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Charles Mingus 『Mingus Ah Um』(1959)

アルバム情報

アーティスト: Charles Mingus
リリース日: 1959/8
レーベル: Columbia(US)
「『歴代最高のアルバム』500選(2020年版)」における順位は380位でした。

メンバーの感想

The End End

 これ、大好きかもしれない……ギリギリのところでやり過ぎてないのが良い。アレンジにも演奏にも録音にも、洗練と型破りをちょうど両立したようなムードがあって、色んな気分で聴くことができる作品だと思う。
 ミンガスといえばレディオヘッド『Kid A』『Amnesiac』の大きなリファレンスのひとつ、と聞きながらも聴くきっかけを逃してきたけれど、ようやく聴いてみるとドラムの音作りとか、乾いたホーンのロングトーンが重なり合う瞬間とか、確かに自分程度でも納得のいく瞬間がいくつか見つかって楽しかった。

コーメイ

 「Better Get It in Your Soul」で、唸った。怪しい進行であるけれども、なぜか曲を止めたくない。ただ怖いのではなく、緊張感が漲っていた。それが、そわそわではなく、わくわくしながら歩を進める感覚を体感した。この流れのまま、アルバムの最後まで聴き遂せた。そのようなアルバムであった。

桜子

 これ好きだー!初っ端からうるさくて過剰で、熱烈歓迎してくれて楽しい嬉しい!ジャズ聴いているのにJ-POP聴いてる時と近い気持ちになった!ワクワクする!適当に聴いていても、構成というものがあるのを理解できるくらい、曲の緩急がある曲もあって聴いていて飽きないし!ジャズ苦手な人でも聴きやすそう。

俊介

 あんなに怖い夢をみた筈なのに、いざ友達にその内容を話しても上手く理解されないあのときとおなじ。
 跳ねて、緩急をつけて、偶に裏路地に入ったりして逃げてく、ずっと逃げてく。分かりそうになったら分からなくなって、分からないと思ったら一瞬分かる。ずっとなにかから逃げてる。その根源がレース的宿命からの逃避なのか、西洋音階からの逃避なのかも分からない。「ah um」なんて首を傾げるのは俺の方だ。
 結局なにもわからないまま俺らに残されたあとにのこるのは、文化祭の片付け日を挟んだ通常授業の日の廊下。茹だるような熱を孕んだ狂騒は一瞬で通り過ぎて、気付いたらいつもの景色に戻ってる。モードジャズがもたらす余熱もある種その類にはいる。

湘南ギャル

 聴いてるだけであまりにも楽しい。脳が破裂しそう。次に何が起きるのか、想像できないままズンズン進んでいく。バラバラな要素がそれぞれ飛び回っていて、好き勝手離れたりくっついたり増えたり減ったりしている。そんなことしたら混沌としそうなのに、同じグルーヴを共有していてまとまりを忘れない。サンプリングを多様したパッチワーク的作品(J DillaとかAvalanchesとか)が私は大好きなんだけど、彼らの始祖を垣間見たような気がした。今後も長い付き合いになりそうなアルバムに、こんな序盤から出会えて嬉しい。無人島に持って行きたいアルバム。

しろみけさん

 テーマがあってソロがあって……っていう定型を崩してるわけじゃないのに、その見せ方に拘っているのが見える。アレンジがポップというか、例えば「Fables of Faubus」では忍び寄るようにホーンが集まってきて、それから急にトロンボーンだけが残って、今度は主と副のフレーズが逆転する。「Boogie Stop Shuffle」の印象的なフレーズも、常に鳴らされてはいるんだけどユニゾンの抜き差しで幅を作ったりしてる。単純にホーンの数が多いのもあるけど、手を替え品を替え要素が組み変わるから全く飽きない。リスナー目線が明確にあるように感じた。

P.S.
 Spotifyでこのアルバムを聞いてたんだけど、「Pedal Point Blues」以降はボーナストラックらしい!てか、オリジナルはもっと短いんだけど、再発された時に(例によって)テオ・マセロが編集して10分弱長くなってるらしいよ!お得感あって嬉しいけど!

