラフさに聞き覚えがあるな......と思い考えてみるとラップミュージックっぽい質感だ。だからなんだ、というわけではないが、即効性のある音楽は身近に置きたくなる。

みせざき

 バンドサウンドの中でもボブ・ディランのエッジのある声の音抜けが良く、ボーカリストとしてのボブ・ディランの声の存在感に改めて感心した。
 当時恐らくボブ・ディランが多大に影響を受けたチャック・ベリー等のロックを自分のフィルターを通して表現している様がとてもカッコ良い。
 素直に吐き捨てるようなセリフだが、良く詩を見ると単純そうに見えて何か示唆的であり、エレキへの移行に伴ってボブ・ディラン自身も新たな領域へ踏み込んでいることが分かる。

六月

 アルバム一枚一枚丁寧にランクインしていたビートルズに比べて、一気にすっ飛ばしすぎだろと思ってしまうが、調べてみたらリリースされたのは『The Freewheelin' Bob Dylan』からは2年後ぐらい(その間に2枚弾き語りスタイルでのアルバムを出している)みたいで、エレキ化したのがすごくセンセーショナルだったみたいにロック史を学ぶ上で覚えていたのだけれど、実際の時間としてはそんなものなのかと拍子抜けした。
 でも、"裏切り者!"とライブでやじられるくらいにはやっぱりそのサウンド自体は大きく変わっている。やっぱり一曲目の「Subterranean Homesick Blues」や、「Maggie's Farm」では、メロディーへ喋りに近い歌を乗せるやり方は変わっていないのだけれど、圧倒的にエレキ楽器が組み合わさってることでガチャガチャして、うるさい。こういう粗野な感じは大好物なので、楽しく聞けた。

和田醉象

 『The Freewheelin' Bob Dylan』と比べると他の楽器もちゃんと入っててバンド然してる。ただ、この形態での演奏としては仕上がりきってないように感じる。
 なので改めて、Bob Dylanのソングライティングの部分に目を向けると、意外だったのがコードの数。ギター1本で聞かせることを想定した曲だからなのか、ギターで作った曲だからなのか、コードの数が多く、ロックンロール的というよりもやはりフォーク的だ。「Gates Of Eden」だとか、実際コピーして練習したら楽しそうな曲も多い。ここが他のバンド音楽と違う肌触りにつながっていると感じた。

渡田

 以前レビューした『The Freewheelin' Bob Dylan』とは全く違う楽器の音がしているのに、受けた印象はそれとよく似ている。前作のレビューで、"小学生とか中学生の時の、自分と同い年なのに、自分より賢くて、少し大人な友達と二人で帰っている時、彼のふとした言葉を聞いた時の感じと似ている"と書いたけれど、それはまた今回も同じだった。
 歌詞は、前作の呟くような詩から、今回は突き放したような内容に変わったけれど、最低限のあっさりした内容でこちらの感情を呼び起こしてくるという点では変わらなかった。
 このアルバムを聴いていると、音楽のジャンルというものが実はそんなに重要でない気がしてくる。もちろん場合にもよるのだろうけれど、ジャンルが違えど、遣り手のアティチュードが同じなら、根本的な印象というのはそんなに変わらないのかもしれない。

次回予告

次回は、Byrds『Mr. Tambourine Man』を扱います。

#或る歴史或る耳
#音楽
#アルバムレビュー


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