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BUDDHA BRAND『人間発電所~プロローグ』(1996)

アルバム情報

アーティスト: BUDDHA BRAND
リリース日: 1996/5/22
レーベル: Cutting Edge(日本)
「50年の邦楽ベスト100」における順位は73位でした。

メンバーの感想

The End End

 まずサウンドに対する感想から。
 ローが気合の入った太さで、嬉しい。タイムストレッチしたギターのデジタルな揺らぎも遂に登場してくれて、嬉しい。デジタルディレイに恐らくリバーブなどの”馴染ませる”手間が加わっていなくて、声がそのまま複製されたような伸び方をしていて、嬉しい。
 いとうせいこうやスチャダラパーと比較する以外に近い時期のラップミュージックの手札が無いのだが、はっぴいえんどとサザンの違いみたいな。こちらは、より”言い方”で響きを作っているような感じがする。それに通じる感想だけど、フロウで聴かせるラップだな、とも。韻はそれほど厳格じゃなく、(とても数は少ないが)私の知っている日本語ラップたちに通底するムードが出てきたな、と感じた。
 ずっとアティチュードと自分の凄さの話ばっかりしてるのも、コレだー!という感じ。全体的に、嬉しい。

桜子

 正直グループ名とアルバムのジャケットを聞いた事も見た事もなかった。
歴史をしれて良かった。
 低音がモコモコしてて好きです。そんなにHi-Fiではないトラックから、”成り上がり”感を感じてリアルでかっこいいと思った。今までこの企画で聴いた音楽は”上流階級”を感じるものが多かったのもあって嬉しい。

俊介

 その日1日、”天下一 iller”になりたいときがちょこちょこあった大学1、2年の頃は、大学最寄で気合いれがてら人間発電所を再生するのが常だった。
 そのダークな音像と、穏やか目な朝〜昼の明大前の相性がすこしばかり良くないことに気づいてからは、5、6限後の授業後、近くの友達の家だったり、ワン缶のために大学傍の公園まで向かう道すがら流し聴きして、遅めの無差別 sound boy killerになったこともしばしば。
 日が暮れた後のアスファルトからの余熱を払い除けながら、クジラ公園に向かうあの時期、1番明大前で”イル”だったのは多分俺だった。隣駅である下高井戸、永福町、東松原にまで範囲を拡げたとしても自信は揺るがない(代田橋を含めるとちょっと怪しい)。
 いつの間にか3年になってしまい、御茶ノ水というDEV LARGEもCQもNIPPSも付け入る隙がないような面白味のないクリーンなキャンバスに更迭されてしまい少しの間Buddha brandと縁のない生活を送っていたが、改めて聴いても最高。ネタ使いとか、アルバムとか曲録のそもそもの構成とか、収録曲を二重でサンプリングしたりっていう遊びの感覚とか。
 閑話休題、このサウンドスケープの独特さは、音響特性の異なる素材同士を組み合わせた時に生まれる、サンプリング由来のものだと思うのだけれど、budda brandの面白いところはリリックまでサンプリング的というか、コラージュ的というか、カットアップの手法を用いたと言われても頷けるほどの文章の脈絡のなさ。もしかしたら即興でバース蹴ったんじゃないかしらと思わせるほどの。
 でも、その脈絡のなさに反して、その世界観と色と匂いはものすごいリアリティを伴って現前してくるから新鮮に驚く。
 なにを言いたいのかわからないけど、なにを伝えたいのかはわかる。っていうかなり絶妙なバランスを感じる粒ぞろいのトラックばかり。
 全然専門ではないけれど、単体ではそれほどの意味をなさない文章達が、その連関を通して一つの大きなテーマを形成していくこの表現方法は文学的な見地からみてもかなり価値のあるものな気がしてならない。そもそもそれがカットアップか(*^。^*)

湘南ギャル

 この企画が始まってからずっと足りなかったもの、それはフレーズのループと、そこから生まれるグルーヴ。ミュージックマガジンとローリングストーンのランキングと比べると、前者はループを基調とした音楽の割合が圧倒的に少ないように思う。じゃがたらの感想の際、「彼らがグルーヴを作ってるのではなく、彼らは自然界に元々存在するグルーヴを乗りこなしている」と私は書いた。ブッタブランドのグルーヴ観は、それとは対照的に思える。彼らは確実に、グルーヴを生み出している。それも、多少遊びを入れたり、突っ走ったり、のんびりしていても付いてくるような、強固なグルーヴだ。じゃがたらはグルーヴの海で自由にサーフィンを楽しんでるような印象を受けたが、ブッタブランドは重めのレンガを一つずつ積み上げて堅牢なグルーヴの城を作り上げているような、そのくらいの違いがある。何言ってんのかわかんねーって感じだろうが、私にもわからない。でも、音楽が人に与える感激の中には言葉にできない部分だって絶対にある。そして、理論だった言葉で良さが説明できるからといって、そうでない音楽より優れているということでもない。あんまりランキングのことは考えずにここまで書いてきたけど、こんなにすごいアルバムが73位なのは、ちょっとなあ!