談合坂

 あらかじめ用意されたリックを組み立てるのでは成り立たないであろうライブ感が魅力的。具体的にどういう内容がというのを理解する域に私は至っていないけど、こういう関係で会話が発生しているんだなというのはしっかりと読み取れて、素敵だなと思える。「Boogie Stop Shuffle」の緊張感が特に好きです。

 Radioheadが「Amnesiac」を製作した際に参考にしたのがチャールズミンガスだといくつかの書籍に書いてあったし、例えば90年代のポストロックはTortoise「TNT」を筆頭にこの作品に近いジャズの手つきを感じることからもすんなり「Mingus Ah Um」にハマれるかと思ったが、どうしても聞き流してしまう。ただ、その中でとっ散らかりそうな演奏を強引に「聞き流すことも可能」な段階まで持っていく手つき自体に惚れ惚れする。

みせざき

 「Goodbye Pork Pie Hat」を超えるメロディーはないのでは無いかと、つくづく思ってしまう。ここまで心の奥底にまで浸透して、琴線に触れる曲のことを本当の名曲と言うのだろう。もう大好き過ぎる。23年という年は自分の中で永久に失ってしまったいくつかの物事があった。そうした物事をふとした形でフラッシュバックさせ、ノスタルジーさを感じ取らせてくれる、そんな思いを起こさせてくれた。(個人的な話ですみません)そのくらい大好きな曲だ。
 他の曲を聴くことはあんま無かったが、グルーヴィーな曲から自然に聴き入ってしまうようなメロディーまで、全てが詰まっていて、正に非の打ち所がない作品であると思った。ジャズの偉人は本当に知能が高い。頭が上がらない。これからももっと影響を受けていきたい。

六月

 ジャズ、幅広すぎないすか?マイルスや、このあと出てくるコールマンやコルトレーンとも全然音楽性が違う(しかも綺麗に演奏する楽器が違うのも面白い)。聴く前はどれも同じだろ、と失礼ながら思っていたが、聴くアーティストによってこんなにも違うものなのかと気付かされた。まあジャズに限らずロックにしろテクノにしろ、どの音楽もそんなもんか。
 個人的にはこの企画を機に聞いたジャズのアルバムのなかでは断然好み。なんというか文学でもなんでも、革新的なものを生み出す人間には二種類あって、ジャンルという枠組みの中を暴れ回って壊す意図的な人と、もう一つは、最初からその枠の外にいつの間にか立ってる天然な人。僕は後者の方が断然好きだ。天然という特性はチャーミングでありながら、底知れない狂気がそこに混じっている。この音楽もキャッチーかつ多種多様なメロディがたくさんの楽器によって鳴らされてて親しみがあるが、その音はとてつもない人智を超えたものが潜んでいるような気もする。なんかすごい気難しい人って噂で聞いたことあるけど、きっと会ったら気のいいおっちゃんでもあるんじゃないか、チャールズ・ミンガス。
 なんかジャズのことがもっと好きになるアルバムだったよ。ありがとう、チャールズ・ミンガス。

和田醉象

 マイルスと打って変わって楽器が多い。あと曲のパートごとに誰が主役なのか、明確に分けていて、結構面白い。 管楽器なのに信じられないくらい間持たせるフレーズとかあって、心配にもなるが、何かに食らいつこうとしている真剣さをすごく感じる。打って変わって他の楽器がずっと冷静なのも奇妙で面白い。
 イヤホンで聞くとパートが露骨に右と左で分かれていて少し気持ち悪かった。スピーカーで聞くとちょうどいいかも。

渡田

 捉えやすいリズムがあって、盛り上がりがあって、ジャズをあまり聴かない自分でも聴きやすかった。
 何度も聴くほど、特徴や個性が捉えられて面白くなる音楽だった。
 遠くで小さく響くシャウトや、細やかなアレンジなど、一回聴いただけでは感覚でしか捉えられない小気味よさが、回数を通すことで把握できるようになってくる。例えば、ピアノや管楽器が元のリズムに倣っているかと思いきや、気付かぬうちにアレンジされていて、聴けば聴くほどそういった部分に気づき、この音楽の楽しさの正体が分かっていく。
 また、ある楽器が無軌道になったかと思えば、他のパートがすぐさまそこに合わせていき、また落ち着いたジャズに戻っていくシーンを何度か感じた。セッションの中で楽器が暴走する楽しさを見せつつ、しっかり元の音楽に帰り、秩序が保たれている感じがする。
 ムードミュージックとして流すのもいいけれど、のめり込んで聴くほどに面白い音楽だとも思う。

次回予告

次回は、Ornette Coleman『The Shape of Jazz to Come』を扱います。

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