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Jimi Hendrix Experience『Are You Experienced?』(1967)

アルバム情報

アーティスト: Jimi Hendrix Experience
リリース日: 1967/5/12
レーベル: Track(UK)
「『歴代最高のアルバム』500選(2020年版)」における順位は30位でした。

メンバーの感想

The End End

 エレクトリック・ギターが道具から目的になった瞬間だ。ピアノよりも安価で同じくらい習得の第一ハードルが低い伴奏楽器として普及したギターが大音量化の需要に応えてアンプリファイドされた姿としてではなく、ファズ・ペダルとオーヴァードライヴしたアンプから生まれるサウンドそのもののための存在として紛れもなく輝いている。演奏されるフレーズも、ピアノでも鼻歌でも決して作れない、ギターという楽器の構造によって生み出され得るものばかり。
 ギタリストという肩書きは、本質的にはジミ・ヘンドリックスが用意させたとさえ言えるんじゃないか。B.B.キングはこうして見ると"恐ろしくギターの上手いブルースマン"だった。

コーメイ

 一曲目から、"うわこれすごいっ"となった。ギターのビリビリがアルバム全体を覆い、なおかつジミヘンのダミ声だけれども、ずっと聴いていられる不思議な声の相乗効果によって、このアルバムを不朽なものにしている。これらのジグザグな音をもう一度辿ってみたい誘惑に駆られる作品であった。

桜子

 巧みなテクニックで弾き倒して聴き手を圧倒する事だって出来るのに、その選択肢にハマっていないところがカッコいいと思いました。空間としての聴き方でも楽しめるし、構成美を楽しむ事もできる。どこにも留まっていない。

湘南ギャル

 音が良すぎる。ずっと良いしあまりにも良い。突き抜けてくる強い音なのに、しつこさやうるささを全く感じさせない。彼から影響を受けたギタリストなんて星の数より多いってことは歴史として知っていたけれど、それでも、こんな音聞いたことない気がしてしまう。今まで、ギターがたった一音でこんなにも存在感と色気を出せる楽器だって知らなかった。

しろみけさん

 冒頭「Foxy Lady」のミックスから面食らった。ずっとジミが左耳にいる……。その後も続くギシャガシャのギター、とにかくラウドなリズム隊。もちろんライブでこんなの浴びたら痙攣しちゃうくらいカッコいいだろうけど、パンニングや型破りな音の配置でドラッギーに演出しちゃうスタジオ盤も大概だ。こんなのが教科書だなんて、後年に学ぶ生徒たちのこともちょっとは考えてほしい。

談合坂

 のっけから飛び出すジミヘンコード。エレキギターの音楽はこれから楽しくなる一方なんだという喜びがある。それに、録り音と音響効果の振り方がとにかく気持ちいい。ジミヘンの音楽の知名度に対して、優れたスタジオワークという側面はまだ語られ足りていないと思っているのだけど、ここにはヘッドホンの時代にあってこそ感じられる面白さというのもかなりあるかも、なんてことも思う。

 ギターが上手い人って、如何に「弾かないか」を選択できる人なのだろうなと聴いていて思う。同時に、ギターが上手い人って、歌も上手いなと聴いていて思う。爆発的なソロよりもトータルバランスを優先しているからこそ生まれたアルバムとしてのまとまりがあります!

みせざき

 昔から大好きだが今改めて聴いてもやっぱりカッコ良すぎます。ギターが自由自在に、また変幻自在に爆発している様子が確認できる。ギターの音もあまり歪みが控えめながらもローが少し多めのファジーな音作りが最高に聴いてて気持ちいいです。(特に「Purple Haze」のイントロの音)
 勿論ただ爆発するだけでなくて、繊細な音も余す事なく表現していて、特に「The Wind Cries Mary」ではハンマリング・プリングでギターの崇高性を最大限に発揮させました。
 大好きな映像が1968年のマイアミポップフェスで「Foxy Lady」をやった時、観客が完全にポカーンとした様子の中ジミが勢いよくフィードバックと思いっきり身体を使ったパフォーマンスを繰り広げている姿が確認できます。当時は何が起こってるのかが分からなくても、今私達が見たら分かります。それはエレキギターの全てを表現したパフォーマンスであることが。

六月

 ラフに聴くことがだいぶ難しいというか、だいぶ聴くのに体力を使うアルバムで、結構エグ味が強すぎるような気もする。「Red House」なんか体調がすぐれない時に聴くと思わずオエッとなりそうなくらい濃厚な音がしている。僕にとってジミヘンは、数あるミュージシャンの中で唯一人智を超えた神性のような、人ならざるもの強く感じる存在なのだけれども、そう言った超越したものが、ほぼほぼ何の装飾もなく剥き出しで出されていて、それはいわば、ロックやポップをはみ出しているということでもある。ジミヘンの音楽は、祈祷とか、呪術に近い。

和田醉象

 Foxy言うてますけど、ジミヘン本人が一番Foxyやね。
 本当に久しぶりに聴いたけどギターがうますぎる。うまいといっても、世の中には憧れるギターのうまさや、そうでない尊敬(例:富士山のことを美しいと思っても富士山そのものになりたいとは思わない)もある。だけどダントツでジミヘンは前者だ。
 彼はギターアドリブのフレージングはその場で自分の頭に浮かんだものをそのまま弾いているのだという。ある程度ギターが上手くなればそういったことは自分でもできるのかもしれないけど、この人は頭の中にあるアイデアの泉からして違う。ぼくんところの泉はどうも沼地みたいにくすんだ色なんだけど、ジミヘンのところのはどうもめちゃくちゃうまい果汁が勢いよく吹き出しているような。内容物も勢いも違う。その勢いのまま、ギターが自分の腕の延長になっている。
 この後の作品になると結構作品全体の構造を考えて取り組んでいく傾向があるようだけど、この頃は一曲一曲に対してもてる限りのイマジネーションを使い果たしてやり尽くしている感じがする。そういう意味でも飛び抜けててとても力!という感じがして素敵。

渡田

 ジャズや綺麗な音の音楽が続いてきた中、素早く刻み込むようなギター、うねるギターが何の前触れもなく突然現れた。どうしてこの時代にこの音が生まれるのか、ルーツが全く見えなくて困惑したが、よく考えるとちゃんと伏線があったようにも思う。以前から出てきたドアーズとかベルベッツとかジェファーソンエアプレインとか、ジャズやフォークが主流を担う水面下から現れ出した、正気じゃない人達の一人なんじゃないか。
 ドアーズは曖昧に、ヴェルヴェッツは荒削りに、ジェファーソンエアプレインはポップに、それぞれアンダーグラウンド精神を表しているのだとしたら、ジミ•ヘンドリックスは繊細にその精神を表しているように感じる。極めて細かく縫われた豪華な紫色の絨毯みたいな、技術の粋を尽くした息を呑む妖しさがあった。

次回予告

次回は、Beatles『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』を扱います。

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#音楽
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