しろみけさん

 これまでBUDDHA BRANDを聞いたことがなかった。とはいえ、「人間発電所」のビートはフリースタイルで何回も聞いたことがある。それだけじゃない。いわゆる日本語ラップ界隈におけるBUDDHA BRANDの存在感は、他の島に生息している自分であっても容易にわかるものであった。
 その上で『人間発電所』を初めて聴き、この人たちが崇拝される理由が十分にわかった。とにかく退屈する暇がない。そして何より、「この人たちに会いたい」というより「この人たちみたいになりたい」と思わせてくれる。これなら俺にもできる…というより、できなきゃ嘘? フォークとかパンクよりもそう誘ってくるというか、こうも生き様と言葉が膠着化しているといよいよ言い訳できない。これから自分が急にラップを始めたとしたら、その原因は間違いなくBUDDHA BRANDだろう。

談合坂

 この企画で出会うと思っていなかった(もちろん出てくるべき作品なのですが…)のもあって、てっきり全然知らない作品だと思って聴き始めたら「人間発電所」のあのビートが流れてきて思わず膝を叩いた。
 リズミカルに鋸を引くみたいにざくりざくりと目の前を切り開いている。そして90年代を生きていることをこれでもかと刻みつける。ガキの頃にこんなかっこいいもの聴いちゃったらどうなっちゃうんだろう。

 かっけ~!やべえで!!この企画を通して「頭がキレないとパンクはできない」ことが分かったんですが、「人間発電所」聴いてスマートじゃないと音楽出来ないな!と思った。後半、「大怪我」における声の重ね方とギミック一辺倒にならないサンプリングセンス、「魔物道」の「ou」で踏み続ける小気味良さ、その流れで繰り出されるBPMを抑えベースラインで腹の下あたりをかき混ぜるような「人間的発電所」のトラックオンリーの7分間!考え尽くされている。そして理屈じゃない威風堂々とした火力。イルとかドープとかは皆さんのことだったんですね、、、。今のシーンでいうとsummit周辺のスマートさに通じる美学も受け取った。めっちゃかっこいい!そんでこれ聞くと湘南乃風とか流行った理由もちょっと分かる。加藤ミリヤのプロデュースもしてると。

みせざき

 日本人でもあまり意味が分かりにくいというか聞き取りづらい歌詞だが、偶に聞こえる意気揚々とした宣言みたいなセリフがかっこいいなと思いました。
 基調となるビートが少し篭り気味で湿り気味なサウンドがまた聴き心地が良かったです。一番近い印象はNasでしたが、所々で入って来るマッシュアップみたいな音源は音楽オタクの一面もある本人達の視野の広さも感じ取ることが出来ました。

和田醉象

 なんやかんや今まで聞いてきたのって、INU的に言えば「中産階級のガキども」がやってるわ、みたいな育ちの良さがあったけど、一音目からこれは「わ、本当のヒップホップだ!」ってなった。けど、どうだろう。そこ以外パッと感じるところがないというか、世の中の他のヒップホップとの違いがわからない。
 今まで聞いてきたものにはそれぞれ特徴や歴史的経緯があって、それで差別化して聞くことができたけど、なんか俗的な日本のヒップホップという枠で考えると、それの域を出ていない感じがして、逆に特徴がないと感じてしまった。(こういう系譜の音楽は100%このアルバムが出発点というならすごいと思うけど)
 通ってない音楽だから、枠組みで聞いてみようと思ったけど、やっぱりヒップホップようわからん。。。

渡田

 この企画でいとうせいこうやスチャダラパー等のヒップホップを経験していたが、それらよりずっとヒップホップとしてわかりやすい。ジャンルに疎い自分でも、ステレオタイプに適っていたお陰で取っ付きやすかった。
 これも狙った演出なのだろうか。それこそ、最初の曲の古いテレビのチャンネルを変える時のノイズでフレーズが切り替わる演出は、ヒップホップのジャンルそのもののパロディのようにも感じた。各フレーズの間隔が密なのもあって、どの曲もCMで聴くワンフレーズのように耳に残る感じがある。

次回予告

次回は、コーネリアス『FANTASMA』を扱います。

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